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なぜか「道を聞かれる」ヒト

私のことです。なぜか、昔から、妙に人に道を尋ねられることが多い。
しかも、自分でも思い出し笑いすることがあるような、「なんでやねん」という妙なシチュエーションが少なくない。今日は、そんな話を。

最初の「なんでやねん」体験は、高校生のころ、名古屋でのことだった。
昼過ぎごろだったろうか、私は出来町通りの歩道を砂田橋方面に向けて歩いていた。なぜそんなところにいたのかは思いだせない。
すると、少し腰の曲がったおばあさんが、
「おにいさん、ちょっと、おたずねしますが…」
と話しかけてきた。立ち止まって、「はい?どうしました」と聞くと、

「東海病院は、どこですかね?」

という。
この問いかけに、私はかなり動揺した。
なぜなら、我々が立っていたのは、まさにこの写真の位置だったからだ。

(Googleストリートビュー、便利だなー)

どこも、なにも、ないではないか。
「えーっと…。ここ、ですね」
私が看板を指さすと、おばあさんは丁寧に頭を下げて去っていった…。

こうして「尋ねられ人」として鮮烈なデビューを飾った私は、大学時代や就職で上京した後も、着々と経験値を積み重ねていった。
おそらく、シュッとしてて(←マイブーム継続中)、人当たりが良さそうで、それでいて妙に自信満々そうに歩いているからだろう。
普通に道を聞かれて、普通に答える、という案件は、相当な数に上る。

「東海病院インシデント」に似たケースは東京でもあった。場所は株の街、兜町。当時、私は東京証券取引所のすぐ裏のビルを取材拠点としていた。取材からの帰り道、スマホを片手にした南欧系と思しき外国人に呼び止められた。

"Excuse me...…where is Tokyo stock exchange?"

いやいやいやいや!
私が聞かれたのは、この位置である。

(Google先生、ありがとう)

しかも、アンタ、Googleマップ開いてるやん!
「ここ。このビル見てみんかい(英語に脳内翻訳願います)」
あきれつつ、でも、基本ええヒトなので、見学者のエントランスはそこやで、という情報まで教えてあげた。
この場面、たまたま通りかかった同僚の女性記者に目撃されていた。
「何聞かれてたんですか」
「東証どこ、って。いやー、目的地の目の前で道聞かれるの、15年ぶり人生2度目だわ」
二人で大爆笑となった。

二度あることは三度ある。しかも、三度目はロンドンでのことだった。

2016年春、私は家族より一足先にイギリスに渡り、日本人学校のあるウエストアクトンという郊外の町の家を借りた。
ホテル暮らしを脱出し、新居に一人で移った翌日。
私は隣駅でショッピングモールなどがそろっているイーリング・ブロードウェイ駅まで散策がてら歩いていくことにした。
天気は良いし、数週間後に家族が合流するまでにあれこれ買い揃えておこうと思ったのだ。
3度目の「それ」は、このウエストアクトンからイーリングブロードウェイまでの道半ばにある、のちに行きつけの店となる地元のパブ「THE GREYSTOKE」の前で起きた。

(あー、懐かしい。あー、エール飲みたい)

向こうから歩いてきた、50絡みの南インド系の髭面のおっさんが話しかけてきて

「ノース・イーリングの駅、どこか知らない?」

と私に聞いてきた。
無茶である。
だって、渡英して2週間ちょい、アクトンに来て2日目ですよ?
オジサン、なぜ私に聞こうと思ったのか。
でも、私は「そこですよ」と即答できたのだ。

だって、聞かれたのが「★」の位置で、駅は「↑」なんだから。

私がオジサンに、
「いや、実は、昨日引っ越してきたばっかりなんだけどね」
というと、オジサンは、
「私は三日前に引っ越してきたばかりだ!」
という。
二人で大爆笑して、「ホナ、サイナラ」とお別れした。

これ以外にも、ロンドンにいる間に道を聞かれたことが3度ほどあった。
中心街の、私だって土地勘がない場所で、である。
なのに、不思議なことに、毎度、駅やシアターなど、微妙に私が知っている場所を尋ねられるのだ。
一度など、飲み会の後、自分でもGoogleマップを頼りに初めて使う駅に向かっている途中で、ヒジャブ姿の女性に自分の目的地の駅の場所を聞かれるという間がいいんだか悪いんだか分からない経験もした。

そんな「尋ねられ人」の私も、もちろん、人に道を尋ねることはある。
忘れられないのは、2005年に取材でジュネーブに出張した時の出来事だ。
土曜夜にジュネーブに入り、日曜日は丸一日、オフだった。
日曜日はほとんどのお店が休みで、空いているのはインド料理屋とマクドナルドぐらいだったが、私にとっては初めての欧州で、旧市街やレマン湖などを散策しているだけで、すべてが目新しくて、楽しかった。

あてどなく歩いていたら、珍しく、迷子になった。
まだスマホがない時代なので、頼りは紙の地図なのだが、自分がどこにいるのかさっぱり分からない。
まあ、でも、予定があるわけでもない。
「そのうち大通りなり、ランドマークなりが見えてくるだろう」と地図を見ながら適当に歩いていたら、向こうからリュックを背負った40歳ぐらいの女性が歩いてきた。
彼女も、手にした地図を斜めにしたり、ひっくり返したり、首をひねったりしている。
目が合うと、「ハイ!」と近づいてきて、
「あなた、私とそっくり!迷ったんでしょ!」
と嬉しそうに言う。
米国からの旅行客で、お目当ての美術館を探し当てたのに休館で、その後、道に迷ってしまったという。
彼女に「中心街って、どっち?」と聞かれて、私が「それ、こっちが聞きたいんだけど」と答えると二人で大笑いになった。
迷子同士で道を尋ねあってりゃ、世話はない。
「私、こっち行ってみるわ。Have a nice day!」という言葉を残して、彼女は私が来た方向に向かって歩いて行った。
私は、彼女が来た方向にある坂を登っていってみることにした。

それから30分ほど、私はジュネーブの住宅街をさまよい歩いた。
どこをどう歩いたのか、後から地図を見返してみたけれど、さっぱり分からなかった。
でも、この時見た街並みや、公園で遊ぶ親子、放置された自転車、落書きだらけの壁など、風景は不思議に目に焼き付いている。
しばらくして、私はトラムの軌道に行き当たった。これをたどって坂を下って行けば、中心街に出られそうだ。
そこから歩いて20分ほどで、私はレマン湖のほとりに戻っていた。

英語に、off the beaten track という、気の利いた表現がある。
トラック=決まり切った道、敷かれたレールから外れて、という意味だ。
「道を聞かれる」ヒトは、方向感覚に優れていて、おそらくそれがオーラのように伝わって、迷子を引き寄せるのだろうと思う。
でも、たまには track から外れて、自分が迷子になってみるのも、良いものだ。

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