見出し画像

JR東日本パスの旅_2日目①「早朝、ただ海岸沿いを歩くだけ」茨城県神栖市

こんにちは、結城弘です。

こちらは昨年10月、JR東日本乗り放題切符「JR東日本パス」を使って東日本を周遊してきた旅行記です。

JR東日本パス

適度に読み飛ばしつつで構いませんので、お気軽にお楽しみください。

前回の記事はこちら⇒


1. 2日目の予定


碓氷峠での廃線ウォークを終えた私はその日のうちに茨城県神栖市まで移動し、「大黒屋旅館」さんで一泊。

日付が変わり、JR東日本パスの旅も2日目を迎えました。

本日は茨城県神栖市を出発し、北上。
途中特急電車に乗り換えながら、一気に仙台を目指します
が、その前にここ神栖市に寄ったのは、どうしても訪れたかった場所があったからです。

その場所とはここ。
鹿島灘沿いにつづく砂浜です

この場所を知ったきっかけは、井浦新さん主演のNHKドラマ「歩くひと」。
谷口ジローさん原作のこちらのドラマの内容は主人公がただひたすら歩くだけというもの。

その中で神栖市の砂浜が登場する回があったのですが、風力発電機の風車がずらりと並ぶ砂浜を主人公が風に吹かれながら歩くシーンがとても幻想的で、私もいつか同じ場所を訪れてみたいと思っていました。

そして訪れた東日本パスというチャンス。
活かすしかありません。

が、砂浜までのルートを検討してみるとバスの本数も少なく、バス停や駅も数㎞単位で離れていてアクセスは不便。訪問予定の時間帯はレンタカーも営業時間外。
徒歩で行くにしても途方もない距離と時間です。
そう、徒歩だけに。

切れかけの歯磨き粉チューブから中身を捻りだすように頭を絞っても、出てくるのはゴミみたいなダジャレ。トホホ…

とにかく、乗り物でのアクセスは時間的にも位置的にも困難だとわかりました。

予定変更か、諦めるか。

二択を迫られた私は、熟考の末、決断しました。

よし、歩くか。


乗り物で行けないなら、歩けばいいのです。
それこそ「歩くひと」の主人公のように

ルートを算出し、距離と時間を計算します。

※緑アイコンとラインが今回のルートです。

ルートは旅館から海岸線を歩き、そこから最寄りのバス停まで。
総歩行距離は約16㎞
所要時間はだいたい3~4時間

夜明け前に旅館を出たらその後のバスや電車に間に合うと結論が出ました。

が、私の頭の中のソロバンが語りかけてきます。

「こんなんで東日本パス、ちゃんと元取れとるんか?


え、効率?

そんなもん、昨日の廃線ウォーク中に碓氷峠に捨ててきました

さぁ、歩きましょう!
その道中の陽気なこと!

2. 夜明け前の出発と吠える犬


大黒屋旅館さん

10月16日。東日本パスの旅2日目。
午前3時過ぎに旅館をチェックアウトしました。

出発時に砂浜まで歩くことを告げると、親切なご主人は「それなら車で送ってあげようか」と申し出てくださいました。

が、どうやら近場の浜辺のことをおっしゃっていたらしく、私が場所を正確に告げると、さすがに絶句されていました

車での送迎を提案された時、正直気持ちは揺らぎました。
だって見知らぬ土地を夜明け前から、それも数時間かけて歩くなんてやったことがないし、めちゃくちゃ怖い

でもすぐに思い直しました。

やったことないからこそ、やってみたい、と。

ご主人にお礼を述べ、この日のために新調した靴を履き、宿を出ました。

午前3時過ぎ、旅館出発

まずは目標としている砂浜に出るべく、街中を進みます。

ちなみにスマホの地図アプリには頼らず、事前に綿密に検討し、スクショしたりメモしたりしたルート情報を見ながら進んでいきます。

これはスマホの通信量をおさえて月々の支払いを安く済ませたいという浅ましい魂胆などではなく、旅の勘を鍛えるという崇高なスタイルです。

しばらくは街中を歩きます。
街灯の光があるとはいえ、それでも不安がっていると、ジョギング中の地元のおばちゃんに遭遇。とりあえず地元の人の姿に一安心。

しかも進行方向が同じなので、おばちゃんをまるでマラソンの先導白バイに見立て、しばらくその背中を目指して歩きました。

途中、新聞配達の原付が道に現れました。が、車両トラブルで立往生。
心配になり声をかけます。

「大丈夫ですか?」
「あ、ああ。チェーン外れたかな」

配達のおじさんは状態を確認すると、営業所がすぐそこなのか、原付を押してそそくさと脇道に入っていきました。

再び歩き始めてから、ふと思いました。

多分あのおじさんからしたら原付が故障したことよりも、早朝にバックパックを背負った目的不明の人間に声をかけられたほうが恐ろしかったんじゃないかと。

これ以上は深く考えずに歩きます。

要所要所で位置確認程度に地図アプリを使用。
うまく通信量をケチりつつ、特に迷うことなく夜道を進んでいきます。

結構楽勝かも

そう私の中で余裕が生まれはじめた時、

ワン、ワン、ワン!!!


住宅の敷地から飼い犬が道路に飛び出してきました
しかもリードなし

早鐘と警鐘が一斉に打ち鳴らされました。
私から一定の距離を置いて吠え続ける犬をそれ以上刺激しないよう、慎重に足を進めます。

公転軌道のように距離を保ちながら脇をすりぬけ、どうにかその場を離れられました。振り返ると、犬はまだこっちを見て、吠え続けていました。

ああ、怖かった……。でもこれで一安心、


バウ、バウ、バウ!!!


今度は工場の敷地内で飼われている犬に吠えられました

この犬はちゃんとリードがついていましたが、通り過ぎ、姿が見えなくなっても、犬の声が警戒警報のように夜の街に反響していました。

東日本パスの旅で色んな体験をしましたが、
多分この時に犬に吠えられたのが、間違いなく一番怖かった体験でした。

3. 謎の人影


住宅街が途切れ、街灯も何もない原っぱを突き抜ける道に出ます。

星空がとても綺麗でした。
なんてことは今だから言えることで、当時の私は野生動物や不審者に襲われないかと、碓氷峠でも活躍した懐中電灯を使って何度も何度も周囲を警戒していました。
何をバカなと思われるかもですが、この時の私はいたって真面目です。

そうしてあの場では間違いなく自分が最大の不審者だったと気づかないまま、目の前の夜道を見据え、歩き続けます。

その暗闇の先。


ぽつんと赤い光が灯りました。


何かの高い建造物についた赤い光が点滅しています。
星空の光を背に、その細長く高いシルエットが浮かびあがります。

風力発電機です。

ドラマや写真で見た、海岸沿いに並ぶ風力発電機の風車の姿が脳内に浮かびあがります。

目標としている砂浜はもうすぐそこだ

道はこれで合ってるよ私を安心させるように、進行方向から吹きつける海風と思しき風と、風車がビュウン、ビュウンと回る力強い音が無遠慮に私を励ましてくれます。

風が強まり、かすかに聞こえる潮騒。
道路から海の方へ抜ける小道らしきものを見つけ、そちらに入ると、

ざくり

足が砂を踏みました。

目標としている砂浜に、徒歩で到達した瞬間でした

前方は今までにないほど真っ暗闇。ですが打ち寄せる波の音と吹きつける風の力で、間違いなく眼前に鹿島灘が広がっていることがわかります。

南の方角を向くと、空と地の境に銚子の街の明かりが。
北の方角を向くと、工業地帯の明かりをバックに並ぶ風車の列。

銚子方面
目的の方角

「本当に歩いて来られた」

到着時間は想定よりも早く、行程のほぼ半分も消化。
しかしこの時の私は安心とは程遠い心境でした。

半端なく、心細い。

遠くに明かりが見えるといっても、自分の周りは相変わらず真っ暗。
不安を和らげるように、スキットルに補充したウイスキーを流し込みます。
人の気配がない分、街中の道を歩いていた時よりもはるかに怖い。

人の気配がない。

そのはずなのに、

人影らしきものが、砂浜にいました

明らかに星とは違う小さな光が、波打ち際にぽつ、ぽつ、ぽつ。
最初は何かの設備かなと思っていたら、よく見るとその光が小刻みに動いている。どうやら人間だと遅れて気づきました。

体の奥底からぎゅうううと不安がせり上がってきます。
何でこんな時間に、こんなところに人が?
なんかヤバい犯罪現場に遭遇したのでは?
(※繰り返しますがこの時の私はいたって真面目です)

警戒しつつ、ひとまずはゴールと定めている地点に向かって再び歩きはじめます。

海の向こうの空が明るみはじめるにつれ、その人影も一人二人じゃなく、波打ち際に等間隔に並んでいることがわかります。

が、この辺りで愚鈍な私もようやく気づきました。

この人ら、釣り人やん。

どうやらここは釣りスポットでもあったよう。ドッと体の力が抜けた私は、ただ歩くだけというこの砂浜に残った唯一にして最大の不審者としてずんずん進んでいきました。

4. ただ、歩いてるだけでーす


ここが普通に人が来るスポットだとわかったことで最後の不安が消えた私。今日のゴールと定めた場所に向かう足に、もう遠慮や恐れはありません。

ちなみにゴールに定めたは須田浜海岸にある海洋研究施設。
ここには海に突き出た桟橋があって、目標としてわかりやすいと思ったからです。現在地から約6㎞の砂浜歩きの始まりです。


途中立ち止まり、一眼レフで朝焼けを迎え始めた海岸沿いの写真を撮りはじめます。

明るくなるにつれて、風力発電機の風車の列がはっきり見えてきました。
ドラマで井浦新さんが歩いた場所です(多分)。

※下記ツイート内に動画があります⇩


この日は風が強く、奇しくも「歩くひと」の主人公と同じように風に吹かれながら砂浜をずんずん進んでいきます。

ウイスキーをちびちび飲むたびに、開いたスキットルの口に風が入りこみ、ボウー、ボウー、と船の汽笛のような素敵な音を奏でます。

すっかり気分がよくなった私。
ざくざくと砂浜を踏みしめながら、

歩いてるだけでーす

と、ドラマでの主人公の台詞を脳内で叫びます。


歩いているうちに、ふとここでは何が釣れるのかと気になった私。
準備中と思しき釣り人の方に尋ねてみると、ヒラメのシーズンとのこと。

「へえ、そうなんですね!」


ッパァーーアアアン!!


話に夢中になっていた私。
そこに押し寄せた波が新調した靴に直撃しました

…………

悲惨なことになった私を、幸いにもその方は触れずにいてくださいました。

気を取り直します。歩こう。

この時点で、とっくに歩いた距離は昨日の廃線ウォークの距離を越えていました。ぼちぼち前方に目標である桟橋が見えてきました。

思いのほか写真を撮るのに立ち止まることが多かったため、時間が押しており、その桟橋に向かって足を速めます。

桟橋が徐々に近づいてきて、そして……

ゴーール!!

目標に定めていた海洋研究施設に到達しました!
ここにきてようやく達成感が押し寄せます。

ただこの後に乗る路線バスの時間も迫っていたため、滞在もそこそこにこの場を離れます。

海洋研究施設を離れ、バス停へ


ちなみにこの辺りはよくドラマやMVのロケ地になっているそうです。

後日知ったのですが、ゴール地点からあと数㎞北に歩けば、

宮本浩次さんが叫びながら車を運転したり、

米津玄師さんが轢かれたりした現場
に辿り着けました。

惜しいことをしました。

画面奥の風車の辺りが米津さんの交通事故現場

海洋研究施設から45分ほど歩いて最寄りのバス停に無事到着
海岸を歩く旅、全行程無事に終了し、鹿島神宮駅へ。

無事にバスに乗車
鹿島神宮駅到着

次回は鹿島神宮駅から日立駅を経由して仙台を目指します
いよいよJR東日本パスの真価が発揮……されると思います。


ちなみに駅前のベンチに座り、海水かぶった靴を洗って乾かしてたら、タクシーの運ちゃんに「君、どこ行ってきたんや……」と目を丸くされたのはいい思い出です。

次回⇒

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ここまで読んでいただきありがとうございました。
鉄道、旅行、滋賀県、訪れたお店などの記事を他にもアップしていますので、興味があればぜひ!

また、仕事で小説を書いています。作品などの情報はこちら⇩


この記事が参加している募集

旅のフォトアルバム

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?