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スターシードのなり損じ 第二話【週刊少年マガジン原作大賞応募作品】

記号注

M:モノローグ
N:ナレーション
〈〉:キャラ紹介





 深夜の繁華街にあるコンビニのレジ。秋山がレジ打ちをし、店長が品出しをしている。スポーツバッグを持ったへそ出しタンクトップとショートパンツ姿のキリカが支払いを終える。

秋山
「(お辞儀をして)ありがとうございました」

 キリカ、コンビニから出ていく。店長、秋山に近づく。

店長
「めっちゃきれいだったな、さっきの人」

秋山
「マジすか店長?お客さんのこといちいちそんな目で見てたら働けませんよ」

店長
「そういう秋山こそ、見とれてお釣渡してねえだろ」

 会計皿に十円玉が残っている。

秋山
「やべっ!?」

店長
「そーら行ってこい!元陸上部!」

秋山
「(走りだして)俺走り高跳びなんすけど!」





 繁華街の裏路地。三人のゴロツキの前をキリカが通過しようとする。ゴロツキの一人、キリカの前に立ち塞がる。

ゴロツキ1
「おい姉ちゃん、素通りかよ」

キリカ
「······何ですか?通してください」

 ゴロツキ2、スポーツバッグを奪う。

キリカ
「ちょっと、返してください!」

ゴロツキ2
「返してほしけりゃ、やることあんだろ?」

キリカ
「やること······?」

 ゴロツキ3、キリカの尻を掴む。

ゴロツキ3
「(醜く笑って)いいケツしてんじゃねえか」

キリカ
「や、やめてください!」

ゴロツキ1
「おいおい困るぜウブなフリは。こんな時間にこんな恰好でこんな場所を通ってんだ、誘ってんのと同じだろうが!」

 裏路地の入口で秋山が立ち尽くす。路地の先は夜闇で見えない。

キリカ
「駄目!中は弄らないで!」

 秋山、緊張した面持ちで路地を見つめる。

足田
「この国では悲劇なんかそこら中に転がっている」

 夜の街で詩紅と拳銃を構えた足田が柚木城を挟んでいる。

足田
「形はいろいろだが、悪意と力を兼ね備えたやつなんて珍しくねえ。そしてそれを止めるヒーローの存在もな」

 詩紅も銃を取り出す。柚木城、それを顔だけ動かして確認する。

足田
「だが全てのヒーローが悲劇を救える訳じゃない。ヒーローになり損じて暴走するやつもいる。そういうやつらを取り締まるのも特況局の仕事なんだよ」

詩紅
「柚木城太弦。大人しくしなさい」

柚木城
「待ってください。逮捕されたら俺は自由に動けないんでしょ?」

詩紅
「逮捕されたらそりゃそうよ」

柚木城
「······それじゃ駄目だ」

足田
「赤い怪生物、だろ?」

柚木城
「(驚いて)どうしてそれを」

足田
「八年前に畑島叶子を襲撃した赤い怪生物。その事件を当時の特況局に連絡した者としてお前の名前が残ってた。それから八年間、女の子を助けるためにちまちま金を稼ぐたぁわりと見所あるじゃねえか。結局騙された訳だが」

詩紅
「(真剣な表情で)あんたは八年間、たった一人でよく戦ったと思う。赤い怪生物のことはあたし達に任せて」

 柚木城、拳を握る。

柚木城
「『特況局に任せろ』······八年前もそう言われた。そして何もしてくれなかった。だったら」

足田
「お前一人なら何かできると?」

 柚木城、何も言えない。

足田
「悪いな。だがお前一人で何かしようとした結果がこれだ。特況局としても被害者数の少ない赤い怪生物は優先度が低い。ロクに情報も無い中、どうやって一人で赤い怪生物を見つけて倒すんだ?」

柚木城
「······わからない。わからないけど、俺がやらなきゃいけないんです」

足田
「どうしても?」

柚木城
「はい。叶子のために人を殺した。今更誰かに放り投げられない。だから」

 柚木城、青い外殻を纏う。足田、発砲する。柚木城は弾丸が命中しても深傷を負わず、跳躍して逃げようとする。

足田M
「頑丈だな」

詩紅
「伏せて!」

 足田が伏せると同時に詩紅が引き金を引く。発射された弾は針のようになっており、柚木城の脚に刺さる。

柚木城M
「······ッ!でも動ける!一般人への被害を考えると、街中を動き回れば無闇に撃ってこないはずだ」

 柚木城は街路樹や歩道橋、ビルの屋上を経由し、走行中の電車の屋根に跳び乗る。

柚木城M
「あのおっさんは銃の名人だ。精確に心臓を狙ってきた。だけど真っ先に銃を使ってきたってことは、能力者でも星術師でもない。もしそうだとしても攻撃向きじゃない代物ってことだ」

 柚木城、脚に刺さった弾を引き抜こうとするが、失敗する。

柚木城M
「特殊銃か?中で先端が開いて返しになってる。あの子は科学徒っぽいな」

 駅に近づき、電車が減速し始める。線路沿いの道路を走るバイクが電車に追いつく。

柚木城M
「この姿で駅に入ると目立ちすぎる」

 柚木城、身を起こして屋根から跳び降りる。

 目の前の道路を走るバイクに詩紅が乗っている。

柚木城M
「なんで俺の場所が!」

 バイクの後部に取り付けられた射出口からワイヤとアームが飛び出す。柚木城が咄嗟に両腕を上げた直後、柚木城の胴体をアームが挟んで捕らえる。

詩紅M
「勘がいい!両腕を封じられなかった!」

 柚木城、着地して前進するバイクに抗おうとする。詩紅、アクセル横のボタンを押す。アームに電気が流れる。

柚木城
「グァァッ!?」

 電気を浴びた柚木城は抵抗できず、バイクに引きずられる。

足田
『(通信機から)あと500m引っ張ってきてくれ。そこに特況局員を集めておく』

詩紅
「了解」

 それを聞いた柚木城は歯を食い縛り、腕を剣に変えてワイヤを切断する。

 詩紅はバイクの向きを変え、フロントの銃口から弾丸を連射する。柚木城、腕を拳に戻して顔面をかばう。

詩紅
「足田さん!拘束失敗です!」

足田
『追跡続行、我々もすぐに向かう』

 柚木城は逆方向へ逃走し、詩紅はバイクで追う。両者踏切で足止めを喰らう。柚木城、踏切をジャンプして越える。

 柚木城、細い路地に入って立ち上がり、前屈みになって呼吸を整える。弾は脚に刺さったままになっている。

柚木城M
「······これが発信機になってるのか。俺本体までは刺さってないから、青いのを脱げば奴らに場所はバレないはず。早く行かないと」

 柚木城、外殻を脱ごうとする。

秋山
「助けてぇぇぇ!」

 それを聞いた柚木城、両脇の壁を蹴ってビルの屋上に上がり、反対側の淵へ行って下を覗く。

 ビル直下の路地で秋山が尻餅をついて後ずさっている。キリカが刀を持って歩み寄る。キリカの後ろにはゴロツキ達のバラバラ死体が転がっている。

柚木城M
「痴話喧嘩······じゃないよな」

 柚木城、脚の発信機を見る。

キリカ
「お釣、ありがとう。それはそれとして死んでもらうね」

秋山
「な、なんで······俺、何もしてないじゃないっすか」

キリカ
「見たでしょ?バッグの中身も、私がこいつら殺したとこも」

秋山
「だ、誰にも言いませんから」

キリカ
「ホント?」

秋山
「はい」

キリカ
「うーん······『中は弄らないで』って言ってもバッグを開けたからこいつらは死んだ。やっちゃ駄目なことをしたら、責任取らなきゃだからね?」

秋山
「は、はい!」

 秋山、キリカに背を向けて走り去ろうとする。キリカ、刀を振り上げる。

キリカ
「何てね」

 秋山、目を見開く。

 柚木城、屋上から飛び降り、両腕の剣でキリカの刀を叩き折る。

柚木城
「早く逃げろ!」

秋山
「え······」

柚木城
「早く!」

秋山
「は、はい!」

 秋山、走り去る。キリカは振り向いて突きを放つ。柚木城が受け止めようとすると、キリカの腕から刃が飛び出る。柚木城、これをかわして後方へ跳びのく。

キリカ
「知的怪生物?人間?まあどっちでも殺すけど」

 柚木城、足下のスポーツバッグに目をやる。中には人間の耳が詰まっている。

柚木城
「······お前」

キリカ
「中身見たんだ?なら尚更殺すね」

 キリカ、両脚から現出した刀を握って構える。柚木城、両腕の剣でキリカと打ち合う。

 柚木城とキリカ、鍔迫り合いで両手が塞がる。キリカの腹から数本のナイフが射出され、柚木城の体に刺さる。

柚木城
「ウッ······!」

 柚木城の腕から一瞬力が抜け、剣を跳ねのけたキリカが刀で柚木城の胸を斬る。斬られた瞬間に火花が散り、柚木城は後退する。

柚木城M
「地肌から刃物を生成する能力······露出の多い服装もそのためか!」

キリカ
「頑丈だね。試し斬りに使える」

 キリカ、脚を振ってギロチン状の刃を放つ。柚木城は低姿勢の四足走行でこれをかわしながら接近し、剣を下から振り上げる。

 キリカは太ももから出した刃でこれを止め、額から射出したナイフで柚木城の尾を貫き地面に固定し、直後に柚木城の首へ刀を振る。

柚木城M
「しまっ、た······!」

 銃声が聞こえ、キリカが倒れる。

 キリカの向こうに銃を構えた足田と詩紅がいる。

足田
「安心しろ、心臓も動脈も避けて撃った」

 足田と詩紅、柚木城に近づく。

足田
「不運なコンビニ店員から話は聞いた。俺はお前と違って話を聞くタイプでね。さっさと逃げればいいものを、お前はこの場に残って人助けを選んだ訳だ」

 柚木城、身構える。

足田
「わりと見所あるじゃねえか」

柚木城
「······え?」

足田
「(ニヤリとして)このままだとお前は特定裁判にかけられる。二人殺してるからまあ死刑だろ。でも特況局で実戦力として働けば、それがチャラになる。どうだ、ウチの職員なんてそんな連中ばっかだぞ?」

柚木城
「(困惑した表情で)どうして俺を」

足田
「お前はヒーローのなり損じのくせに目標がしっかりしてるし、見ず知らずのやつを体張って助けるタイプだ。戦闘力も申し分無い。それに」

 足田、柚木城の肩に手を置く。

足田
第四おれの課では、職員個人が抱えてるもんに関する情報を集めるのに特況局の権限を使えることになっている。俺がそうした。だから特況局に入れ。一人じゃ無理だ」

詩紅
「断るならバイクの修理費払え!」

柚木城M
「(外殻から出ながら)ごめん叶子。俺一人じゃ何もできなかった」

柚木城
「······わかりました。入ります、特況局に!」






 コンビニ内部。

秋山
「(泣きながら)店長ー!」

店長
「遅えよ!」



〈つづく〉




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