【現代詩】 路地と河原 辮髪の歌

辮髪のヨウは
北の水死者を弔う
手の甲に母の癖字で
巻石と彫った
アウシュビッツの国で

辮髪のナムは
路地の証言者
南の街を踊った
淀みに浮かぶ
オノマトペにあわせて

骨の海
臓腑の波
一人一人
呼び覚ましていく
細心の注意を払う

肌をすまし骨を磨く
浜辺で小さく叫ぶ

ゆれている
きざんでいる

青年は慄えた
半透明の膜で
連なる花弁は
白々しい空に
ひらひららと

忘れたくなくても
忘れちまう
体に刻んでも
いずれは朽ちる

頭に残された
黒のかたまりが
北の川のトグロ石と
傷みの大三角を形成する

ゆれている
きざんでいる
つながっている
もてあそんでいる
 
ながれている

【辮髪】
清王朝から始まった習慣。
満州人は頭頂部のみを残した、モンゴル人は頭足部を残している。
1644年明が滅亡し清が北京入城、摂政ドルゴンは漢人に対して「薙髪令」を発令、満洲人に対する服従の証拠とした。
1645年からは、辮髪を拒否する者は死刑となった。

【巻石】
巻石(まきいし)。石巻市の地名の由来になったという伝説を持つ岩。石巻港は北上川の河口にあるが、そこから500mくらいさかのぼった川岸近くにある。小さな島になっていて、橋が掛かっている。

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