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スターシードのなり損じ 第三話【週刊少年マガジン原作大賞応募作品】

記号注

M:モノローグ
N:ナレーション
〈〉:キャラ紹介





N
「6月14日15時03分」

 叶子の病室。叶子、ノートに書き込んでいる。

叶子
「毎日体重記録してるんだけどさ、太弦が毎日たこ焼き食べさせてくれるから、順調に太ってるんだよね」

柚木城
「え、そんな風に見えないけど」

叶子
「見えない部分から太るの!何で太弦は一緒になって食べてるのに太らないの!?」

柚木城
「十代の女の子は太りやすいんだよ。ふっくらしてるぐらいが健康的だって」

叶子
「(怒った表情で)もう、甘やかさないで!(ノートを突き出して)ただでさえ過去の自分の甘えがしっかり残ってるんだから!」

 ノートには『太弦がたこ焼きを買ってきてくれた』『太弦とアイスを食べた』『太弦に饅頭をもらった』等と書かれている。

柚木城
「俺のせいだ」

叶子
「いや違うって!持ってきてくれるのは嬉しいから!毎日ありがたいよ!」

柚木城
「······毎日、か」

 叶子、首を傾げる。

柚木城
「ごめん叶子。これからしばらく来られなくなる」

叶子
「ん、どうして?」

柚木城
「(深刻な顔で)それは······」

叶子
「(微笑んで)無理に言わなくていいよ。忙しくなるんでしょ?高校生だもんね。むしろこれまで来てくれてありがとう」

柚木城
「ありがとうって······」

柚木城M
「俺は叶子のためになることなんか、何もできてないのに」

叶子
「高校かー、わたしも行ってみたい」

 柚木城、叶子と眼を合わせる。

柚木城
「叶子」

叶子
「何?」

柚木城
「きっと行けるよ。いつか、全部上手くいく日が来るから」

叶子
「うん。太弦が言うなら、わたしもそう信じる」

 叶子が笑い、柚木城も微笑む。

柚木城
「じゃあそろそろ行くね」

叶子
「うん、またね」

 柚木城、病室を出る。

 叶子、ペンを手に取って新たに『太弦と学校に行く!』と書き込む。






 病院の外。柚木城が足田と合流する。足田、柚木城に冷ややかな眼を向ける。

柚木城
「何ですか?」

足田
「病院で何してんだよ節操ねえな」

柚木城
「何もしてませんよ!」

足田
「何でしてねえんだよ!いつ死ぬかわからん仕事だぞ!?」

柚木城
「どっちだよあんた!」

 足田、ニヤニヤしている。

足田
「ったく、高校辞めてセンチになってるかと思ったんだがな。でもお前の気持ちが実際どうとかは関係ねえぞ。未成年だろうが容赦無く使い潰される愉快な職場だが、覚悟は?」

柚木城
「できてます」

足田
「いいね。じゃあ行こう、楽しいお仕事に」






N
「同日22時34分」

 貿易港に大型の貨物船と中型のクルーザーが停泊している。

 五十人ほどの少年少女が手を縛られて列を成している。その周囲をオオカミ型の怪生物の群れが歩き回り、少年少女達が逃げないようにしている。

 ゴーグルをかけた坂口、子ども達を一人ずつチェックしている。

〈奴隷商人 坂口さかぐち賢人けんと

坂口
「予定人数丁度だな。男子は全員貨物船へ載せろ」

〈運び屋 牧谷まきたに将吾しょうご

牧谷
「女はどうします?」

坂口
「女子は二手に分ける」

 坂口、女子の列を一人ひとり確認しながら最後尾まで歩く。牧谷、ついていく。少女達は皆絶望した表情をしている。

坂口
「女子は全部で31人か。先頭から17人は貨物船へ。18人目から20人目はクルーザーへ。22人目と26人目、27人目、最後尾もクルーザーだ。『島』へ連れていく。残りは貨物船へ載せろ」

牧谷
「わかりました。(部下達へ)おい、連れていけ」

牧谷の部下
「こっちへ歩け」

 少女達、無言のまま怯えた眼で坂口達を見つめる。

牧谷の部下
「早くしろ!」

 牧谷の部下、手にした銃を上方へ発砲する。少女達、身体をびくつかせる。オオカミ怪生物達が吠える。

牧谷
「撃つな!誰か来たらどうする!」

坂口
「15分間この港を封鎖している。だが無駄な発砲はおすすめしない。無駄をする人はビジネスでは無駄だ」

 坂口が手を出し、発砲した部下が銃を渡す。坂口、その部下の額を撃ち抜く。少女達が悲鳴を上げる。

牧谷
「何してんだ坂口さん!俺の部下っすよ!」

坂口
「君も零細企業ながら社長の端くれだろう。ならば無駄を省いて最小コストで利益を出した方がいい」

牧谷
「無駄っつっても」

坂口
「懲戒免職だ。今私が殺した彼は深酒が過ぎるせいで遅刻が多いんじゃないのか?」

牧谷
「なぜそれを······」

坂口
「それに、彼は先頭から8人目の少女を輸送中に犯している。宅配物を勝手に使う輸送業者なんか論外だぞ」

 牧谷、該当少女に視線を移す。その少女が牧谷の部下の死体を睨んでいる。

坂口
「牧谷くん、ご苦労だった。日付が変わる頃には報酬が振り込まれているはずだ。次からは人を見る眼を磨くように」

牧谷
「······はい。ありがとうございました(頭を下げる)」

 牧谷、部下と共にトラックに乗る。車窓から貨物船とクルーザーが出港するのを見送る。

牧谷M
「何だよあれ」

 貨物船の横にボートが接近している。






 貨物船内部。少女達が一か所に集められている。銃を持った四人の男達が見張っており、オオカミ型怪生物達が目を光らせている。

 オオカミ型怪生物が鼻をひくつかせ、一斉に駆け出す。銃を持った見張りのうち二人が怪生物についていき、二人が残る。

 怪生物についていった見張り、曲がり角に差し掛かる。銃声が聞こえ、見張りは足を止める。

 見張りどうしで合図して飛び出す。オオカミ型怪生物の死体が転がっている。

見張り
「敵襲!敵襲!」

 銃声が鳴り、叫んだ見張りは額から血を流して倒れる。もう一人の見張りは周囲を警戒する。

見張りM
「デコ撃たれたって、どこから······」

 見張り、ふと上に目をやる。換気ダクトの中に足田が潜んでいる。

足田
「お、鋭いな。もう遅えが」

見張りM
「あんな隙間から!」

 見張り、額を撃ち抜かれる。






 少女達が集められた場所に残った見張り、敵襲の報を受けて駆け出す。

 角を曲がった瞬間にナイフで喉を斬られ、二人の見張りが倒れる。ナイフは伸縮性のアームの先に取り付けられており、アームが縮んで詩紅の背中にある箱形の機工に収納される。

 詩紅、少女達の元へ到着する。既に足田や他の特況局員達が少女達の手を縛る縄を切っている。

詩紅
「(少女達に水を渡しながら)ホントにゴミでしたね、今回のやつらも」

足田
「ああ、このまま行けばこの子達は出荷されていた訳だからな。一日に三件阻止しなきゃだったが、何とか間に合って良かった」

 詩紅に水を渡された少女、詩紅の手を掴む。

少女
「あの、まだ別の船に乗せられた子が······」

詩紅
「(微笑んで)大丈夫」

 クルーザーが海を進んでいる。

詩紅
「その子達も助かるから」

 クルーザー側部の海中に、何かの影が映る。見張りが海を覗く。

見張りM
「······魚か?」

 青い外殻を纏って下半身を魚の尾のように変えた柚木城、海から飛び出す。柚木城は見張りを海に引きずり込み、下半身を脚に変えて船に上がる。

 柚木城、少女達が押し込められた部屋の扉をぶち抜く。少女達は怯えた眼で柚木城を見る。

柚木城
「俺は特況局の人間だ。あんた達を助けに来た!安心し」

 柚木城、後頭部を殴られてつんのめる。振り向きざまに蹴りを放つと、警棒を持った坂口が後退してかわす。

柚木城M
「この威力、ただの警棒じゃないな······こいつ、星術師か?」

坂口
「特況局も知的怪生物を雇う時代か······人手不足極まれりだな」

 坂口、ゴーグルを指で押し上げる。

坂口
「君は······そうか、他にもいたのか!」

柚木城
「あんた、何言ってんだ?言いたいことがあるなら捕まえてから聞いてやる」

 柚木城が拳を放ち、坂口がかわす。柚木城はさらに攻撃するが坂口は回避を続け、警棒で反撃する。柚木城は大きく吹き飛んでクルーザーから落ちそうになり、縁を掴んで復帰する。

坂口M
「怪生物にしろ能力者にしろ、使える異能は一種類。ゴーグルと警棒の二種類がある星術師わたしにとっては、それだけでアドバンテージと言えるだろう。だが······」

 坂口、警棒で柚木城の顎を殴る。柚木城の体は伸び、坂口はその腹に警棒を叩き込む。柚木城、船上を転がる。

坂口M
「ゴーグルで見抜いた弱点に、衝撃を倍にする警棒で攻める。能力者はおろか怪生物でも立ち上がれない一撃を三発も耐えるか······!」

 柚木城、腕を剣に変えて攻撃する。坂口、警棒で受け止める。

 柚木城は剣のままの腕の部分だけ青い外殻を破り、自分の手で警棒を掴み取る。

坂口M
「そんなことまで······!」

 柚木城、外殻を纏ったままの方の手で坂口を殴り、警棒を奪い取って海に捨てる。柚木城はさらに坂口の体に拳を叩き込む。坂口、大きく後退する。

坂口
「······君、自分のその青い姿についてきちんと把握しているのか?」

柚木城
「これは俺の能力だ。八年前からずっと使ってる」

坂口
「そうか。私のゴーグルは星術具でね、相手の身体情報を見抜くことができるんだ」

柚木城
「あんた、何が言いたい?」

坂口
「以前仕事で会ったことがあるんだ。君と似たような体の、赤い怪生物に」

柚木城
「······何だと?奴隷商がどうしてあいつと!」

坂口
「やはり知っていたか!あれはこう言っていたよ。『自分が襲った人間の周辺に協力者を置いている』と」

柚木城
「協力者······?」

 柚木城が動きを止めた瞬間に坂口は懐からリードマシンとカードを取り出し、読み込ませながら海へ飛び込む。坂口、首長竜のような怪生物の背中に乗ってクルーザーから離れていく。

柚木城M
「俺の隙を作るためのブラフ······だよな」

柚木城
「(通信機で)すみません足田さん、すぐ追います」

足田
『いや、いい。少女達を優先しろ』

柚木城
「······了解」






 叶子の病室。叶子は眠り、奏子が叶子のノートを読んでいる。奏子、『太弦と学校に行く!』の文言を見てため息をつく。

奏子
「何も知らないんだね、叶子」



〈つづく〉


 

 

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