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お魚しっぽの憂鬱

髪を伸ばそうか悩んでいるんです。

昨日そう書こうと思っていたのだけれど、結局それよりも先に髪を切ってしまった。
幼いころは、問答無用でショートカットにされるのが嫌いだった。
飾り気のない服も相まって、何度「ぼく」と呼びかけられたことか。
「一番それが似合うのよ」と髪を伸ばさせてくれない母のことを恨めしく思っていた。
私だって、みんなみたいに三つ編みにしたり、ポニーテールにしてみたりしたかったから。

高校生になって、はじめて髪を伸ばした。
でも、肩を少し過ぎたところで嫌になった。
癖っ毛でしかも芯が強い私の髪の毛は、どうにも憧れるようには伸びてくれない。
パーマを当てても、全然似合わない。
一体どうしろっていうんだい。
結局、ばっさりと切ってショートカットに戻る。
昔よりも、しっくりきている自分がいた。

最近もちょっぴり、髪を伸ばしたい衝動が芽生えていた。
美容院に行くタイミングを逃して、いつもよりも伸びていたからかもしれない。
いらだって髪をぎゅっと集めたら、お魚のしっぽがささやかにできるくらい。
もうちょっと頑張ったら、今ならいけるかも。
少しだけ、そんな幻想が脳裏をよぎっていた。

まあ、あっさり切りましたよね。
なんならシェーバーで襟足を刈られるくらいに短いですよね。
中学生のときからずっと通っている実家近くの美容院の店長は、切っとく? 切っとくね、とハサミを入れてくる。
抗わなかったから、短くなるのは当たり前だよね。

お魚しっぽは失われ。
私は今日も、真っ黒なショートカットを風にさらす。
うん、これが私。
少しの諦めと、プライドを持って、泳ぎだす。