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占いって実は残酷なんじゃないか

あなたは占いを信じますか?

私は若いころ、占いに頼っていた時もあります。
将来が不安で、心のよりどころにしていました。
それよりも、どこかで自分を肯定して欲しかっただけなのかもしれません。

夫と付き合い始めたころ、友人が私を心配して占い師を紹介してくれました。
日本滞在は4年と決まっていた外国人なので、彼が私と真剣に付き合おうとしているのか、占いで見てもらえばいいんじゃないか、と提案してきたのです。

彼との相性云々の前に、私の運勢を見てくれました。
当たると評判の、占い師のおじさんは、名前と生年月日を書いた紙を見て、「ふむふむ」と言いいながら、いろいろと書いていきます。
私の性格や運勢を言った後、なんてことない、といった口調で一言つけ加えました。

「親を殺す、後家さんになる、という運命がありますね」

ん?親を殺す??
私は殺人者になるってこと?

おじさんは「ハハハ」と高笑いします。
「いや、殺人者になるってことじゃないですよ」

もう一つの『後家』というのは、『夫と死別し、再婚しない女』という意味です。
その後のことはすべて吹っ飛んでしまい、夫との相性など、いろいろと占ってはもらいましたが、私は何一つ覚えていません。

帰り道、私は友人に、
「親を殺す、後家になる運命って酷くない?!」
と言い続けました。
親を殺すか後家になる、という二者選択なのか、両方起こりうるのか、「そういう運命がある、としか、私は言えません」と、曖昧なままでした。
友人も、「先生はそんな言い方してたよね」と言い続けるだけでした。
そうしか答えようもなかったのでしょう。

時が絶ち、私は父の「異人さんとだけはやめて」の言いつけを破り、フランス人の夫と一緒に住むことにしました。父からは猛反対を受け、「勘当する!」と言われてしまいました。
大好きな、大好きな父でしたが、その父よりも好きな人ができてしまったので仕方がありません。もう会えないかもしれないと思うと、胸が張り裂けそうでしたが、それ以上に夫といたい、という気持ちが勝っていたのです。

「勘当する」と父に言われた次の週、母が心配して東京に飛んできました。
夫と会い、言葉は全く通じませんでしたが、夫の人となりが分かったようで、家に帰って父に「いい人みたいやよ」と、私を許すように説得してくれましたが、勘当されたままでした。

その一年後、私は卵巣ガンになりました。
それと同時に、父が原因不明で体調を崩し、入院しました。
母は夫を連れて父の見舞いをするよう、私に伝えました。
私はこれが最後のチャンスかもしれない、なんと言われようとも、夫を父に会わせたい、そんな一心で実家に向かいました。
震える手を抑えながら、病室のドアを開け、父の顔を見ました。
父は私を見ず、夫を見てポツリとつぶやきました。

「ワシもう、ええな」

父は手を差し伸べ、夫と握手をしました。そして夫の手を強く握りしめ、何度も「このアホを頼みます」と言いました。こうして父は、私たちのことを認めてくれ、それから毎週末、私たちは父を見舞いに実家に通いました。
父は常々、「お前が嫁にいかんと、死んでも死にきれへん」と言っていました。
私がやっと一生一緒にいたい、と思える相手が見つかったことで安心したのでしょう。
この世に思い残したことはもうない、とでもいうように、父は日に日に衰えていきました。
父には私が卵巣ガンを患っていることは伏せてありました。

3週間が過ぎた時です。
仕事の半休を取って病院に行くと、今後の手術の方向性を教えられました。
卵巣両方、子宮、脚の付け根のリンパ、そしてガンが癒着しているであろう、腸の一部を取り除く手術をする、と宣告され、内科のなかでも大手術の一つだ、と説明されました。
私は自分のおかれた状況に呆然とし、どうやって会社に戻ったか覚えていません。
ただ、最寄りの駅から会社への途中、急に力が抜けてその場にへたり込んでしまいました。
誰かに励ましてもらいたくて、夫に電話をしましたが、打ち合わせ中なのか出てくれません。
気が付けば、母に電話していました。
電話の向こうの母は、元気がありません。
「どないしたん?」
一瞬間があった後、心ここにあらずのように答えます。
「お父さんな、あと一週間しかもたへん、って今日病院の先生に言われたんや」
自分のことなどすっかり忘れてしまい、私は天を仰ぎました。

「私はどうなっても構いません。どうかお父さんを助けてください」

私の願いは叶えてもらえませんでした。
その4日後に、父は亡くなりました。

葬式を済ませ東京に帰ると、知り合いから他の病院を紹介され、詳しく調べた結果、とても稀な卵巣ガンだったことが分かり、卵巣を一つ取るだけですみました。

父は、私の取られるはずの内臓と引き換えに、その身を捧げてくれたのでしょう。
そして、これが『親を殺す』ということなのだと思いました。

こうなることが、私の運命だったのでしょう。
運命は変えられないのだとしても、それを事前に知らされるなんて、占いって時には残酷です。

親を殺しただけでなく、後家にもなる運命だとしたら、私の運命は最悪ですが、その可能性があるのだとしたら、毎日夫との時間を思いっきり楽しめば“ええじゃないか”と思いながら、今は生きています。


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