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《⑥十人十色の自己決定》北欧留学に学ぶ障害者福祉の在り方《デンマーク人にインタビュー》

今回のこのシリーズでは、
初めてエグモントの教員に聞く
ということを試みた。

これまでは、障がいを持つ学生を
日々支えるアシスタントや、
学校生活をサポートする
アシスタントティーチャーに
インタビューしてきた。

私には、
彼女にインタビューをすると
決めた理由があった。

初めて体育館で全校生徒が集まる
オリエンテーションのあるイベントの中で
『私はゲイだ。』とみんなに話した学生に、
誰よりも大きな歓声と
拍手をしていたのがニナだった。


彼女の目が少し潤んでいるようだった。
はつらつとした彼の姿や勇気に
感じるものがあったのか、
それとも、
あの一瞬で多くを味方につけた彼の人柄に
対する拍手かどうかはわからない。

とにかく今起きたことを拾い上げる
その瞬発力と明るさに
私は引き込まれていたのである。
それは、私だけではない。
生徒から絶大的な人気をもつニナ先生。
彼女はいつも自然体で、よく笑う。
そんな彼女にインタビューをしてみた。


障害者と健常者


明るくて気さくなニナ先生。


ニナ先生には、
《学生同士がサポートし合う関係性の中で
先生として気をつけていることは何ですか?》
と質問してみた。

「まず、アシスタントになる子には
①障害をもつ学生のことをリスペクトすること、
②彼らのことを恥ずかしがらないこと。
③『自分は彼らを支えているんだ』と
いう誇りと責任を持つようにと話しているわ。

そして障害を持つ学生にも、
同じように
①アシスタントをリスペクトすること、
そして彼らには
②自律すること、
③言いたいことや思っていることは
必ずクリアにするようにと話すの。
お互いに思っていることを言い合って
クリアにすることは
すごく大切なことだから。」
と話してくれた。

続けて、アシスタントの目線から
《障害を持つ学生の
自己決定を支えるにはどうすれば良いか?》
と私が尋ねると、
何度もこの質問を聞いてきたかのような
優しい笑顔を浮かべた。

「大きく分けると
2つのパターンがあると思う。
1つ目はやりたいことが明確で、
かつ、
たくさんある子の場合。
やりたいという気持ちばかり
先行している子には、
まずやりたいことを
どうやってするのか、
いつ、どこでなどと
具体的に考えさせてあげる。
そうすると、少しずつ自分の中で
優先順位が見えてくるようになる。

そして2つ目は、
自分でなんでも決めてこなかった子の場合。
やったことのない子にとっては、
自分がやりたいことのアイデアが浮かばないの。
だって今までやってこなかったから。
そんな子がいきなり、
自分で決めて何かをやる、
行動することは
すごく、すごく難しい。

だから、そんな時、アシスタントは
それがどんな気持ちか相手の立場になってみて
考えることが大切だと思うの。
そうすると
どんなサポートが必要か
見えてくると思う。」

感情がないわけではない。
今まで自分の人生を選択するのに
自分以外の誰かや何かが
大きく影響していたのだ。

私自身に置き換えてみると、
これまで私は
自分の人生は
自分で決断してきた。(と思う。)
だからこそ、
この時のニナの話は、
すごく印象に残っている。

要は
私には決断できる機会がこれまで
たくさんあったというだけで。
もしも、そうじゃない人と自分が
同じ状況にあったなら、
きっと決断する勇気はなかったかもしれない。

このニナの2つのパターンの話は、
そんなふうに相手を想い
歩み寄る考え方を教えてくれたと
感じている。

エグモントホイスコーレンの入り口

それをノーというのは私の仕事じゃない。

感情と事実の間で
自己決定に迷った時がある。

例えばこんな感じに。
障害を持つ学生で、
チョコや高カロリーなものは
控えるようにと医者や家族から
言われている子がいたとする。

アシスタントも勿論それを知っていて、
買い物に行った時のこと。
その学生がチョコを握りしめて
『これは私の自己決定だから』という。

そんな時、あなたならどうする?
といった内容だ。

買いたいという感情、
「いいよ」と言ってあげたい自分と、
控えるようにという事実、
アシスタントとしての責任。

私は正直、迷っていた。
でもニナの答えは明快だった。
「もし、
私がアシスタントだったとしたら、
それをNOということは、
私の仕事じゃない。
だって、
あなただったら怒るでしょ?
買うべきだと思う。」

この時、
私はこの学生には
『障害がある』ということが
自分の中で
邪魔をしていたことに気付かされた。
勝手に区別していたのだ。
自分とその学生を。

ビールやタバコを吸う人にあなたは、
急にやってきて、
突然「ダメ」と言えるだろうか。

数日前の医者の判断で、
自分のルーティーンや楽しみが奪われたら
どんな気持ちだろう。

続けてニナは
「もし、それが緊急性のある場合や、
社会的なサポートを必要とする場合なら、
とことんディスカッションするべきだし、
親も少しは理解するべき。
あなた(親)が操作することじゃない、
その子の人生だからね。」

なんだか
すごくかっこいい。

先生ってのは、
どっちかといえば、
親の味方なのかと思っていた。

でも、ニナは違っていて、
いつも近くでそばにいる学生達と
きちんと向き合っているからこそ、
リスペクトしているからこそ、
この言葉が出るんだと感じた。

同時に私は、
このインタビューの中で、
何度も自分の意見を言い切れる彼女に
ただただ心が動いていた。


今シリーズの記事について

《十人十色の自己決定》は
「健常者と障害者」
という目には見えない隔たりに
疑問を感じながら飛び込んだ
北欧デンマークにある
エグモントホイスコーレンでの学生lifeは
「環境さえあれば、障害なんて越えていく」
まさにそんなワクワクドキドキが
止まらない日々だった。

エグモント卒業間近にふと考えた
「障害のある人の自己決定」について
障害のあるユーザーをサポートする
様々な人にインタビューした。


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