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ヨンシーと弥勒と恵みの雨

臼太鼓(ウスデーク)について興味を持って調べていたら、富盛出身のHさんが、富盛字誌を読ませてくれた。分厚い冊子だけれど、富盛の文化が記されていて、とてもおもしろい。全部を読むのは難しかったので、臼太鼓に関連する箇所を読む。


(1)ヨンシー

富盛(ともり)の十五夜行事では、女行列をヨンシーと呼ぶ。

もともとは、富盛地区の南(フェー)と北(ニシ)の対抗意識が強く、「クバイムン(各演目の配役や役割分担)」や練習場所も区別していたけれど、戦後は合同で演じられる事になった。

衣装は、紺の着物(クンジー)。これは、沖縄各地の臼太鼓(ウスデーク)の衣装と共通している。

(2)大和人行列

大和人行列(ヤマトンチュジュネーイ)が異色。大和風の衣装をつけ、大名行列のように踊る。踊りのかけ声が「シターニ・シタニ」なのがおもしろい。衣装には、丸に十の字が入った紋章が付いており、薩摩支配の名残りをとどめている。兜や提灯、帯刀などの小道具も大和風だ。脛あての部分が、エイサーの衣装に似ている。エイサーが、もともとは大和から入ってきた事も関係しているのかな。大和人行列だけでなく、唐人行列(トーンチュジュネーイ)もある。唐人行列は、中国文化を感じさせる衣装だ。沖縄の文化は、様々な文化が混じりあっていると実感する。

Hさんの話では、開催日は、雨が降ることが多く、雨が降っても日中の道ジュネーイをやるそうで、びしょ濡れでも決行されるそうです笑

(3)綱引き

他にも、旗頭(トゥール)、鉦鼓(ショウグ)隊、芸能宿(ジーヌーヤー)二才おどり、棒術、綱引きなどの演目もある。

旧暦七月のお盆に引く綱は、御迎え綱(ウンケーヂナ)御送り綱(ウークイヂナ)といい、八月十五夜に引く綱は、十五夜綱(ジュウグヤヂナ)という。

【七月綱の目的】
祖先に感謝し、その霊を慰める。

【十五夜綱の目的】
今年の豊作に感謝し、来年の更なる五穀豊穣を願い、除災招福を祈って神に捧げる奉納綱。

七月綱は、あまりにも対抗意識が強く、嫁いだ女性も、実家側の綱を引くことも多かったそう。南北の戦いは、地元愛の強さでもあるのかな。

(4)ふたつの人形

ヨンシーの先頭に立って、場内整理係りの役目として活躍した富盛高人(トゥムイタカッチュー)と呼ばれる人形がある。富盛タカッチューは、南の人形。北の人形は、弥勒(ミルク、ミロク)。ただ、北の弥勒は、十五夜行事にあまりにも雨が多いので、弥勒のせいだろうということで廃止になったそう。本当に弥勒のせいだったのだろうか?弥勒が廃止された現在も、雨は降っている。

(5)凱栄(ガーエー)

富盛では、ガーエーも行われている。

【凱栄(ガーエー)】
勝どきの声をあげて威勢を張り、青年達が両手を挙げ手のひらを叩きながら背中を合わせてぶつかり合う行動。南・北の若者が一つになり村の繁栄と五穀豊穣を喜び、併せて綱引きの志気を高める。綱ガーエーもある。

別名、喧嘩エイサーとも呼ばれる。

ガーエーでも、人集めや志気を高める為に、富盛タカッチューや弥勒を出していたが、ここでも弥勒は雨を降らすと云われ、行事の日に雨が降っては困るということで出番がなくなったと書かれている。

(6)雨乞い

富盛は、湧水に恵まれない土地であり、稲作の出来は天候に左右された。富盛の綱引きは、雨乞いが由来となっている。だけど、雨を降らせる弥勒を使わなくなるという謎。富盛出身のHさんが、「雨を降らせたいはずなのに、雨が降ったら困るっていうのがねえ…失笑」と話していて、その通りだなと思って面白かった。弥勒の出番は無くなってしまったけれど、天からの恵みの雨は、富盛の地を潤してくれている。

(7)おまけ

私が沖縄に来て、おもしろい風習だなと思ったのが、タンカー祝(ユーエー)だ。生後1ヶ月目の誕生日祝いとして、赤飯を炊いてお供えし、そろばん・筆・紙・墨・ヘラ・お金を並べて、赤ちゃんが這って取るのにまかせてその将来を占う。地域や家庭によって並べられる物は異なるけれど、だいたい下記のような意味を持つ。

赤 飯:食べるものに困らない。
そろばん:商売人になる。
筆、墨:役人になる
紙、本:学者になる。
はさみ:裁縫上手になる。
お 金:お金に困らない。

富盛のヘラは、なにを意味するのだろう。料理上手になるのかな。

(8)地域の文化

富盛字誌を読んでいると、地域の文化の成り立ちや、歴史がとても興味深くて、おもしろい。時代によって、変化しているものもあれば、変わらずに受け継がれているものもある。記さなければ、忘れられてしまうものもある。私も自分が生まれ育った地域のルーツを知りたい。

富盛字誌をはじめとした、沖縄県の各市町村の字誌は、沖縄県立図書館などで読むことができます。

「富盛字誌 東風平町字富盛(富盛字誌編集委員会:編集者/字富盛:発行者/2004年)」

★臼太鼓(ウスデーク)について調べてみた。

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