宮武久佳 (みやたけ・ひさよし)

大学教員&フリーライターです。長く務めた通信社(記者・デスク)を経て大学に転籍。「著作…

宮武久佳 (みやたけ・ひさよし)

大学教員&フリーライターです。長く務めた通信社(記者・デスク)を経て大学に転籍。「著作権」「メディア論」が専門。教室では歩きながら講義します。「食べる」「飲む」が好きなので筋トレしています。 公式サイト: https://www.hisamiyatake.com/

マガジン

  • コピーライトラウンジ 《著作権と知財を考えるエッセイ集》

    「著作権」に関する連載エッセイです。発明に関する研究や実務のための月刊「パテント」誌(日本弁理士会)に2014年11月から15年12月に掲載されました。

  • 30年前の予測、当たった? 新聞、テレビ、広告の将来を考える

    インターネット時代に新聞や雑誌、テレビなどのメディアや広告はどうなるのかー。約30年前、共同通信社の国際局に勤務していた当時、調べたことを職場で回覧していました。記事は当時のままです(原文は縦書き。漢数字を使っておりました)。

最近の記事

日本の大学、日本のオーケストラ

東京にはロンドンやニューヨークよりも多くのプロのオーケストラがあります。こんなにオーケストラの多い都市は世界でも珍しいでしょう。 東京に住んでいて、気軽にライブ演奏に触れられるのはクラシックファンの喜びです。毎晩どこかでオーケストラ以外でも、ピアノやヴァイオリンのリサイタルや室内楽の生の演奏が聴けるのです。 世界のトップ・オケもやって来る さらに音楽ファンの喜びは、日本の各都市にウィーンフィルやボストン交響楽団など世界屈指のオーケストラがかなりの頻度でやってくることです

    • 「I Love You」ー 日本語にないフレーズ

      日本語には「I love you」に相当する決まったフレーズが存在しない––。 高校生のとき、現代国語の先生が教室でそうつぶやきました。日本人と日本語の特性について説明したときのこと。もう50年も前の話です。 「こういうと、君らは『私はあなたを愛します』『私はあなたが好きです』ではないですか、と言う。そんな日本語があるだろうか。ヨーロッパの多くの言語や中国語にも『I love you』に相当する決まった表現がある。日本語にはない。なぜか?」 「死んでもいいわ」 カ

      • 教室の幽体離脱

        大教室で大勢の学生相手に講義をしていて、受講者のやる気が下がり、ダレてくるのは、教壇にいるとよく分かります。 目の前には確かに数十人の身体があるのですが、観察していると、まるで抜け殻のようになった学生がいるではありませんか。魂は教室の天井付近に浮遊しているようです。あるいは窓をくぐり抜けて、青空の向こうのどこか遠くに行ってしまっているのかもしれません。 まるでコピーロボット 残念ながら魂は目には見えませんが、人形のように動かなくなった等身大の抜け殻はあそこに一つ、手前に

        • 「日本人の協調性」は本当か?

          日本人の美徳や長所として「高い協調性」が挙げられます。「利他精神の表れだ。自分よりも他人を優先する人たちだ。素晴らしい」と。 同時に、これをネガティブに「集団主義」が根底にあると解説する人もいます。 どうでしょう? 本当は日本人は集団主義の人たちというよりは、「個人プレーの人たち」のような気がします。 客室乗務員に賞賛の声 確かに、空気を読むことがうまい日本人は、他人の要求を察知して、ひとつの目標に対して、さっと手分けして動きます。運動会や学芸会などイベントで、段取り

        日本の大学、日本のオーケストラ

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        • コピーライトラウンジ 《著作権と知財を考えるエッセイ集》
          13本
        • 30年前の予測、当たった? 新聞、テレビ、広告の将来を考える
          8本

        記事

          知っておきたい「バカズ理論」

          知ってた? 岡本太郎の「芸術は爆発だ」は間違い。本当は「芸術は場数(バカズ)だ」らしいよーー。 これは私が記者をしていた時に、先輩デスクから聞いた「秘密の話」です。本当のようなウソのような話。でも私は「爆発でなく『場数』こそ」と思います。 破格な芸風にふさわしい インタビューで、記者が岡本太郎(1911-96)に「先生、芸術の本質って何ですか」と直球の質問を投げたのが発端です。太郎は一瞬、沈黙します。やや時間をおいて静かに答えました。 「そうだね、君。芸術はね。芸術は

          知っておきたい「バカズ理論」

          遊ぶために生まれてきた?

           いったい私たち人間は、いかなる点において他の動物と違っているのでしょうか。人間が真に人間らしいとはどういうことなのでしょうか。  ギリシア以来、哲学者は人間を他の動物と峻別するために、さまざまに規定してきました。「ホモ・ファーベル(作る人)」「ホモ・エレクトゥス(直立する人)」「ホモ・エコノミクス(経済活動する人)」などがそうです。よく知られているのは、「ホモ・サピエンス(知恵のある人)」でしょう。 「遊んでいる」状態が究極の姿  私が好きなのは、『中世の秋』で知られ

          カリフォルニアは「島」だった? 間違った地図で命を落とす

          コロンブスやマゼランで知られる大航海時代の幕開けからすでに200年たった17世紀後半から18世紀の初頭の地図の話―。 この時期に作られた地図の数々は現代人の目から見てもそれほど違和感がなく、それらしく描かれている。 しかしどの地図にも共通して、1つだけ重大な欠陥が見える。 カリフォルニアが半島ではなく、独立した「島(アイランド)」として描かれていることだ。 ▼ 「山脈を越えると、海が広がるはずだ」 下の地図を見てほしい。 現在のカナダのバンクーバー付近を北限に、現

          カリフォルニアは「島」だった? 間違った地図で命を落とす

          自分の権利と相手の権利 コピーされることで世界に広まる

          連載『コピーライトラウンジ』(第14=最終回 2015年12月) 月刊「パテント」(日本弁理士会)から転載(全14回) 仮に車いすに父を乗せて、小さな道路を渡るとします。付近に信号が無く、車や自転車の往来が途切れません。立ちすくみ、心の中でつぶやきます。 「そのクルマ、ちょっと待ってくれたら渡れるのに。車いすが見えないかな」「え、このタイミングで自転車が前から来た」「あ、ベビーカーだ。こっちを優先してくれないかな」 別の日、私は同じ場所で車を運転しています。大人や子供、

          自分の権利と相手の権利 コピーされることで世界に広まる

          オフサイドと著作権 教わらないと分からない

          連載『コピーライトラウンジ』(第13回 2015年11月) 月刊「パテント」(日本弁理士会)から転載(全14回) 著作権について話をするとき、サッカーのルールを例に挙げることがあります。 「1チームは11人で」「ゴールキーパー以外は手を使ってはいけない」は誰でも知っています。しかし、「オフサイド」となると自信を持って説明出来る人の数はぐっと減ります。オフサイドは、教わらないと分かりません。 たいていの人は「他人の著作物を無断でコピーしてはだめ」「他人の作品を自分の名前で

          オフサイドと著作権 教わらないと分からない

          「忘れられる権利」の是非 歴史を書き換えて良いか

          連載『コピーライトラウンジ』(第12回 2015年10月) 月刊「パテント」(日本弁理士会)から転載(全14回) 数年前の平日、小さな会社の社長と近郊の温泉を訪ねました。ひと風呂浴びて、ほけっとしていると、彼がつぶやきます。 「こんな静かなところで埋没して暮らせたらいいねえ」 私は「埋没する」という言い方に、どきっとしました。 当時、彼は経営難の会社と私生活のことでくたびれ切っていたのです。綱渡りのような日々を送り、ようやく手に入れた休日を愛おしく感じている様子が伝わ

          「忘れられる権利」の是非 歴史を書き換えて良いか

          コピペ問題と著作権 正確な「引用」を

          連載『コピーライトラウンジ』 (第11回2015年9月) 月刊「パテント」(日本弁理士会)から転載(全14回) 正直言って、学生の答案や課題レポートを採点することは苦行です。 まれに「お、この学生、良いこと言ってる。このアイデア、使える」ということもありますが、たいていの場合、「誤字脱字」「主語と述語がねじれた複雑な文章」「あり得ない論理展開」と格闘しながら、点数をつけることになります。 何回読んでも頭に入ってこないことも珍しくありません。 答案を風で飛ばし、遠くに行

          コピペ問題と著作権 正確な「引用」を

          所有からシェアーへ 誰か2時間でオペラを教えて

          連載『コピーライトラウンジ』 (第10回2015年8月) 月刊「パテント」(日本弁理士会)から転載(全14回) マザー・テレサの持ち物は、2枚のサリーとバケツだけだったと教わったことがあります。バケツはサリーを洗うため。マザーは「モノを所有することは、自由を失うことにつながる」と説いていたそうです。 著作権などの知的財産権は主に、有体物(モノ)でなく、無体物(情報やアイデア、コンテンツ)を対象にしますが、今日はモノについて考えます。 情報技術の圧倒的な進化のために、「モ

          所有からシェアーへ 誰か2時間でオペラを教えて

          指輪と百科事典 セールス担当者が知る秘密

          連載『コピーライトラウンジ』 (第8回 2015年6月) 月刊「パテント」(日本弁理士会)から転載(全14回) 「大学院への進学が決まった時にね、父がプレゼントをくれるって。カレッジリングか、『ブリタニカ』百科事典か、どっちがいいかと尋ねてきたのよ」 今から30年以上まえ、米国の大学院に留学していたころ、同級生のエリザベスが言いました。カレッジリングとは、大学紋章と卒業年が刻み込まれた大ぶりの指輪です。暗に出身校を示すことができるので、一時よく流行りました(今、あまり見か

          指輪と百科事典 セールス担当者が知る秘密

          ベートーヴェン時代の著作権 楽聖はどうやって金をかせいだ?

          連載『コピーライトラウンジ』 (第7回  2015年5月) 月刊「パテント」(日本弁理士会)から転載(全14回) ベートーヴェン(1770-1827)は貧乏だったとよく言われます。 しかし、評伝を読んでいると、実はそうでもないような気がします。確かに、手元にお金はあまりなかったかもしれないが、少なくともかせぎは良かったようです。 生涯独身だったベートーヴェンは甥のカールの養育のためにかなりのお金を使いました。また、引っ越し魔でもありました。彼の何軒かの住居は、今では「ベ

          ベートーヴェン時代の著作権 楽聖はどうやって金をかせいだ?

          レストランと写真撮影 権利は誰のもの?

          連載『コピーライトラウンジ』 (第6回2015年4月) 月刊「パテント」(日本弁理士会)から転載(全14回) カジュアルなレストランや居酒屋で、同僚や仲間とわいわいやったあと、お店の人にグループ写真の撮影をお願いすることがあります。たいてい気軽に応じてくれます。割と楽しい時間です。 「もうちょっと中央に寄ってもらえますか」「はい、はい」 「笑顔でお願いします。はいチーズ」 「念のため、もう一度、お願いできますか」「いいですよ」 「あ、このカメラでも、お願い」「はいはい」

          レストランと写真撮影 権利は誰のもの?

          卒業式と著作権 音楽はタダではない

          連載『コピーライトラウンジ』(第5回2015年3月) 月刊「パテント」(日本弁理士会)から転載(全14回) 街を歩けば、色とりどりの晴れ着や袴姿の女子学生を見かけます。今年も卒業式の季節になりました。 誰もが一度は経験する卒業式。かつて式の定番歌だった『蛍の光』や『仰げば尊し』に代わり、今ではポップス系ミュージシャンが競うように「卒業ソング」に挑戦しています。この時代に作られる歌の著作権の扱いはどうなっているのか少し気になります。「卒業イベントと著作権」、実はそれほど単純

          卒業式と著作権 音楽はタダではない