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第二十一話:ヘルスカウンセリングと他の心理療法

私は2008年の晩夏に宗像と出会い、そこから「ヘルスカウンセリング」というものに触れた。
当時、興味本位で参加した「傾聴」関連のセミナー。その中の演習で、3人の方のお話を聴いたが、みな過去に私が、心の底に押し込めたネガティブ感情を引っ張り出させる。その時の嫌な思いが思い返され、「あなたそんなこと言ったってねー」そんなふうに返したくなる。そうなったらもう、相手の話を冷静に聞き続けることなんてできはしない。ギブアップ…。

傾聴することの難しさを思い知らされ、1ヶ月間悶々として過ごす。一度は逃げたものの、人の話が聴けないということが、どうにも気持ちが悪くて再チャレンジした。翌2009年にヘルスカウンセリング学会員になり、その考え方やスキルを学んだ。隔週くらいの頻度で、週末、名古屋から東京に通い、翌年の夏に、晴れて「ヘルスカウンセラー(当時は「心理カウンセラー」という呼称)」になることができた。

今回は、あなたがまだ聞き慣れないだろう「ヘルスカウンセリング(SATカウンセリング)」について補足しておきたいと思う。

心のことは大丈夫なんだ、それより、
・時々襲われる腹痛が気になるよだよね…
・肩こりが酷くて、頭痛までしてくるんだけど…
・なんだか胸焼けがして…
・腰が痛くて歩くのが苦痛な時があるんだけど…
・なんか、喉に飴玉でも詰まってるようで気持ち悪いんだけど…
・最近、めまいが酷くなって…

たとえば、こんな症状にお悩みの方は、この先読み進んでもらいたい。

ヘルスカウンセラーの姿勢

宗像はヘルスカウンセラーの姿勢を以下のように説く。

SAT法では,本人さえ知らない隠れた情報に本人が気づくよう支援し,さらに,それをコントロールする方法についても本人が気づくよう支援していく。

この姿勢こそが宗像の愛。詳しくは「SAT療法」に書かれている。

この、「本人自身がコントロールする方法まで気づくように支援する」というところがとっても大事。というのも、これができないと、カウンセラーに依存させてしまうことにもなりかねないからだ。

どういうことか、ちゃんと理解してほしいから、ちょっと解説する。

話を聴いてもらえると、「自分の悩みや苦しみを解ってくれたー」って、気持ちがラクになるよね。
それは、いいと思う。
だけど、その悩みの元がなんなのか、自分自身気づいてないことも多い。
「だって、あの人が…」。
そう言っているうちは、あなたの悩みの種の「あの人」がいなくならない限り解決しない
ということは、一時ラクになっても、また悩み、話を聴いてもらいに行かないといけなくなる。
実はこれ、カウンセラーのクイックセラピービジネスの形。
いまは、各所に「もみほぐし屋」ができて、人が多く入ってるよね。
「あー、肩こってきたから行かなくちゃ」。
揉んでもらってるときは気持ちいいよ。
そして、その日くらいは、その効果も持続するでしょう。
でも、また行くよね。
これと同じで、散財リスクも高まるってこと。

さらに、先の著書は14年前に書かれたものだが、すでに「見えない存在」に対処しなければ、人をウェルビーイングにはできないと確信し、以下のように言い切っている。

現代医学は,見えない存在を決して認めようとせず,現代医療に感情や感覚の潜在記憶の世代間伝達にもとづく治療法は現在のところ存在しない。

では、こんなヘルスカウンセラーが、具体的に、あなたに対してどんな支援をしているのか。

自分らしく前向きに生きたいという思いをもつ方は大勢いる…しかしながら,なかなかその思い通りには生きられない.
「周りから何か言われたらどうしよう」という怖さや,
「自分にはできるはずがない」という無力感など,
自分本来の自由な生き方をしたいという欲求と感情とは矛盾する欲求や感情が,そのように生きることを阻む

それは、
「現在の自分の欲求や感情」と「過去の未解決な欲求や感情」とを混同する(時間性の混同)からである
「自分の欲求や感情」と「他者の欲求や感情」とを混同する(社会性の混同)からである

悩みをつくる矛盾する欲求や感情の背後には,必ず過去の未解決な問題イメージが潜んでいて,現在の状況認知ばかりか,未来の予期にも影響を与えている
過去ではなく,「今ここで」のあるがままの自分の欲求や感情に素直になり、自己の欲求や感情と他者の欲求や感情とを区別すること

前にやった時にこうだったから、今度やってもきっとこうなる、さて、どうしたものか…。
たとえば、これが時間性の混同だ。
過去と現在、そして未来は別物なのに、人はそれらが過去の延長線上にあると錯覚しているのだ。

SATカウンセリング法では,一般のカウンセリングでは扱わない,胎児期記憶や世代間伝達,生物間伝達された潜在記憶のなかにある他者と自己との気づきや区別も促す

体内記憶の話として語られる、胎児期や中間世、前世の記憶、お母さんの体験した記憶など、この部分は、ヒプノセラピーでも一部行われているとは聞いている。

心理療法は医療的アプローチと同様に症状軽減を主な目的としてクライエントに対することが多いが,カウンセリングは,人格を育てる教育的アプローチによってクライエントと向き合うべきもの
カウンセリングとは,一人ひとりが本来もっている人格成長力を前提にして方法的にかかわる人間関係

本法は,心理療法とはクライエントとの対し方を異にするカウンセリング法のひとつではあるが,潜在記憶を表現しやすい身体症状や顔表情,動作,血液検査値,遺伝子発現値など,身体性表現を重視することから,「心理カウンセリング」というよりは,「ヘルスカウンセリング」という呼び方がされている(宗像,2004)

これが、宗像がSAT法によるカウンセリングを「ヘルスカウンセリング」と命名した所以。ヘルスカウンセリングは対症療法ではなく、人格成長をサポートする教育的アプローチだということをご理解いただけただろうか。

では次に、世にある他の療法との違いをみていこう。

ヘルスカウンセリングと他の心理療法

1945年には,C.R.ロジャーズが,『カウンセリングと心理療法』を著し
「心の病を持つ者は,『自分自身についての認識』と『実際に経験していること』に不一致があるために,緊張や不安が生じ,自分自身の行動を否認したり,否定したりし,日常生活に適応できなくなる」

「人は,自己認識と現実との不一致を言葉に出していくことで,本来の自分を成長させていく」とする「クライエント中心療法」を確立

クライエント中心療法は,その後,1960年代に,A.E.アイビィと共同研究者が開発した「マイクロカウンセリング」によってカウンセリングの面接技法や研修法が体系化された

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カウンセリングの祖とされるカールロジャース。このロジャースの方法は、人の生き方には正解がないことを前提とし、互いに対話し、相手を受容し、相手の話すことに共感することで自己一致を導く

「こっちの方がいいから、こんなふうにしたらいいんじゃない?」そう言われたら、「そうか、そうなんだ」と素直に聞いて、「よし、それなら」と、自分のそれまでの考えや行動を変える人が、どれくらいいるのだろう。
たとえ、それが、大事な人からの助言であったとしても、多くの場合、内心では「余計なお節介だよ」って思うんじゃないかな。
だから、ロジャースの言うように、なにを選択したとしても「正解がない」という前提に立つことが大事。そして、相手が自分の思いと違うことを言ったとしても、その言葉を受け容れ、相手の身になって、その時の感情を味わってみる。そうすることで「そうか、そうなのか」と、相手の気持ちがわかってくる。その思いを相手に返し、対話をする。そんな関わり方をしていくことで、相手も自分がどうしてそう感じるのか、そう思うのかに気づくことができ、自分の取っている行動との矛盾に気づくと、自ら行動を変えていく。これが自己の成長ということなのだ。

しかし、宗像はいう。

その方法だけでは実際の臨床問題は解決できないことが多い.クライエント中心療法のカウンセリング法では,統合失調症,うつ病,パーソナリティ障害,摂食障害など,現代人が抱える精神病理性の問題に効果的な対処ができないばかりか,身体病理性の克服にはまったく歯が立たない

そう、ちょっとした悩みなら、このロジャースの傾聴で、十分対処していくことができると思う。しかし、宗像の挙げる症例には、なかなか対処できず、傾聴する側まで疲れ果ててしまうのだ。

また一方、「過去」ではなく「いまここ」の問題に、焦点を当てる技法も示されている。

W.グラッサーは,1960年代中頃に,「選択理論(当初はコントロール理論と呼んだ)」にもとづく「現実療法」を開発
これは精神分析やクライエント中心療法のように過去に焦点化するのではなく,「今ここで」の問題の解決に現実主義的に焦点を当てるカウンセリング法

先ほど、「時間性の混同」について書いた。
「それは昔の話だよね。いま、幼い頃にあなたをいじめた彼はいないよね。なのにいつまで、そのいじめられたことに腹を立て、また怯え続けているんだい」。どれだけ、いまは過去とは違うのだからと、認知のゆがみを問うたとしても、問題としたまま葬り去った過去に、人は縛られて生きている
それを、「いまここを見て、どうありたいのか、そのためになにができるのか」と言われても、容易に切り離せないのも、また人間なのだ。

宗像は、封じられた過去の記憶が身体化すること、つまり過去に作ったトラウマによって、「いま」この私の身に症状が出たりすることや、いまの知覚が過去の記憶の上に成り立っていることから、それを抜きにしては、あるがままの自分にはなれないと説いている。

身体化した形で深く進行した過去の記憶は,いつか必ずストレス環境に刺激されて病理性を現す
現実の知覚や解釈を支配する過去の記憶をそのままにして,あるがままの素直な自分を取り戻せることはない


ヘルスカウンセリングそのものについて書き出すと、私の思いが強すぎて、どんどん長くなってしまう。いつものごとく、宗像の使う言葉は難しいので、読んでいて辛くなることもあるだろう。
でも、まだまだ伝えておきたいことがある。
「SAT法は人格成長をサポートする」というが、その「成長」ってなんなのよって思わないかい?
そんなのカウンセリングでサポートなんかできるのかって思わないかい?
次回は、そのあたりの部分について、さらに突っ込んでみたいと思う。

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