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飴にまつわるわたしの話

見知らぬひとにもらった飴がある。

その赤い物体は端をねじったセロファンに包まれて窮屈そうに全身をまるめ、てらてらと濃厚な光沢を帯びて机の上に鎮座している。

それ以上でもそれ以下でもない。
ただそこにあるのだった。

 

小学生のころ、知らないおばあさんにもらった飴を食べた子どもが搬送されるという事件が多発した。

下校時刻をねらって小学校のあたりをうろつき、曲がった腰をかばいながら出会った子どもに毒物をくばって歩く老婆。

夏休みに入る少し前のことだった。
朝の会で担任の先生が告げたことばが、汗で滲みができたプリントに印刷された注意喚起の文字が、それを見た母親の不安げな声が、夏の暑さとともに記憶にきざみこまれた。

死人は出なかったし、搬送された子どもたちもその日のうちに家に帰ることができた。もしかしたら毒物なんかじゃなくてたまたま傷んでいただけなのかもしれないけれど、だれも真相はわからない。

わたしにとってその老婆の姿は、斧をもった殺人鬼と同じレベルで恐怖のトレードマークとなった。

 

いま、目の前には見知らぬひとにもらった飴がある。

黒檀のテーブルには似つかわしくない幼い雰囲気がかえって不気味さを放っている。

「信州りんご」とだれかが考えたことばをだれかが印刷したセロファンにくるまれて微動だにしない。
そのだれかにしても、自分がかかわった商品がこんなシチュエーションにおかれているなんて想像してないだろう。

見知らぬひとにもらった飴。
いま、わたしの目の前にある。

カサカサと畳の上を這いまわる甲虫みたいな音をたてながら、見知らぬひとにもらった飴のセロファンを解く。

指でつまんで光にさらしてみると、それはまさしく飴であった。少々力をこめただけでは潰れないほど固いのに、表面はどろどろの粘り気でコーティングされてぐにゃぐにゃと波打つ。

仮にいま、ここで命を落としたとしてもいい。

わたしはわたしの喉に、見知らぬひとにもらった飴を転げ落とした。

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曲と小説。作り手でありたい人。

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