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桜色のロケット #シロクマ文芸部

桜色のロケットがどこかの国で打ち上げられた。
人々はただ桜色のロケットが上昇し、地球の外に出ていく映像を見せられただけ。

「これってどこの国?」
「目的はなんだろう?」
「どこまで飛んでいくのかな?」
「危なくないの?」
「でも、桜色、きれいだね」
「なんかちょっと面白そう」

数ヶ月後、今度は水色のロケットが打ち上げられた。

「また?」
「どこの国か、まだ分からないの?」
「やめさせた方がいいのでは?」
「でも、この水色、いいね」
「少しだけ、未来に希望が持てるような」
「そうかな?」

数年後、ある国が白いロケットを打ち上げると発表した。

「地球で桜が咲かなくなってから半世紀。我々はついにある星で桜を咲かせることに成功しました!みなさま、白いロケットに乗って桜を見に行きませんか?」

高額にも関わらず、チケットは完売。
白いロケットは桜が咲く星に向かって打ち上げられた。

白いロケットが桜が咲く星に到着。
降り立った人々はみな我が目を疑った。

「桜、咲いてないじゃないか!」

青い空の下に桜の木が何本もあったが、桜の花は皆無だった。

「申し訳ありません!」

この星の管理者と思われる男が土下座をしながら言った。

「さっきまで、本当に満開だったのです!急に強風が吹いて花が散ってしまい……」

最後の方は涙で言葉にならないようだった。

「そんなの信じられるか!」
「いくら払ったと思ってるんだ」
「なんとかしろ!」
「桜を見せろ!」

管理者の男は泣き止み、毅然として言った。

「みなさまのお気持ち、理解いたします。しかし、嘘ではないのです。桜は確かに咲き、そして散りました。私は見たのです。
動画に収めておりますので、せめてそちらをご覧になってください」

動画はさながらドキュメンタリー映画のようだった。
桜色のロケットが到着し、苗木を植えるところから始まり、水色のロケットが到着して大量の水が補給され、日々丹念に桜の木を育てる様子が映し出された。

しばらく単調な映像が続き、桜が満開になるシーンになると、観客から感嘆の声が漏れた。管理者の男の「やった、やった」と言う声が小さく録音されていた。
不意に強風が吹き始めた。管理者の男の「やめてくれ!」と泣き叫ぶ声。無情にも強風は桜の花を全てさらって、青い空に桜の花びらを撒き散らした。動画はそこで唐突に終わった。

「ママ、最後、桜の色、すごくきれいだったね」
観客の男の子が言うと、観客全員が立ち上がって拍手した。

「また、桜を観にくるよ」

白いロケットが地球に向かって飛び立つと、管理者の男はそれをいつまでも見送っていた。

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