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レストランと写真撮影 権利は誰のもの?

連載『コピーライトラウンジ』 (第6回2015年4月)
月刊「パテント」(日本弁理士会)から転載(全14回)

カジュアルなレストランや居酒屋で、同僚や仲間とわいわいやったあと、お店の人にグループ写真の撮影をお願いすることがあります。たいてい気軽に応じてくれます。割と楽しい時間です。

「もうちょっと中央に寄ってもらえますか」「はい、はい」
「笑顔でお願いします。はいチーズ」
「念のため、もう一度、お願いできますか」「いいですよ」
「あ、このカメラでも、お願い」「はいはい」

私はお店の人とのこうしたやりとりが好きです。

そもそも集合写真を撮ろうという気になるのは、宴が盛会だったことの証左ですし、デジタル写真の時代、自分たちの姿をその場で確認するのも楽しいものです。

ところで、このグループ写真の著作権は誰のものでしょうか?


◆写真の著作権

「著作権とは何か」「誰が著作権を持つか」について、人に説明するときに、私はよくこの問題を例に出します。

一番多くある答えは「飲食代を払い、カメラも差し出すのだから、著作権はお客にある」というものです。次に多いのが「撮影した店員」という答えです。時々、「撮影した場所がレストランなのだから、(著作権は)レストラン店主にある」と答える人もいます。

正解は、撮影した店員です。

店員はシャッター(スマホのボタン)を押すときに、ほんの少しでも、照明の具合や位置、アングルを気にかけるのではないでしょうか。

気の利いた店員なら「もっと中央に集まって」「笑顔で」と被写体のお客に指示するし、ファインダー(スマホのディスプレー)を見ながら、シャッターの合図を被写体に知らせたりもします。

どんな人でも「より良い写真を」と思いながらシャッターを押すと思います。つまり、ボタン操作をするにしても、創意工夫を働かせるのではないでしょうか。

著作権法では、著作物の定義を「創作的に表現したものであつて」(1項1号)としています。店員の創意工夫は「創作的な表現」と解されるでしょう。

したがって著作権(複製権)は、より良い写真を撮影しようとしてシャッターを押した店員にありそうです。

とはいえ、レストラン従業員とお客との関係からすれば、店員が著作権を主張するとは考えにくいので、黙示の合意すなわち「著作権は店員から客に著作権が譲渡された」と考えるのが常識的かもしれません。

余談ですが、昨夏、サルが自分を撮影した写真が話題になりました。自然人でないものに著作権が適用されることはあり得ないでしょう。

◆肖像権をお忘れなく

ところで、ネット上のブログやフェイスブックを眺めていると、写真の著作権侵害(複製権と公衆送信権の侵害)が横行していることに気付きます。

アップする人からは「ネット上で公開されているのだから、自分のページで展開してもよいはず」「他の人もやっているし」という声が聞こえて来そうですが、勝手な理屈です。

もしも、人の写真を無断でトリミングしたり、吹き込みをみを作ったりすると、これは改変となり、著作者人格権の侵害にもなりそうです。

話が変わりますが、自分が写っている写真がネットやSNS上で閲覧可能になっているのも気になるところです。

「飲み会で撮られた写真が、知らないうちにフェイスブックにアップされた」経験をお持ちの人も多いのではないでしょうか。

この場合、肖像権が問題となります。誰でも、自分の顔や姿が勝手に撮影されたり、公開されたりするのを拒否することができます。

私たちは、自分が他人の目にどのように映るかについて、「できれば自分でコントロールしたい」という気持ちがあるでしょうし、「一人で放っておいてほしい」「自分の顔や姿を人目にさらしたくない」と願う場合もあります。

肖像権はこの考えに根ざします。

ところがSNSを見ていると、飲み会でのリラックスしすぎた風景や赤ら顔の姿をさらしているものを見かけることがあります。他人事ながら「いいのかな」と思います。

およそ人物が写っている写真には、肖像権がつきまとうということをお忘れなく。

画像はネットにいったん投稿すると、簡単に他人の手によって拡散します。インパクトがあればあるほど写真は衆目にさらされやすくなります。

いったんそうなると、半永久的に画像はネット上に蓄積されます。写真に写っている人物は、特定されやすいという現実もあります。これって怖いですね。

◆料理とスマホ写真

最後に料理の撮影について考えてみましょう。

レストランで料理が出てくるたびにスマホで撮影する人がいます。よほどアート的な料理でない限り、著作権の問題ではありませんし、まして肖像権に類する問題でもなさそうです。

法的な問題は考えにくいと思います。

しかし、現実はどうか言うと、写真に撮られるのを歓迎する料理人がいる一方で、多くのシェフがこのことに頭を痛めています。

撮影された写真がどんな風に利用されるか分からないからです。弁護士に相談している店主も増えているそうです。

「撮影お断り」を店内に表示している店もあります。無粋に見えますが、仕方ないのでしょう。

「お金を払っている客だ。写真ぐらい撮らせてよ」と言う人がいるかもしれませんが、自分がレストランや料理人の立場だったら、と考えてみたらどうでしょうか。マナーや行儀の問題にみえます。
(了)

みやたけひさよし 東京理科大学大学院イノベーション研究科教授。日本音楽著作権協会(JASRAC)理事。共同通信社記者・デスク、横浜国立大学教授を経2012年から理科大に。著書に『知的財産と創造性」(みすず書房)など。

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