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『雲の色とか』

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既発表の自作短歌を集めています。 H26年1月~現在。 H28年「異人の祈り」にて第一回石井僚一短歌賞候補 H28年7月号から短歌人会。
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記事一覧

『短歌人』2021年12月号掲載五首

『短歌人』2021年12月号掲載五首

キンモクセイが香る季節となりました夏にわかれはなかったけれど

庭の木に雀あそべる秋の日に部屋の中までキンモクセイの香

並盛のなみとおなじかナミアゲハ頭に翠のティアラがひかる

実らない花がしぼんで落ちてゐる一度は咲いた高原の道

下校時の学校の空あかね雲ドヴォルジャークは家路をせかす

『短歌人』2021年11月号掲載五首

『短歌人』2021年11月号掲載五首

川岸のヤナギは死ねり現れし五人の男が重機を駆りて

あつけなく茶色となりぬ青々と川をいろどるヤナギの枝は

堤防に積み上げられてヤナギらは雨風を受く染み込むやうに

鳥の声めつきり減りて川辺には堤をくだる水のむなしさ

チタン製箸の曲がりが気にかかる普通の箸に曲がるものなし

『短歌人』2021年10月号掲載五首

絶望がまだまだ足りぬヴィヨロンを弾くといふこと雲上のこと

人を待つ時間はやがて煮詰まりぬ梅雨の最後の空濁りたり

朝明けの水まきをする庭にゐてダックスフントを抱く人がゆく

アジサイが花芽をつけし七月は咲くにはすでに遅すぎた夏

珈琲を続けて二杯青空があをさを増して来る頃に飲む

『短歌人』2021年09月号掲載五首

『短歌人』2021年09月号掲載五首

夕やけが庭の椎の木染めてをり光のふくむ色をおもひぬ

ポジティブな選択としての逃避行オイルが採れる砂漠へ行かむ

砂丘とか砂嵐とかオアシスをそこに住みつついつかは観たし

サクランボ届け奈良県今ごろは鹿や埴輪がやつてくるらむ

琵琶の木がそだちにけりな収穫を待たずに遠くはなれしひとよ

『短歌人』2021年08月号掲載五首

『短歌人』2021年08月号掲載五首

スズランの鈴ひとつづつ欠けてゆきいつかはおはるいのちのながれ

歌詠ふ熱がどこかへイッチャッテそれでも迫る月十二日

シジュウカラ巣立ちしのちの巣箱にはふかふかとした苔と毛の床

生け垣の紅かなめの枝落としたり悲鳴も上げず切られてをりぬ

晴れわたる五月最後の朝のそら五週目なればごみ出せぬなり

『短歌人』2021年07月号掲載五首

『短歌人』2021年07月号掲載五首

木蓮が散らす花びら重なりて足すべらせる上りの道で

花が咲くイロハモミジは甘からむメジロの二羽が啄んでをり

はらはらと花びら散らす木蓮の林は乳白色の神殿

突然の桜ふぶきにどよめきの声 ひとびとをひとつにしたり

明かり消し闇のおとなひ待ちゐたりひとり夕餉の席にすわりて

『短歌人』2021年06月号掲載五首

『短歌人』2021年06月号掲載五首

この庭と河原を往き来するツグミ渡りを前にミミズをあさる

アジサイの苗が出たとのメール来て我が家、紫陽花寺化計画

なによりも早くスミレが満開にわがやの先をあまくつつみぬ

まつすぐに植ゑたつもりの花壇にはくねりて並ぶチューリップの芽

明確に強い殺意がありました合歓木の芽はすべて引き抜く

『短歌人』2021年05月号掲載五首

『短歌人』2021年05月号掲載五首

西の空白く大きな月のこる冬のおはりを告げる三月

高カロリーメニューはうまし さはあれど週明けに履くズボンのきつさ

睡眠は眠くなったら寝ればいい立ち待ちの月の照らす枕辺

春風がコートの背中脹らますぬかるみを行く足のまにまに

松川のほとり二時間さすらへば彼岸に向かふことたやすけれ

『短歌人』2021年04月号掲載五首

『短歌人』2021年04月号掲載五首

冬空のペテルギウスの赤さほど冷めてしまひし短歌の熱量

千年余ゆるくながるる歌の川その行くところわれは歩みつ

珈琲を日に六、七杯ながしこみ今にもねむる五臓をたたく

左からレバーブローを叩き込む一瞬前のフェイントの妙

渋柿のやうな頑固さ溶かすすべきつとどこかにあるさんぽみち

『短歌人』2021年03月号掲載五首

木枯らしが師走をなでて空はるか乾く空気に冷えてゆく肺

川上へ向かふ白鳥なつかしく霜降る里にいま帰りきぬ

冬の日の凍れる空気ここちよく白く吐きだす蒸気のかたち

冬薔薇は小さきつぼみ艶やかに紅いろ霜をのせてかがやく

霜の日の薔薇のつぼみの紅しみて朝日射しこむときかがやきぬ

『短歌人』2021年02月号掲載五首

がちがちの花壇の土に鍬ふるふチューリップまつ春のためなら

風つよみ空たかだかと秋晴れの家で一日ごろごろとする

重さにはさまざまのあり道遠し足は鉛と引きずるばかり

自分には出来ぬことありたくさんの花を花壇に咲かすこととか

木の葉散る秋の陽射しに透けながら空にのぼりしたましひひとつ

『短歌人』2021年01月号掲載五首

『短歌人』2021年01月号掲載五首

自分では買ふことのないティーバッグ緑茶の香り部屋にのこれり

焼きそばが麺だけでしたニンニクを炒めて作る台湾風に

仙台のチーズタルトを食べ比べ冷やした方が美味しかったね

押印を廃止するてふ改革のゆくへはしらず印鑑証明

擦りたるものに現はるアラジンの消え去るだけの刹那のこころ

『短歌人』2020年12月号掲載五首

『短歌人』2020年12月号掲載五首

左手の大きな池に蓮が咲く気の逸れたままにぎるハンドル

蓮の花 花びらよぎる目の前にめり込むボディ散らばる欠片

押し出されさうになりつつ阻まれて脚は折れたり うっちゃりと言ふ

関取の膝の包帯ぶ厚けれ顔に出さねどいかばかりかは

町内に蒲萄園あり気まぐれに門をくぐれば棚の木もれ日

『短歌人』2020年11月号掲載五首

行く夏を追ひかけていくキアゲハは卵うみつけ羽ふるはせる

頭上には空一面が灰色の湿りし朝に子ども泣く声

腐葉土の入つてゐない土もある山野草用土といふなり

おほははの十三回忌あつまれる伽藍のしたをクロアゲハ舞ふ

報告書つくりあげたるこころ晴れいかやうにでも歌はわきいづ