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少年たちは青春の「イージュー☆ライダー」 奥田民生 〜 田舎町冒険奇譚 ✖︎ 音楽

今回は地元の田舎町に起きた世にも奇妙な物語について語ります。食事中の方はご注意下さい。

198X年。地元はヨトウムシの幼虫の大群に覆われた。地は緑に染まり、雨は降らず、あらゆる風景はヨトウムシの支配下に置かれたように見えた。だが。地元民は黙って見てはいなかった。らしい。

地元、北海道の田舎町には、圧倒的な自然があった。春には、気がつけばたんぽぽの綿毛が衣服に着き、夏には種の保存の法則に則り、異臭を放つことを宿命づけられた昆虫が衣服にからみ着き、秋には初雪の訪れを告げる雪虫が大量発生し、気がつけば衣服には白い点が着き、冬には雪の結晶が衣服に積もりゆく。

圧倒的な自然。

それはつまり、自然との共存を宿命づけられているとも言える。圧倒的な自然との。

こういった田舎町には、時折、世にも奇妙な現象が起き、子供たちはそれに向かって奇妙な冒険を始めるのが慣例となっていた。

あの頃の奇妙な冒険譚を語ってみよう。

🔷カラスの家をさぐる奇妙な冒険。

田舎町では夕方になると、どこからともなくカラスが大量に山から飛んできて、上空を旋回し、また山に帰るという儀式が毎日のように執り行われる。カラスの数は尋常でなく、空がひとたび真っ暗になるくらいの勢いなのだ。

なぜこういう奇妙な滞空円環飛行を繰り広げるのかは、ついにわからなかった。が、あのカラスは何処から来て何処に行くのか?という、地球に人類が誕生してから未来に至るまでの問いを解き明かすかのような不思議な使命感があった。

人類は何処から来て何処に行くのか

カラスは何処から来て何処に行くのか

カラスの勝手でしょ


カラスが言葉を口に出せたなら、そう言ったかもしれないが。

少年は山に向かう。山は外から見ると優しい緑だが、中に入れば黒が支配する空間。間伐などしていない山だからなおのこと暗い。少年はその時点で恐怖を覚える。自分で引いたデッドラインを割れば我に矢を放てと、いつかのラオウが耳元で囁く。圧倒的な黒い世界には、山のフドウの優しさは無い。悪鬼と化したフドウの顔が浮かぶ。

と、一羽のカラスが矢のように飛来する。

そうなのだ、少年はその時、もはや恐怖に勝てず、デッドラインを遥かに超えて駆け出していたのだ。

カラスの矢は少年の小さな自尊心を貫いた。が少年期特有の性質からか、一晩寝たら忘れて、自尊心は再生していたのだが。知らぬ間に。

そんな平和な田舎町の風景が一夜にして一変した事があった。

世界は緑の幼虫に支配されんとしていたのだ。

🔷ヨトウムシ退治策を考える奇妙な冒険

ドアを開ければ脇の草はらに緑。道を歩けば緑。右を向いても左を向いても緑。

緑とはヨトウムシの幼虫。画像検索はおすすめしない。

なぜこの幼虫が急に大発生したかは謎である。雨が降れば市街地からは洗い流されるはずだったが、たしかその夏は雨があまり降らなかった。

少年はこの幼虫がいずれ室内に入り込んで来て世界が侵略される恐れにおののいていた。ラオウがユリアを求めて、セコム的な海のリハクを退け、南斗最後の将宅に入り込んだような、世紀末的状況が浮かんでいた。

少年は、いくつかの退治策を試みた。バケツで水を撒いたが範囲は狭く効果がない。ホウキではいたがやはり焼け石に水。相手は雲のように進出鬼没、俺たちは雲のように自由に生きるのさという雲のジュウザのつぶやきが、緑の幼虫から聴こえて来そうだった。

効果的な策がないまま日が過ぎた。

少年は数日寝たら関心はキン肉マン消しゴム、通称キン消しに移り、あたりの緑は田舎の風景に調和していった。少年期特有の性質から。

しかし、ある日。

気がつくと町はいつもの姿を取り戻していた。一夜にして現れた緑の幼虫は、数日にして居なくなっていた。雨が降ったのか、役場が殺虫剤を撒いたのかは定かではない。

ただ言えるのは、少年の奇妙な冒険は始まる前に終わったという事。別の表現で、飽きたとも言えるのだが。

今にして、思えば、少年たちは物事を深く考える前に行動をしていた。閃きに誘われて、好奇心を燃料にして。

閃きと好奇心に乗り、気ままな毎日を駆け抜けていた。あの日の少年たちは、青春のイージーライダーだった。

いやそんなにきちっとしたものではない。言うならば「イージュー☆ライダー」か。

ただただ雲のように自由に、遥かなる山の優しさに包まれながら。

あの日の少年たちには、時間は永遠のように感じられた。

それすなわち青春。大げさに言うのならば。


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