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振り返るとそこには虫もいなかった。

電話が鳴った。

「あたしメリーさん、いまゴミ捨て場にいるの」

「あたしメリーさん、いまタバコ屋さんの前にいるの」

「あたしメリーさん、いまあなたの家の前にいるの」

「あたしメリーさん、いまあなたの後ろにいるの」

ぎゃあああああああああああ!!!



こんにちは、昼杉です。

ご存知、怪談系の都市伝説「メリーさんの電話」です。

この話の肝はその後の展開、つまりオチがないこと。
緊張感がピークのまま余韻を残す、なんともいえない不気味さ。
考察の余地があり自分なりの解釈を見つける楽しみがあります。

しかしどうも煮え切らない、息を吐いて爽快な気持ちでありたい。
そんな不満がある人も少なくないでしょう。

突然 何の話かと言いますとね。
いや、ね、、私、体験したんですよ。


~~~


横切る車を眺めながら、横断歩道を前にたたずむ仕事帰りの晩のことである。

春とは思えぬ生暖かな風が吹いていた。

───あたシ………、に……ィルの………

ピタリと風が止んだ。
確かに聞いた。道路脇の茂みの中から呼びかける声を。

背筋が凍り帰路を急ぐ。
行けども行けども聞こえる声。

『あたし………、に……いるの………』
『あたし………、に……いるの………』
『あたし………、に……いるの………』

1か所ではない。あちらこちらで呼んでいる。
なんなんだよ、なんなんだよ!ようやく着いた自宅に飛び込む。

電気をつけTVの電源を入れた。
お気に入りのバラエティ番組が映る。
軽快なトークを飛ばす出演者。黄色い声で賑わすオーディエンス。
ほんの数分ぶりだが、どうにか取り戻した日常。待ち望んだ平穏。

冷蔵庫の缶ビールに手を伸ばす。
指先が痛くなるくらいよく冷えたビールだ。
最初は唇の泡の感触。
次に舌を冷やし、ごくごくと喉を鳴らして五臓六腑に染み渡る。
押し寄せる幸せ。楽園はここにあるのだ。

───あたし………、に……いるの………

酔いがめる。

ドアの外で確かに聞こえた。
汗を握る拳。怖くなり思い切って玄関のドアを蹴り破るが、誰もいない。

幻聴か、ホッと胸をなでおろした直後、足元から確かに聞こえた。


『『『ジーーーーーー、ジーーーーーー……』』』


気付けば手に握っていた得体の知れぬ"ナニカ"。

わあああああ!己の声とは思えぬ叫びが飛び出す。

恐ろしくなり振り払うが、まとわりついて離れない。

何なんだお前はぁぁぁぁぁァァ!!
叫びはやがて断末魔のような絶叫に変わった。

すると天界から一人、白髪の老人が降り立った。

「神…様……?」

私は問う。

───""それ""はクビキリギスじゃ……

「首切り…!?」

───なにもお前さんの首を切るわけではない。噛み付く力が強いんじゃ。
一度噛み付くと、とんと離さず、強引に引き剥がしたって、首がもげても離さないのが由来と言われておる……

「なんてことだ……、他にはどんな特徴が?」

───バッタのなかまでは数少ない成虫越冬をする種なんじゃ…
いまの時期から繁殖のため、あちらこちらで鳴いて自身の存在をアピールするんじゃよ……

そう言い残すと老人は闇夜の先にスゥッと消えていった。

クビキリギス

視線を"クビキリギス"に戻すと、せっせと脚の掃除に勤しんでいた。

か、かわいい…!!







・あとがき
わりと爆音で鳴いているのですが、
音のする方を探してもなかなかみつけられません。
それと"あたし"と聞こえた気がしたんですが
このクビキリギス、よく見たらオスでした。

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