見出し画像

『サヤカさんの木(ヒバの木)はみんなの心の傘』 モネが登米にいる時間は「迷うための時間」であり、「リードタイム」でもあり、「おまけみたいな時間」=サヤカさんにとっても大切な時間

おかえりモネ、第5週~7週を見て感じたこと。
気仙沼から戻って来る時、菅波先生とモネがバスでばったりのシーンではBUMP「話がしたいよ」をBGMに使ってほしいくらいだった。ぎこちなくて、話が続かなくて…。二人にとっての「おまけみたいな時間」こそ、二人が親しくなるきっかけになったので、あのバスで偶然出会う場面は重要だったなと思う。しかも菅波先生がサメのぬいぐるみを持ってて、気仙沼のカキだけじゃなく、サメもPRしてくれて、気仙沼の人たちはさぞ喜んだだろう。朝岡さんは仮面ライダーをPRしてくれたし、なんかおかえりモネはロケ地の名産をほんと大切に扱ってくれて、いつも感激したくなる。

そして菅波先生とモネの勉強会も始まるわけだが、別にモネが頼んだわけでもなく、約束したわけでもないのに、成り行きで勉強会してるのがいいなと思った。菅波先生は他人を引き寄せないオーラ出してるけど、元は人が好きな人で、新米医師だった頃に何か挫折を味わって、関わらないようにしていただけだろうから、本当は面倒見が良い性格なのだろう。

治療をあきらめていたトムさんに「迷うための時間を作るために」治療を続けてみませんかと提案するあたり、一気に菅波先生の株が上がった気がする。あの、モネがカキを持っていても、りょーちんみたいに持ってあげることもしなかった気の利かない菅波先生が、患者と真剣に向き合って、そんなやさしい言葉をかけてあげるなんて。それもこれも、モネがトムさんのことを先生に相談したからだし、菅波先生とモネはお互い、切磋琢磨し合って、成長し合っているなぁと二人の関係性には憧れを抱く。

それから登米市内の学校に提供することになった学童机。あれは実際登米市の小学校で利用されているものに近いらしいから驚きだ。私が通っていた頃なんて、ほんとがたがたの古かったり、大きすぎたりの昔ながらの机を使っていて、愛着なんてなかった。今の子どもたちはいいなぁ。あんな素敵な机を使っていて。

個人的に一番気になっていた「サヤカさんの木」の回の第7週。ここではまた朝岡さんも再登場して、「リードタイム」について教えてくれた。備えるための時間、危険を予測し、回避するための時間=大切なものを守る時間らしいが、第6週で菅波先生が教えてくれた迷うための時間とリードタイムは似ている気がした。もちろんリードタイムは迷っている場合じゃないんだけど、でも備えるための時間という点では同じだと思う。そこで、モネが登米で過ごす時間もまさにその通りなのではないかと思った。気仙沼から出てきたものの、さてどうしよう…みたいにぼんやり暮らし始めて、気象(空)に興味を抱いて、でも勉強は難しいし、森林組合の仕事は充実してきているし、でもやっぱり何度も朝岡さんが魅力的なことを教えてくれるし…困った、迷う、みたいな心情がまさに、迷うための時間であり、リードタイムでもあると思ったから、モネにとって登米にいる時間は長い人生の中でほんの一瞬だったかもしれないけれど、人生を決めるうえで重要なターニングポイントになったに違いない。迷う時間、備える時間としてのリードタイムは「話がしたいよ」で言えば「おまけみたいな時間」。たかがバスが来るまでのほんの数分、誰と話すわけでもなく、自分の気持ちと対話して、君や宇宙に思いを巡らすあの楽曲の主人公とモネは重なる部分がある。

そして肝心のサヤカさんの木、ヒバの木に関しては、何も語らない、しゃべられない木だけど、みんなの気持ちを受け止める、心の雨から守ってくれる「傘」だなと思った。サヤカさんが木に話しかけるシーンは泣けたし、モネもまたヒバの木に迷う自分の気持ちを相談している感じに見えて、ヒバの木はもはやサヤカさんだけのための木じゃなかったんだなと。元々いずれ誰かの何かの役に立つかもしれないからとサヤカさんが最後の砦として必死に守ってきた木だから、もちろんサヤカさんだけの木じゃないんだけど、ここに来てヒバの木を物としてというより、心の拠り所として、サヤカさんだけでなく、モネもそう捉えるようになった点において、モネとヒバの関係性が進展したように思える。

モネが憧れのかっこいいサヤカさんに近づいたということだろうか。サヤカさんはもしかしたらヒバを守るために四人の男性と別れたのかもしれない。遠く旅立つ男性について行けなかったとか。(私は全員と死別したと想像していましたが…)とにかく孤独なのは、ヒバを守るためだったかもしれないし、だからモネも大切な空を見つけたなら、大切な人たちとの別れも避けられない。サヤカさんの側にいたくても、自分の夢を追うならそれはできないことで、切ないなと思う。
モネの揺れ惑う気持ちを分かっているかのように、ヒバの木はそっとモネに寄り添う。

実際、木は本当に雨宿りとして使える一面もあるけれど、心に降る雨から守ってくれる効能もあるんだなとサヤカさんがヒバに語りかけるシーンで気付いた。ヒバが完全にサヤカさんやモネに傘を差し出してくれているように思えた。

《失くせない記憶は傘のように 鞄の中で出番を待つ》
《失くせない記憶も傘のように 鞄の中で明日へ向かう》

「なないろ」の歌詞にもあるように、《失くせない記憶》を担っているは300年も生きているヒバの木で、その木はついに切られることが決まってしまったけれど、鞄の中みたいな場所(神社)で出番を待って、明日へ向かう。切られてしまっても、別に死んでしまうわけではない。未来で生きるために、老化が進んで倒れてしまう前に切って保存しましょうという意見を尊重したサヤカさん。本当は自分が生きている間は切らずに一緒に成長したかったかもしれない。本意ではないのかもしれないけれど、でも自分のエゴよりも、未来のため、誰かのためにヒバを切って残すことを決めたサヤカさんはやっぱり誰よりもかっこいいと思う。

ヒバを守っているようで、実は独占、束縛してしまっていることにも気付いたのかもしれない。木は動けないから、人間みたいに自分から離れていくことはない。会いに行けばいつだってそこにいてくれる。だから孤独なサヤカさんはヒバの木を唯一、心の支えにして強がって生きてきたんだろうけど、モネと出会って、もがきながらも羽ばたこうとしているモネと出会ってしまったから、サヤカさんの気持ちも少し変化したのだろう。あれだけヒバの木にこだわっていたのに、切ることに賛同したのは、やっぱりモネの成長を一番近くで見ていたからで、側に置いておくことだけが最善とは限らないと、ある意味、ヒバの意志を尊重して、引き下がったのかもしれない。

つまりサヤカさんにとっても、モネと過ごした時間は迷う時間であり、備えるための時間でもあり、おまけみたいな時間だったと思う。おまけというと何かのついでとか付属みたいに捉えられるけど、近年の雑誌はおまけの方がメイン扱いされているように、おまけだからと言って侮れない。むしろおまけの方が重要だったりする。
長い人生、「おまけみたいな時間」という瞬間の方が大切な場合もある。そのほんのひととき次第で、気持ちが変わったり、人生をより良い方向へ進めたりもするから、どんな時間よりも大切な時間が「おまけみたいな時間」だと考える。

サヤカさんもモネもそれから菅波先生も、登米で迷いながら備えながら「おまけみたいな時間」をもらって、自問自答して、それぞれの未来を切り拓こうとしている。それを教えてくれたのが何も語らないヒバの木だったとしたら、やっぱりすごい。言葉なんてなくてもその存在感だけで、教えてくれるものもある。菅波先生もヒバというか木に近づいて来たなと思ったし。モネを荷物で傘みたいに雨から守っていたあたり、雨宿りさせてくれる大木に思えた。みんな少しずつ成長しているんだなということを感じられる第7週だった。

その第7週、33回の観天望気で写真を採用してもらえたことは本当にうれしかった。一番好きなサヤカさんの週で私も忘れがたい「おまけみたいな時間」をもらった。

画像1

#感想 #サヤカさんの木 #話がしたいよ #なないろ #BUMP #おまけみたいな時間 #リードタイム #迷うための時間 #傘 #登米 #ヒバ #観天望気 #モネ


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?