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元カノにゲイだとカミングアウトしたときの話 #63

僕はゲイです。
ゲイだけど、一度だけ女性とお付き合いをしたことがあります。


中学3年生のときに同じ部活の女子に告白をして付き合いました。付き合ったと言っても、がんばって手を繋いだくらいのピュアなお付き合いでした。そしてそのお付き合いはたった三ヶ月で幕を閉じました。

彼女とは別れてからも仲が良くて
高校・大学・社会人と年数を重ねても定期的に二人で会ってファミレスで二時間も三時間も居座ってゲラゲラと他愛もない話しができる気の合う友人でした。


そんな彼女に、僕はゲイであることを隠し続けていました。
彼氏ができたり、いい感じの人がいるときはその人を女性に置き換えて話をしていて

なんとなく話しの辻褄が合わないことがあったり
写真を見せてほしいと言われても、見せられないし

普通にコミュニケーションをとりたいだけなのに
普通を演じようとすると嘘が増えていく。

嘘をつくことにはだんだん慣れてきていたけど、そんな嘘だらけの自分に対してときどき嫌悪感や後ろめたさを感じることもありました。


僕と彼女は、変わらず仲のいい関係が続いていました。

そして、社会人三年目の年に僕に彼氏ができました。
とても素敵な彼でした。
毎日が幸せで、毎日が特別でした。


僕はいまこんなに幸せなんだということを
仲のいい彼女に伝えられないことってなんだかとても悲しいし、寂しいことだなと漠然と感じた瞬間がありました。


僕は彼女の他にも、仲良くしている親友の女子がいました。


(記事の中で女性が二人できてきたので前者の彼女を“元カノ”、後者の彼女のことを“親友”とします。)


僕と元カノと親友は中学生のときに同じ部活と同じスイミングスクールに所属していたこともあって、どんどん仲は深まっていき三人で遊ぶこともありました。

親友にはすでに大学時代に僕がゲイであることをカミングアウトしていました。

ある日僕は、親友に相談を持ちかけました。


「元カノにゲイだっていうことカミングアウトしようと思うんやけど、どう思う?」



「え、嘘やろ?やめときや。一応、元カノやしね。びっくりするんやない?」



「んー。でもなんか、いっつも嘘つかないかんやん。こんなに仲いいのに、嘘ばっかりでなんか嫌やない?」



「そんな嫌なんて元カノは思ってないやろー!私は言わん方がいいと思うけどなー」



親友からはカミングアウトはしない方がいいんじゃないかと言われてしまいました。
確かに、もし元カノが僕がゲイだと知ったら
同性愛に偏見があった場合には傷つけてしまうかもしれない。
そんなこと、知りたくもなかったと言われてしまうかもしれない。
元カノの目に映っている僕は“普通”の人で、僕が“普通”であることを疑う余地もなく今日まで関わり続けていて
それが急に“普通”じゃない僕の一面を知ってしまったら
確かに混乱させてしまったり、嫌な気持ちにさせてしまう可能性だってある。

だけど、それよりもなんとなくだけど
元カノは分かってくれるような気がしました。


今日まで一緒に積み重ねてきた時間の中で、彼女に僕のことを知ってほしいと思った。
彼女に受け入れてほしいとかそういうこと以前に
僕は彼女に僕のことを伝えたいとそう感じたのでした。

伝えたことで関係性が悪くなったり、変わってしまうことは悲しいことだとも思ったけど
僕はそれも覚悟した上で、元カノにカミングアウトをしました。


ある日、いつも通りにファミレスで集合して
仕事の愚痴や元カノの彼氏の愚痴を聞いたり、他愛もない話をしていました。

いつ切り出そうか…。
と、なんとなく気持ちがソワソワしていると



「大丈夫?なんか今日のひろト変じゃない?お腹痛いん?」



と元カノが何かを察して僕の体調を気遣ってくれました。

平然を装っていたつもりだったけど、いざ打ち明けるとなるととても緊張しました。
だけどそんないつもと違う僕に気づく元カノは、僕のことをよく分かっているんだなと
なんとなく安心した気持ちになりました。



「いや、今日話したいことがあってさ」



「え、どしたん?うんうん、聞く聞く。」



「実はさ、いま付き合ってる人がおってね」



「え!聞いてないんやけど!そういうのは早よ言ってやー!おめでとう!めっちゃ嬉しい!」


「で、ここからが今日話したいことやったんやけどね…」



「え、うん。何?え、なんかあったん?まさか…妊娠でもさせた?」



「いや、そういうんじゃない笑」
「…実は、付き合ってる人って男なんよね」




「・・・。え?まじ、ちょっと真剣に聞いて損した!おもしろいんやけど。そういうのいいけん、ちゃんと話してや!何かあったんやろ?」



元カノは僕が男と付き合っているという言葉を冗談だと思ったらしい。



「えーっとね。冗談とかじゃなくて、本当のやつなんよね…。」



苦笑いする僕



そこから時間が止まったような
短い沈黙がありました。




「え…。え、え、え、ちょっと待って。え、なにこれ。本当のやつ?」




コクリとうなづく僕




「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。え、私のせい?え、ごめん私のせいやんね、いや本当にごめん」





元カノはなぜか謝りはじめた。



元カノが謝っている理由がわからなくて僕はキョトンとしてしまった。



「なんで謝るんよ?全然、意味わからんやん。何も悪くないやろ?」



「だって…私と付き合ってなんかトラウマみたいになってしまったんかなって思って…」


元カノが僕がゲイになってしまったのは
自分のせいなんじゃないかと言っていたのが
なんだか優しい元カノらしいなと思い
そこで僕の緊張の糸は解れて
クスッと笑ってしまいました。


「トラウマになるほど長く付き合ってもないし、手つなぐくらいのことしかしてないやん。現に今めっちゃ仲いいのにそんなトラウマになるようなことなんてなかったよ」



「そーなん?ならよかったけど。でも、なんでなん?」


彼女は、まだ少し混乱している様子でした。


僕は一つ一つ丁寧に元カノに説明しました。


元カノと付き合う前から多分、恋愛や性の対象は男性だったけどその核心はなかったこと
高校生のときに部活の後輩に一目惚れをして自分がゲイだと自覚したこと
大学生になってからゲイのコミュニティがあることを知り、ゲイの友人ができたり、彼氏ができたりしていたこと
実は大学時代にすでに親友にはカミングアウトをしていたこと
これまでは、ゲイだということを伝えることが怖くて言えなかったけど
だけどもう嘘をつきたくなかったし、元カノにもちゃんと自分のことを知ってほしいと思ったから
今日、カミングアウトをしたこと


など、これまでの経緯をゆっくり説明しました。
元カノは真剣に「うんうん」と相槌を打ちながら僕の話を聞いてくれました。




「ごめん、びっくりしたよね」




「あーーー、ほんとびっくりした!でも、ごめんね。ずっと気をつかわせっちゃってたんやね。話してくれてありがとう。でもよかったー。ひろト、なかなか彼女できんけん誰か紹介してあげないかんてずっと考えよったんよ。ちゃんと彼氏もできてて恋愛してるんやったらよかった。もっとはやく話してくれたらよかったのに!親友だけ知ってたとかずるい!」



元カノは、最初こそ混乱しているようにみえたけど
最終的には笑顔で、僕のカミングアウトを受け入れてくれました。

そして僕が打ち明けたことに対して
「ありがとう」と言ってくれた。


伝えてよかった。
そう思わせてくれた元カノに感謝したいです。


それからも元カノとは仲良くしていました。
相変わらず、元カノ・親友と遊ぶ機会も多くて
親友の結婚式では元カノと二人で友人代表のスピーチを勤め上げました。


最近では、僕が上京したことや元カノが結婚したことを機に連絡を取り合う機会はほとんどなくなってしまいましたが
僕にとって、元カノとの過ごした時間はとても貴重な経験となりました。


何かを誰かに打ち明けることって、とても勇気が必要なことだと思うし
伝えることで、得られることもあれば失ってしまうものがあるかもしれないなとも思います。

僕も、親友や元カノ以外にも何人かにカミングアウトをした経験がありますが
今回みたいによかったと思える経験ばかりではなかったです。

伝えなければよかったと思ったこともあったし、伝えた相手からしても
そんなこと知りたくなかったと
きっとそう思われてしまっただろうなという苦い思い出もあります。

また次回以降で、そういった苦い思い出についても記事にしていきたいと思います。

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