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喪失から再生への道 〜 宇多田ヒカル 「Fantome」

新たな「道」は、何らかの喪失を乗り越えたところに現れるのかもしれない

大きく高くジャンプをしようとするときには勢いをつけるために、一度、屈(かが)まないといけない。今が最悪の時期だとしても、それはこれからのジャンプのためのホップステップの段階と思えたら。それは、悲しい時期を乗り越えていく力の一つになるのかもしれない。

アーチストにとって、その時期を乗り越えて、新たな高みに到達する手段は、おそらく、、絵を描くこと、デザインをすること、詩を書くこと、何気ない写真を撮ること、そして、音楽を生み出していくこと。。。

つまり、彼らにとっての根源的な「仕事=WORK」がその原動力となると思う。

辛い体験、悲しい体験が訪れ、一度、屈むことを許された芸術家は、屈みながらも自分の表現を武器にして、さらに大きく羽ばたいていく。

今回ご紹介するこのアルバムは、まさにそういう種別のもの。

宇多田ヒカル「Fantome」


Fantomeは幻、ふとした瞬間に感じる気配という意味のフランス語。

宇多田さんはこのアルバムに取り掛かる前に、母を亡くした。このアルバムは、癒えない心情が、哀しみにくれる情景から、エキセントリックな感情の吐露を経て、最終的には、自らたどり着いた(たぐりよせた)「道」、希望の未来へと連なる、一連の精神的な物語。

歌詞の中に、今は亡き、母親の気配、魂、Fantomeが見え隠れする。

「桜流し」

もう二度と会えないなんて信じられない
開いたばかりの花が散るのを
どんなに怖くたって目を逸らさないよ
全ての終わりに愛があるなら(一部引用)

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