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うえの式質的研究法

博士論文(*)を書くにあたって、1番の悩みは、どうやって研究に使うデータを集めて、どう分析するかでした。私の研究は、国際ビジネスの場に長くいたベテランたちのいわばノウハウをまとめるといった作業だったので、最終的にはそういう人たち15人から1時間ずつインタビューをして、彼らの語った内容を録音し、それを書き起こしてデータ化するという方法を採りました。(*)研究テーマについては、昨日の私の記事をお読みいただければ幸いです。

そして次に分析法ですが…
今回のように、インタビューなどでデータを集めて、それを小さな単位に分けて、それを再度グループ化して理論化する手法を「質的分析法」と呼びます。これに対して、アンケートなどで大量のデータを収集し、それらを統計的処理によって傾向を出すような研究手法を「量的研究法」と呼びます。今回は、質的研究法を採ったわけです。例えば、アンケートのある設問に対する3人の回答者の答えがすべて「はい」となったとします。しかし、時には、その「はい」という結論に至るまでの一人ひとりの理由や経緯は異なるかも知れず、その異なる理由や経緯の一つひとつが研究的意義のあるものだったりすると、最後は、インタビューなどで個別に事情を質問したりすることも必要となってくるから、質的研究法の意義も出てきます。

実は、質的研究法には、非常に様々な方法(流派と言っても良いと思います)が、修士論文を書く時には、どの方法を採るかを決めるまでに、随分いろいろな方法を試み、途中で挫折した苦い経験がありました。博士論文を書く過程でも同じ問題に悩まされていたのですが、そうした時に、救世主となって私の前に現れたのが、上野千鶴子先生です。「おひとりさま」や「昨年の東京大学の入学式でのスピーチ」などで有名な人なので、ご存じの方も多いでしょう。

悩む中で、先生の学術研究の手法に関する著書「情報生産者になる」(ちくま新書)を読んで、一縷の光明を見たように思っていた頃、近くで開かれる先生の講演会の知らせを偶然見つけ、これはと思い、その講演に参加しました。そして、講演終了直後に、先生の控室に押し掛け、「先生、今博士論文を書いているのですが、先生のご著書を読み、ぜひ少しアドバイスを頂けたいと思い押し掛けました」と、恐る恐るお願いしたところ、さも当然のように「入りなさい」と部屋に招き入れてくださったのです。

その後、この本に沿ったデータ分析(「うえの式質的研究法」による分析)の途中経過を持って先生のご自宅に再度押し掛け(謝礼はさせていただきました)そのプロセスについて「これでよろしいでしょうか」と尋ねたところ、ほぼ良いとのお言葉をもらったのです。(正確を書くかも知れませんが)この研究法は、有名なKJ法の手順をすっきりと整理し、誰が繰り返しやっても再現性が確保できるような手法を提示してくださったものと理解しています。

おかげで、博士論文では、この分析法の正当性をしっかり審査にあたっていただいた先生方にも支持いただき、無事合格と相成りました。本当に、あの講演の際に押し掛けていなかったら、まだ論文執筆に悶々と取組んでいたと思います。まさに救いの神でした。

タイトル写真は、私の研修でのデータ分析の途上の様子です。インタビューデータを、最小限の意味単位に分断し(「脱文脈化」という手法です)、それを写真のように物理的に並べ、意味の近いものをグループ化するという作業を幾重にも重なっていくという根気のいる作業ですが、プロセスとしてはスッキリしています。今、社会科学や人文科学系の論文を書いていらっしゃる方は、紹介した本を、是非是非お読みいただくことをお薦めします。また、最近、この「うえの式」で論文を書いた人の体験談をまとめたような本が出たようです。こちらは、未読ですが、すぐに読みたいと思っています。


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