「売上を,減らそう」?!

年末年始の4冊目はこれ。

著者の中村朱美さんは,京都で夫婦でステーキ丼の「佰食屋」を営む若手女性経営者。

衝撃的なタイトル。売上を減らすって,……ふつうみんなが必死こいて追求してるあれでしょ? なんて思いつつ。私実は,個人飲食店さんの管理会計を研究してたりするので,思わず手に取ってしまいました。

内容はその名の通り,この著者が実践されているビジネスモデル。ここで売上を「減らす」というのは,売上を「限定する」という意味です。飛び切りのステーキ丼を出す一方で,売上は1日100食にとどめる。100食売れたら店じまい。

私が興味深いのは,これ,需要の不確実性を下げる一つの方法だなと。あ,不確実性ってのは,「どうなるかわからない」ってことです(超粗く言うと)。

通常は,需要はコントロールできないし,一生懸命に予測しても当たるとは限らないし,当たっても季節や天気によって変動します。なので,経営者は,広告宣伝で需要の確保に精を出すとともに,原価のコントロールにしのぎを削ります(実は,個人飲食店でそれがちゃんとできてれば結構すごいというのが実態かもしれませんが)。具体的には,材料の歩留まり上げたり,バイトのシフト調整したり。

これに対して,中村さんの発想は逆。先に売上高に天井を設けておくのです。こうすれば,発注量が安定する。ロスも減る。従業員も残業しなくて良い。広告宣伝にしのぎを削る必要はない。従業員に余裕があるから,改善アイデアが生まれる。人材採用での最重要基準は,意識の高さではなく,みんなと仲良くできること。

このビジネスモデルは,圧倒的な商品力と,規模を追求しない戦略ゆえになせるわざだと思います。実際,著者は会社の規模追求はあまり優先事項には考えていなくて,それよりも従業員の幸福を重視する考え方のようです。

なるほど。

確かに,ビジネスの成功は何も大企業になることだけではない。大企業になることで得られることもあるけれど,中小企業でいるからこそできることだってある。

そして,規模よりも圧倒的な商品力と従業員の幸福を重視しているところ,塚越寛さんの年輪経営の考え方(木が年輪を刻むように,会社も毎年すこーしずつ成長していけばそれで良いんだという発想)とも共通しているなと。

もちろん,別に利益がどうでもよいわけではない。塚越会長によれば,利益はウンチだと。人間,健康であれば,ウンチが出る。利益は,そのウンチ同様,会社の健康のバロメーターである。しかし,ウンチが至上命題ではない。ウンチはバロメーター,最大限に追求するのは従業員の幸福。

話を佰食屋さんに戻すと,企業のビジネスモデルって確かに,もっと企業理念の多様性の視点からもっと論じられても良いよな,と思わされた一冊でした。そして,中小企業の管理会計を研究する身として,モチベーションを高めさせてもらいました。

ちなみに,同書では,1日100食がちゃんと売れる理由について,商品力くらいしか取り上げられていない印象だったのですが,本当なのかな?と思うところはあります。これを確認するため,京都に出張した際にはぜひ一度食べに行ってみたいです。早めに行って整理券をもらわないとありつけないほどの人気のようですが……。

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