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記事一覧
『短歌人』2021年12月号掲載五首
キンモクセイが香る季節となりました夏にわかれはなかったけれど
庭の木に雀あそべる秋の日に部屋の中までキンモクセイの香
並盛のなみとおなじかナミアゲハ頭に翠のティアラがひかる
実らない花がしぼんで落ちてゐる一度は咲いた高原の道
下校時の学校の空あかね雲ドヴォルジャークは家路をせかす
『短歌人』2021年11月号掲載五首
川岸のヤナギは死ねり現れし五人の男が重機を駆りて
あつけなく茶色となりぬ青々と川をいろどるヤナギの枝は
堤防に積み上げられてヤナギらは雨風を受く染み込むやうに
鳥の声めつきり減りて川辺には堤をくだる水のむなしさ
チタン製箸の曲がりが気にかかる普通の箸に曲がるものなし
『短歌人』2021年10月号掲載五首
絶望がまだまだ足りぬヴィヨロンを弾くといふこと雲上のこと
人を待つ時間はやがて煮詰まりぬ梅雨の最後の空濁りたり
朝明けの水まきをする庭にゐてダックスフントを抱く人がゆく
アジサイが花芽をつけし七月は咲くにはすでに遅すぎた夏
珈琲を続けて二杯青空があをさを増して来る頃に飲む
『短歌人』2021年09月号掲載五首
夕やけが庭の椎の木染めてをり光のふくむ色をおもひぬ
ポジティブな選択としての逃避行オイルが採れる砂漠へ行かむ
砂丘とか砂嵐とかオアシスをそこに住みつついつかは観たし
サクランボ届け奈良県今ごろは鹿や埴輪がやつてくるらむ
琵琶の木がそだちにけりな収穫を待たずに遠くはなれしひとよ
『短歌人』2021年08月号掲載五首
スズランの鈴ひとつづつ欠けてゆきいつかはおはるいのちのながれ
歌詠ふ熱がどこかへイッチャッテそれでも迫る月十二日
シジュウカラ巣立ちしのちの巣箱にはふかふかとした苔と毛の床
生け垣の紅かなめの枝落としたり悲鳴も上げず切られてをりぬ
晴れわたる五月最後の朝のそら五週目なればごみ出せぬなり
『短歌人』2021年07月号掲載五首
木蓮が散らす花びら重なりて足すべらせる上りの道で
花が咲くイロハモミジは甘からむメジロの二羽が啄んでをり
はらはらと花びら散らす木蓮の林は乳白色の神殿
突然の桜ふぶきにどよめきの声 ひとびとをひとつにしたり
明かり消し闇のおとなひ待ちゐたりひとり夕餉の席にすわりて
『短歌人』2021年06月号掲載五首
この庭と河原を往き来するツグミ渡りを前にミミズをあさる
アジサイの苗が出たとのメール来て我が家、紫陽花寺化計画
なによりも早くスミレが満開にわがやの先をあまくつつみぬ
まつすぐに植ゑたつもりの花壇にはくねりて並ぶチューリップの芽
明確に強い殺意がありました合歓木の芽はすべて引き抜く
『短歌人』2021年05月号掲載五首
西の空白く大きな月のこる冬のおはりを告げる三月
高カロリーメニューはうまし さはあれど週明けに履くズボンのきつさ
睡眠は眠くなったら寝ればいい立ち待ちの月の照らす枕辺
春風がコートの背中脹らますぬかるみを行く足のまにまに
松川のほとり二時間さすらへば彼岸に向かふことたやすけれ
『短歌人』2021年04月号掲載五首
冬空のペテルギウスの赤さほど冷めてしまひし短歌の熱量
千年余ゆるくながるる歌の川その行くところわれは歩みつ
珈琲を日に六、七杯ながしこみ今にもねむる五臓をたたく
左からレバーブローを叩き込む一瞬前のフェイントの妙
渋柿のやうな頑固さ溶かすすべきつとどこかにあるさんぽみち
『短歌人』2021年03月号掲載五首
木枯らしが師走をなでて空はるか乾く空気に冷えてゆく肺
川上へ向かふ白鳥なつかしく霜降る里にいま帰りきぬ
冬の日の凍れる空気ここちよく白く吐きだす蒸気のかたち
冬薔薇は小さきつぼみ艶やかに紅いろ霜をのせてかがやく
霜の日の薔薇のつぼみの紅しみて朝日射しこむときかがやきぬ
『短歌人』2021年02月号掲載五首
がちがちの花壇の土に鍬ふるふチューリップまつ春のためなら
風つよみ空たかだかと秋晴れの家で一日ごろごろとする
重さにはさまざまのあり道遠し足は鉛と引きずるばかり
自分には出来ぬことありたくさんの花を花壇に咲かすこととか
木の葉散る秋の陽射しに透けながら空にのぼりしたましひひとつ
『短歌人』2021年01月号掲載五首
自分では買ふことのないティーバッグ緑茶の香り部屋にのこれり
焼きそばが麺だけでしたニンニクを炒めて作る台湾風に
仙台のチーズタルトを食べ比べ冷やした方が美味しかったね
押印を廃止するてふ改革のゆくへはしらず印鑑証明
擦りたるものに現はるアラジンの消え去るだけの刹那のこころ
『短歌人』2020年12月号掲載五首
左手の大きな池に蓮が咲く気の逸れたままにぎるハンドル
蓮の花 花びらよぎる目の前にめり込むボディ散らばる欠片
押し出されさうになりつつ阻まれて脚は折れたり うっちゃりと言ふ
関取の膝の包帯ぶ厚けれ顔に出さねどいかばかりかは
町内に蒲萄園あり気まぐれに門をくぐれば棚の木もれ日
『短歌人』2020年11月号掲載五首
行く夏を追ひかけていくキアゲハは卵うみつけ羽ふるはせる
頭上には空一面が灰色の湿りし朝に子ども泣く声
腐葉土の入つてゐない土もある山野草用土といふなり
おほははの十三回忌あつまれる伽藍のしたをクロアゲハ舞ふ
報告書つくりあげたるこころ晴れいかやうにでも歌はわきいづ