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<孤独な人を掬ってくれる唄> BUMP OF CHICKEN 「流れ星の正体」の全貌

※2019年4月18日に掲載された音楽文です。いろいろ訂正したい箇所はあるにせよ、あえてそのまま転載します。そもそもこの時聴いていた「流れ星の正体」も結局フルではないと後から(アルバム発売後に)気付いたため、全貌というのは間違いということになります。この時点ではこれがフルだと思っていたという前提での文章です。

流れ星のように幻のまま、これ以上公開されることはないのではないかと個人的に危惧していたBUMP OF CHICKEN 「流れ星の正体」のフルバージョンが、藤原基央40歳の誕生日の前夜、4月11日に公開された。オフィシャルサイトとYouTube公式チャンネルでは藤くんの手書きの歌詞も見られる映像となっている。

私は仕事でたくさんの人の手書きの字を読むことが多い。字を見ることが仕事であるとも言える。だから元々、藤くんの字にも興味があった。CDの歌詞カードなどで、見たことはあったけれど、こんなに何度も繰り返し見たのは初めてのことだ。藤くんの字は藤くんの歌声と同じで、弱くて自信なさげで、柔らかくてやさしい字だった。字は本当に性格をよく表す。弱くて自信なさげというのは少し語弊があるかもしれない。歌詞の内容は希望もあるし、力強さもあるから。私は見るからに力強くて自信に満ち溢れた美しく達筆な字より、言葉の奥に力強さのこもっている、藤くんの儚げな字の方が好きだ。

フルバージョンを聞いた夜、私は幸せなままぐっすり眠れると思っていた。けれど、癇癪持ちの家族に安眠妨害された。時々、私はターゲットになる。夜中だというのに、「出て行け」など暴言を吐かれる。家族とのいざこざは慣れている。嵐が過ぎ去るのを布団に潜ってじっと待った。怖さと季節外れの寒さでよく眠れなかった。けれど浅い眠りについた朝方、目覚めた瞬間、昨夜聞いた「流れ星の正体」が頭の中に流れていた。

仕事を終えて、まだ怒りの収まらない家族から逃げるように、隠れ家を目指した。休みの時は、シェルターのような隠れ家に逃げ込むことがある。住んでいる家から近くはない。向かっている最中、私は孤独を感じていた。こんなにたくさんの人たちがいるのに、たくさんの車が走っているのに、私はひとりぼっちだと思った。二十代の頃ならこんな時、夜中であろうといつであろうと会ってくれる友達がいたけれど、今となっては遠くに居たり、それぞれ家庭を持っている。独身の私が寂しいから会ってほしいと気軽には言えない。

<どれくらいざわついていても ひとり> <世界に何億人いようとも ひとり>

まさにこんな心境だった。

ひとりきりで、眠りにつく前、「流れ星の正体」を改めて聞いてみた。
私は今日ひとりだったけれど、バンプのこの曲を聞けたからひとりじゃないと思えた。藤くんの歌声が子守歌のようで、少し泣けた。必死に逃げていたり、恐怖を感じている時は泣く暇もないけれど、孤独なシェルターでは安心して泣けた。

孤独な時はいつだって、バンプの曲に掬われる。ひとりでも平気って強がりを言える。孤独な人を掬ってくれる唄を藤くんが届けてくれるから、幸せそうな人たちを妬んだり、僻んだりしないで平常心を保てる。そして寂しさは会いたいと思える人を思い出させてくれる。寂しくなるくらい会いたいと思える人がいる幸せを教えてくれたのもまたバンプの曲だった。

<君がいる事を 寂しさから教えてもらった>「グッドラック」
<寂しくなんかなかったよ ちゃんと寂しくなれたから>「ray」

寂しい時はいつもこの二つを呪文のように歌って、心を落ち着かせる。

「流れ星の正体」も寂しくなった時に聞く曲のひとつになった。確実に。藤くんが君の空に旅立たせてくれた唄を私も勝手に拾って、勝手に勇気付けられている。

<紙に書かれた文字の言葉は 音を立てないで響く声>
<増え続けて溢れそうな唄の欠片たちが 早く会いたがって騒ぐんだ>

伝えたい気持ちを文字にして、唄にして、最終的には流れ星にして届けるなんて、藤くんにしか作ることのできない唯一無二の音楽だと思う。
私はせいぜい気持ちを紙に書くことまでしかできない。誰かを掬う余裕はなくて、まだ自分の満たされない気持ちを掬うことしかできていないと思う。

「流れ星の正体」を聞いて、思い付いた物語を書いて、孤独な時間の退屈しのぎをしている。いつかは藤くんのように、孤独な人を掬える勇者になれたらと思っているけれど、やっぱりゴールなんて分からないし、見当もつかないから、途中で溺れてしまうかもしれない。それでも何もない一日とは言いたくないから、やらないよりはやった方がいいと思って、こうして書いている。

つらい現実から逃げている間、「流れ星の正体」は私にとって拠り所だった。道しるべとなる希望の星だった。だから仕事が始まって、現実に戻っても、またがんばれる気がする。この奇跡のような唄を届けてくれてありがとうと伝えたい。

なおあえて、助けるという意味の「救う」という漢字は使わず、『流れ星の正体』の歌詞に倣って、取り出す(拾い上げるとも言えると思う)という意味の「掬う」という漢字を使用した。

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