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新技法探求⓵

おじさんだよ。

最近引越して、自分の作業場を手に入れました。

いずれはイーゼルを買ったり、画材を入れられる引き出しが欲しいところ。

今まで絵というと油画の話ばかりでしたが、今回はもっと身近な画材を使ったお話をひとつ。

おじさんは油画の傍ら、色画用紙を使ってクレヨンや木炭色鉛筆インク等々で描くドローイングをしていたのですが、これが面白い。
学校で使うような身近な画材のもつ魅力に、描けば描くたび気付かされ、最近はそればかりに惹かれています。

元々これは、図書館で借りた技法書に色彩訓練の手法として記載されていたドローイング技法でした。
素で色のついている色画用紙に、さまざまな色のクレパスを使って印影をつけていくことで色彩感覚が養われる、と。

何回かやるうち、色彩訓練というよりは、クレヨンや色鉛筆など、身近なさまざまな画材の持つタッチの綺麗さに惹かれて描くものになっていました。
どこで素の紙の色を残すのか、何色を使うか、画材は何を選ぶか…結構頭を使います。

今見返すと、最初から結構色彩の印影訓練の意図は無視して自由にやってしまっていますね。
この辺りはまだ印影感を意識していたかも。

紙ペラ一枚のドローイング、素描にすぎないものを展示する時、こちらが丁寧に作品として体裁を整えないと、その魅力を発揮しきれないようにおじさんは思います。
たとえば、額縁に入れるとか。壁に貼るにしても無造作に貼らないとか。


おじさんはアマチュアの人の展示のドローイングを見る時、それがどんなに魅力的なドローイングであろうと、展示会場のおまけ程度に、壁にマスキングテープで雑に貼られていたりすると、少し冷めた目で見てしまいます。
おまけで貼るくらいなら貼るな、バインダーに綴じて邪魔にならないよう机に置いておけばいい。
いくらメインの作品のおまけであろうが、展示空間に出す以上は、そこにも誠意があるべきだ、とモヤモヤすることは少なくなく。


そんなふうに思うからこそ、今メインで自分がドローイングを描いている以上、これを作品として成立させるにはどうすべきか一度考えなくては、と思い立ったわけです。

今、おじさんは油画をメインにやってはいますが、絵画作業の9割はドローイングです。
油画も、ドローイングで行っていたイラスト的な表現を油画に落とし込みたいという目的が今は主です。

なら、そのドローイングそのものにもう少し作品としての価値を与えても良いのではないか、と思ったのが今回の研究を始めたきっかけになります。


その、現在の創作行為の主軸になっているドローイングそのものを作品として強度を上げる探求。
今まで得た絵画組成の知識とそういうのに詳しそうな同期を総動員し、ドローイングを作品と呼べる耐久を持たせ、「価値の温存」の域に押し上げる。
今回行っていくのはそういった研究になります。


まず今回は、木製パネルにドローイングする色紙を貼っていくことにします。


⓵色紙を糊で板に貼り付けて支持体とする
⓶ドローイングをする
③最後に上からニスをかける
当初考えていた手順はこんなもの。
譲りたくないのは色画用紙を使うことと、ニスを塗ることでした。

色画用紙を使ったドローイングに拘りたい、というのは先述した通りです。

また別で、最近、絵画作品に仕上げニスをかける行為の大切さを考えることが多かったので。今回はニスに拘ります。
油画であればタブローですが、やはり「価値の温存」にあたって、作品を長く保存するための上掛けニスはとても大切で…

それにツヤツヤとした画面は見た目も良いですしね。
今回は単純にドローイングを綺麗なつやつやのニスで仕上げてみたい、というのも目的のひとつとしてあります。

使うのはウルトラバーニッシュスーパーグロス。アクリル用ニスで最もツヤが出るタイプです。


まずおじさんは板表面と同じA4サイズ画用紙をスティック糊で貼り、その上からニスをかけました。
…結果からお話しすると、大惨事になりました。

ニスで濡れた画用紙が、塗った瞬間から皺くちゃになり、乾いた後にも大きなシワが残ってしまいました。
しかも乾いた後四辺が見事に剥がれました。

ニスは画用紙を濡らしてしまう、ということがすっかり頭から抜けていたおじさんは、下地の水濡れによる紙の皺対策を怠ってしまったんですね。



濡れた紙は皺になります。それは紙というものが元来濡れると伸び、乾くと縮む性質を持つからです。
それを対策できる技法で有名なものがありますね。

水張り。
事前に濡らして伸び切った紙を板貼りし、それを乾燥させてから絵を描くことでシワを防ぐ技法。
日本画やデザイン、水彩画等を齧った人ならお馴染みのやつです。

ただおじさんは油画出身、キャンバス一筋でやってきたもので、水張りの経験は0、全くやったことがありません。
同期の友人も全員油画。聞いたところ、
「美大浪人経験があって予備校に長く通っていたら経験はあるかもしれないが、自分は一回やったことあるくらいだから…」
という人が大多数。
おじさんよりもきっちり予備校に通っていた人たちでも、そういうくらいの距離感の技法です。

なのでここはYouTubeと予備校のホームページを見ながら見様見真似です。
ざっくり手順をまとめると
①水張りテープを板の四辺の長さでちぎる。紙を板より少し大きく切る。
②紙を濡らし、板に載せる。
③ハケで優しくならしながら、縦縦横横の順でテープを張る。
④半日ほど乾燥を待つ。
こんな感じらしいです。

水張りで苦戦したのが、まず水張りテープの扱いです。

切手のように裏面が濡れると糊になるので、貼る前にハケで少し湿らせて使います。

特性を理解して扱えば便利なものですが、調べもしないでおじさんのようにマスキングテープの代用(マスキングテープは濡れると貼り付かなくなるので今回断念)くらいの気持ちで扱うとちょっとビックリするテープです。

何が大変って、乾燥前はゆるく張り付き、乾燥後の粘着力がすごく高い、その独特の使用感に慣れが要るところ。
乾くと和紙のような表面がボンドで貼ったかのように強靭に固まります。
一度パネルに貼り付けて乾燥したら剥がすのは不可能です。
なので、この水張りテープのロールをうっかり濡らしたらどうなるか…全テープが固着して、固まり…二度と使い物にならなくなります。

友人曰く「梅雨の湿気でもダメになる」とのこと。強力ですが繊細な道具です。

おじさんは水張り途中の濡れた手や机でこれを扱い、テープを半分ダメにしました。
「テープを事前にちぎっておく」と先述したのはそのためです。作業中の濡れた手で使わない水張りテープを触ってはいけないからです。

ただ、まず糊が紙を汚さないこと、水張りでも使うハケで軽く濡らすだけで強力な粘着力を持ち、手早く作業ができること。
更に言えばテープが乾くまで殆ど粘着力を持たないので、作業中はある程度融通が効き、紙と同時に乾いた後は強力に貼り付くところ。
とことん水張りの為に利便性が突き詰められた道具だと感じます。素晴らしい機能美。


あと苦戦したのは、紙の耐久です。
水張りのハケでならす工程や水張り途中で、どうやっても紙がボロボロになってしまう。
耐水性の高い紙や強い厚紙を選んでもダメ。ただ水の浸透する速度が遅くなるだけで、ぼろぼろになるのは変わらず…どうやら紙が原因ではなさそうだ、と悪戦苦闘。

ここは根本的に水張りのやり方を誤っておりました。まあ、恥ずかしい話になるのですが、やりがちなミスですし水張りの大切なコツなので、まあ、軽く書きましょう。

まず、紙の表裏を間違えたらアウトです。
ツルツルした方が表、裏が少しザラザラしています。ここを間違えると一発で紙が濡れに耐えられずぼろぼろになる。

その上で、焦らないことです。先程水張りの工程を書きましたが、一番大切なのは④の乾燥なのだ、と気づくまで紙をぼろぼろにし続けました。

簡単に言えば、ハケで慣らす段階でシワを完全に潰すことは不可能なので、紙がぼろぼろになる前に慣らしをやめる。
そもそも、どんなに丁寧にやっても慣らし段階はシワが出来るのです。
それが乾燥段階で再び紙が縮むことで紙をピンと張ることこそが水張りなのです。

つまりは、乾燥すればよほどのシワでなければ伸びるので、紙をぼろぼろにするくらいならシワは放置してよい、ということでした。
気づかなかった…


ただ今回は、水張りの本来の目的とは違った目的で紙を張っていますから、そこは多少工夫します。

水張りは本来、水彩を描く過程で絵の具で濡れた紙がシワにならないよう、最初に紙を伸ばして張っておく作業です。
なので描き終わって絵が乾燥したら、板からカッターで紙を切り取ります。

ですが今回は板に貼り付けたままニスで仕上げること、かつ下地に耐久性を持たせることが目的。
ですので、板に紙を乗せる前に糊で丁寧に貼り付けています。
今はアラビックヤマトを塗った板を水で濡らしたハケで数回ならして、均等にすることで糊を塗っています。
アラビックヤマトの原料はアラビアゴム。アラビアゴムは元々水彩用の糊として販売されているものですから、これで充分かと思っています。
ただ耐久を考えると膠も試したいですね。
いずれ試す気なのでまた次回があれば詳しく書きますが、鍋で煮たりする必要があり、ちょっと用意が面倒な素材です。
でも市販の糊のようにボトル販売されている液体膠があることを知ったので、それを買って試そうかな、と考え中。

また、ニスを塗ると、乾燥前のシワが復活するのでそれも気をつけないといけないです。
乾けば再度シワも消えるんですけど、ニスのムラの原因になりますから、やはりなんだかんだ言っても水張り乾燥前のシワは極力抑えたい。
そこの対策は考え中。糊や紙を変えて再度試していきます。

あとは描きごこちをもう少し柔らかくしたいので、紙をもう一枚挟みたいとか、色々試したいことはあるのですが、ひとまず基礎はこれでできたかと思います。

そんな感じで、最後は完成した作品を貼って今回は締めさせていただきますね。
こういう思考錯誤は楽しいものです。素材をさまざま試したり、練習したり。これこそアナログで描く絵画の醍醐味!
しばらくやり方の模索は続きますから、また何か新しい発見があった時、聞いてもらえたら嬉しいです。
ではでは。

木炭。フィクサチーフで定着させてからニスを塗ります。
こちらもニス塗り後。水彩色鉛筆を使っているのでそのままだとニスで溶けてしまうのですが、フィクサチーフで守れます。
現在下書き中のポインセチアの絵。
カラーインクとハイターを使った作品。
ニス乾燥中の写真。
最初に作った2作。左はシワだらけで、2枚目はニスが下地に染みてムラになってしまいました。がんばるぞー!

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