【百科詩典】へんなはなし【変な話】

まことに逆説的なことですけれど、「誰もしないような変な話」をする人の方が「誰でも言いそうなこと」を言う人よりも、ずっと説明がうまくなるのです。
あまり言う人がいませんけれど、これは僕が長くさまざまの人の書いたものを読んできて得たひとつの経験知です。「変な話」をする人は説明がうまい。
そして、その人が説明のときに動員する大胆なロジックや、思いがけない典拠や、カラフルな比喩や、聞き届けられやすい言葉の響きによって、その集団の言語は豊かなものになります。
その人の知見が集団的に合意され、共有されるところまではなかなか行きませんが、その人のおかげで「言葉が富裕化する」ということだけは確実に達成されます。
そして、言葉が豊かになればなるほど、その集団では「誰も思いつかなかったこと」が口にされるチャンスが増大する。論理が複雑になり、語彙が豊かになり、説得力のある話し方に人々が習熟するようになる。
僕はそういう豊かなアイディアと複雑な言葉を持っている集団の方が、みんなが同型的なアイディアを似たような口調で繰り返す同質性の高い集団よりも、生き延びる力が強いだろうと思っています。

~内田樹