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【台湾の面白い建物】宜蘭縣政府

ほとんど日本では知られていませんが、象設計集団が設計した宜蘭県庁舎という建物があります。

これは、日本人的な感性で見ると、台湾では画期的な建物です。巨大なオフィスとなりがちな庁舎ビルを、ヒューマンスケールの3階建てに抑えて、屋上緑化を施し親しみやすい施設としていること。ランドスケープと一体化して公園の中の庁舎といった趣にしていること。地元の建材を使い、かつ新しいスタイルを打ち出していること、などなど。これだけのことを台湾で実現した日本の建築家がいたことにほとんど感動を覚えました。

建物のデザイン

中庭スペース

この一見中国の庭園かという設えの中庭スペースは、池になっています。これは自然換気の装置で、気化熱により涼しい風を循環させる仕組みになっています。そのため、この建物の廊下は大体半屋外になっています。

エントランスホール

まるで、昔の小学校建築の様な懐かしい佇まいです。そのような雰囲気になるのは、木の使い方からでしょうか、2階建てのスケール感からでしょうか。
日本でも象設計集団の設計した建物を見学したことがありますが、同じような雰囲気を感じましたね。

外部のパーゴラ

こちらは議会棟外部の廊下です。厳しい日照を和らげるために、ルーバーが設けられています。

ルーフガーデン

この建物の大きな特徴に、大規模なルーフガーデンが計画されていることがあります。これは断熱を図ると共に、ランドスケープの重要な一部として計画されているのだと思います。台湾の他の場所では見たことのない、非常におおらかなルーフガーデンです。

中層のオフィス棟

この佇まいが、学校のような雰囲気を醸し出しますね。そして赤レンガという外装材の選択と色が、伝統的な台湾建築の雰囲気になります。

赤レンガの外壁
外部廊下

自然換気のために、池が設えてあり、これに面した廊下は半外部として計画されています。このために、室内が一昔前の学校建築のような雰囲気になっています。
このような計画を実現するためには、建築家側の提案だけではなく、それを受け入れるクライアント側の資質が必要になります。この様な外部廊下とするためには、セキュリティーの問題にある程度目をつぶり、自然換気と省エネルギーの面を高く評価しないといけません。これを発注した宜蘭県はその様に判断したということですね。

正面エントランス

この建物は威圧感というところから遠く離れた場所にいます。この正面エントランスは低層二階建て、屋上にはルーフテラスが計画されています。この様な佇まいは、すなわち、この時代の宜蘭県の首長が、その様なスタイルの政治家だったということを表しているのだと思います。

議会棟

この施設で最も大きなヴォリュームとなっている部分が、この議会棟です。形状が上にいくほど張り出しているのは扇型の座席の配置をそのまま表現している様子です。

赤レンガの外壁

この赤レンガの外壁は、伝統住宅のものとして見ることはありますが、現代の建物で使われることはほとんどありません。これをあえて使うことで、かえって土着的な魅力を讃えています。

ランドスケープ

中央のランドスケープ

この県庁舎は、平面レイアウトは馬蹄形、そしてその中央に池を配置しています。こういう環境装置は、中国の伝統的な集落でもよく見られるものです。外部空間にもこの様な水盤があることで、気化熱による空気の循環が起こり、自然換気の考え方をさらに一歩進めています。

ランドスケープデザイン

この中央部の水盤周りも、非常に丁寧にデザインされています。そして常に市民が入ってこれる、自由な公園となっています。

龜山島のメタファー

この斜めの石積みは、龜山島をイメージしてデザインしていますね。後に姚仁喜建築師が、このモチーフで蘭陽博物館を設計しています。

赤レンガの床仕上げ

この赤レンガの床パターンも伝統建築を参照しています。

ルーフガーデン

このピラミッド状の傘は、トップライト兼自然換気装置になっています。これも廊下が外部空間だからこそできる処理ですね。

パラペットのディテール

台湾でのパラペットの天端は普通何も考えられておらず、単にタイルが貼ってあるだけなのですが、この建物ではそこにも気を遣っています。二段に分けることでボッテリ感を払拭し、また複数の寸法にも対応できるようになっているのでしょう。

トップライトの見上げ

廊下からトップライトを見たところ。光も風も自然を利用しているのですね。

政治家、陳定南

この非常に特徴のある、台湾で画期的な県庁舎が計画された背景には、当時の宜蘭県知事である陳定南の存在があります。
陳定南は、国民党とは一線を画しつつ、台湾の中央政界でも活躍した人物です。汚職を憎み、土木建設工事には公正、正確を期する。その様な政治的態度が国民から敬愛され、後に法務部部長職を任せられています。
この様な人物がいたからこそ、日本の設計事務所象設計集団に県庁舎の設計を発注し実現させることができたのでしょう。

この人物に関しては宜蘭の名士として記念館が作られています。

象設計集団リエゾンオフィス

なお、この宜蘭県庁舎は30年前に施工された建物ですが、この建物の設計と監理を行った象設計集団は、今も宜蘭の地で健在です。今でもリエゾンオフィスとして存在し、様々な設計監理業務を行なっています。
同じ建築設計を業としていた人間として、この様に台湾の地で継続的に建築家として活躍している象設計集団の人達を尊敬しています。

リエゾンオフィスのエントランス
オフィスの外観



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