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いろ衣都つむぎ ~恐れるな~

幼い頃はとてもこわがりでした。
こわがりなため、自転車にも乗れなかったくらいです。
そんなわたしに、いつ頃からか、「恐れるな」という言葉が頭に浮かぶようになったのです。

中学3年生のとき、進路を決めなければならず、わたしはほんとうに困っていました。
高校へ進学したくなかったのです。あと3年間も学校へ行くなんて、地獄だと思いました。だけど、中卒で働くことも考えられなかったのです。働くことはまた未知の世界でしたから、そこへ飛びこむ勇気はありませんでした。
わたしはいっそ修道院にでも入りたいと思いました。
でも、カトリックの教会は近くにはなく、修道院ってどうしたら入れるのかわかりませんでした。
成績は、3年生になってから、勉強をあまりしなくなったので、学年で30番くらいに落ちていました。2年生の頃は10番くらいだったのです。
とはいっても、この成績で、進学しないなんて、まずいません。
わたしには相談相手がいませんでした。
だれにも進路を相談できなかったのです。わたしは両親に、思っていることを話したことがありませんでした。
わたしは成績に応じた高校を受験し合格しました。
でも、1学期通っただけで、それ以上行かなくなりました。

不登校になったわたしを、両親はどうにもしませんでした。
わたしを置いて、普通に仕事に行きました。
わたしは、家じゅう掃除をして、洗濯をして、買い物に行き、夕食の支度をしました。家事はひととおりできたので、家にいるのだからやるべきなんだろうなと思っていました。
そのことについても、両親はなにも言いません。用意されたごはんを黙って食べるだけです。
そんな日々を半年続け、わたしはふいに、職安へ行こうと思い立つのです。

「恐れるな」
そう、その言葉があったのです。
わたしは勇気をふりしぼって、職安の係の人にアルバイトがしたいと
言いました。

「恐れるな」
わたしはしいたけ栽培農家で働くことになりました。
仕事は単純作業で、そのこともわたしにはよかったのです。
わたしはまじめに働いて、アルバイト代を少し上乗せしてもらいました。
そのお金で、わたしはまず「広辞苑」を買いました。

「恐れるな」
そう、人間は恐れないでいい存在なのです。
わたしはそれからバイト先を変え、喫茶店でウエイトレスをやるようになりました。接客は思いのほか楽しく、わたしは笑顔も増え、話すこともうまくなり、会う人それぞれにいとしさを感じるようになりました。

若い日に、普通の子と同じような経験ができなかったのは残念ですが、わたしは自分の道で、内的成長できたのです。
ほんとうに恐れることはそんなにない。
わたしはそれ以後もいろいろなことに飛びこまなくてはならなくなりましたが、でも、大丈夫、という気持ちがあって、ここまできたのだと思います。

大丈夫。行動してみようよ。
恐れなくていいんだよ。

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