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船とインターネット

2016年1月だから3年前になる。新しく就航したLNGC(液化天然ガス運搬船)に保証技師としてシンガポールから韓国まで乗船したことがある。保証技師とは船を造った造船所がお客さんに船を引き渡した後最初の処女航海に乗船してアフターサービスを担当する造船所代表の技師のことである。その時の乗船は実は2回目。1回目は10年以上前にLPGC(液化プロパンガス運搬船)の保証技師として日本から中東、中東から日本へと1航海乗船した経験がある。10年も経つと船内の様子も印象が変わる。

最たる例がインターネット事情だ。通常船内と陸上を結ぶインターネット回線はインマルサットという衛星通信でつなぐ。この通信技術の発達・拡大が進んでいるのだろう。航海中は仕事・業務にしか使用出来ないというイメージだったのだが、2回目の乗船となった3年前には乗組員はスマホを使うことが出来た。もちろん仕事中は個人的な通信は出来ないが仕事がオフの時には限られたパブリックスペースではあるが所定のエリアに居たらインターネット回線はWIFIでつなぐことが出来た。事務的作業をする机上でパソコンを操作する際にしか覗けなかった10年前の状況からは一変していた。

一方、通信環境の変化は船内の業務にも影響が及んでいた。重要な事項は陸上の組織の上にお伺いを立てて承認を得ないと進めなくなっていた。船内メンテナンスについても作業内容の安全性を吟味するなどの評価を陸上の支援体制が整ってていて組織上上層の陸上側が可否の判断を下す。その判断結果により船内での作業にゴーサインが出る。正直びっくりした。それまでの船と陸側の支援体制の関係について自分の知識や認識と随分違っていたからである。船と乗組員はもっと独立しているものと思っていた。いったん港を後にし大洋に出れば独立独歩。浸水や火災が起きたり病人や怪我人が出たりなどの特別な場合を除き何か起きても船の乗組員は自ら対応する。船長の指揮の元自ら判断し自ら行動する、対処する。それが船であり船の乗組員だと思っていた。これは別に船内での役割が減ったということではない。陸側と船側の役割分担が変わってきたということだ。一つには船の乗組員の人材の需要に対し供給が追いついていないことも背景にあるのかも知れない。船の運航を陸側で支援する体制が求められつつあることも考えられる。


陸上に限らず人工衛星を介し海洋上でも比較的安価に通信が可能となった現在海洋で仕事をする船の現場でも大きな変革の波が起きていることを知らされた航海だった。

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