factfulness赤と青

カバーデザインはこうして決まった(2) 赤と青とどっち?『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』編集つぶやき

さて、前回に続いて『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』のカバーデザインはどう決まったのかをご紹介します。装丁家のtobufune小口さんからいただいた5つの案のうち、D案で行くことに決めました。


ここから微調整を始めます。コピーを再検討したり、色味を考えたりしていきます。最初に悩んだのは、タイトルを赤文字で行くか、青文字で行くかーー。本屋さんの店頭での目立ちやすさを考えたら、やっぱり赤文字ですよね。でも、青もかっこいい。

当時、本屋さんの店頭でベストセラーとして売れていたのが、『1分で話せ』という本です。この本は、編集がSBクリエイティブのベストセラー編集者の多根さん、装丁は『ファクトフルネス』と同じtobufuneが担当されていました。本屋さんの店頭でグレーな地に赤文字が映えていた『1分で話せ』を見て、ファクトフルネスも同じく赤文字にしようかなと考えていました。

ただ、ここでやっぱり、「思い込みはいけないな」と考え直して、社内外の人たちに「タイトルの文字、選ぶなら赤と青どっち?」と聞きまくりました。すると、またまた意見が分かれました。

赤文字派:タイトルが見やすい。書店の店頭で目立つ。

青文字派:青文字のほうが教養書のイメージ。スタイリッシュでかっこいい。

そう、どっちも正しいんです。悩ましいので、tobufuneの小口さんに電話をかけて聞いてみます。

中川  :小口さん、赤と青、どっちがいいですか?

小口さん:それはお任せしますよ。

中川  :店頭で目立つのは赤なんだけど、青もいいんですよね〜。

小口さん:目立つかどうかで言ったら、そりゃ赤ですね。あとは好みですね。

中川  :うーん、うーん。もうちょっと考えます。

というわけで、相変わらず悩ましいままです。

タイトルは赤?青? SNSで投票が始まる

こんな話を訳者の上杉さん、関さんとSlackでやりとりしていたら、上杉さんからこんな書き込みが。

上杉さん:赤と青、ツイッターで投票してみたいですね。Facebookも画像で投票できるようになったみたいです。

さすが上杉さん! 私がうだうだ悩んでいる間に、この行動力。ああ、見習いたい。早速翌日からツイッターとフェイスブックで投票が始まりました。

そして丸1日、みなさんが投票してくださった結果がこちら。ツイッターが青派、フェイスブックが赤派、合計では青に軍配が上がりました。

上杉さんが投票を呼びかけてくれたおかげで話題にもなり、アマゾンでのランキングは数万位台だったのが一気に400位台に急上昇。カテゴリー別では1位になりました。つまり、投票してくれた人たちが、実際にアマゾンで予約をしてくれていたわけです。通りすがりの人じゃなくて、お客さんが選んでくれた結果は最大限に尊重したい。それに、『ファクトフルネス』はデータを基に考えようという本ですからね。タイトル文字は青で行くことに決めました。

才能ある人のじゃまをしないのが編集者の仕事

さて、ここまで読んでくださった方の中で、「編集者って人に何か頼んで、聞いて決めてるだけじゃね?」と思われた方がいるかもしれません。まあ確かに(笑)。逆に、編集者として私がこれは「しないようにしよう」と思っていることがあります。それは、才能ある人たちのじゃまをしないようにすること。

才能がある人というのは、まずは『ファクトフルネス』著者のハンス・ロスリングさんたち。このすばらしい本の足を引っ張らないよう、デザインや中身の編集には全力を尽くしたい。そして、訳者の上杉さん。上杉さんがSNSで投票をしたいと言ってくれたので、遠慮なくありがたく大賛成してやってもらう。

そして、装丁家の小口さん。小口さんには色々と相談しちゃいますが、装丁デザインにはなるべく細かい注文をしないように気をつけています。よく「タイトル文字をもっと大きくしたほうがいいのでは?」「もっと太くしたほうがいいのでは?」「このコピーをもっと大きくしたほうがいいのでは?」といった意見を社内/社外の関係者からもらいます。でも、装丁家はタイトルだけじゃなく、帯のコピーや全体のバランスをとってデザインしています。単に文字を太くしたり、大きくしたりしたら、全体のデザインがおかしなことになっちゃうんですよね。

ただ、小口さんに忖度して黙っていたら思考停止になってしまう。気になったらやっぱり相談すべき。でもそのときは、「文字を大きくしてほしい」といった手法でお願いするのではなく、「目立たせたい」という目的を言うようにしています。今回は、メインタイトルの「FACTFULNESS」にしても「ファクトフルネス」にしても、意味がわからないので、サブタイトルの「10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣」を大きくしたほうがいいのではという意見を小口さんに聞いてみました。

中川  :ひとつご相談があるんですが、タイトルの意味がわからないし、何の本かわからないので、サブタイトルをもっと目立たせたほうがいいっていう意見があったんですよね。たしかにそうかなと思うんですが、どうにかなりますかね~?

小口さん:うーん、このデザインだとサブタイトルは少ししか大きくできないんです。多少大きくしたところで、手にとってみないと内容がわからないのは同じですよね。そうすると、今のままでスペース(余白)を生かしたほうがいいと思いますよ。

中川  :確かに! じゃあ今のままでお願いします。

はい、納得したら速やかなる撤退です。でも、そのほうがいいデザインになるから、いいんです。そしてD案、青文字というところまで無事に決まりました。ところが今度は、カバーの地の色で再び悩むことになります。(次に続く)

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