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陶芸に携る方々の話を聞こう in 伊賀(第3回/全6回) 大矢吏さん/オーヤ陶苑 伝統工芸士

HIS地方創生チームが地域の皆さまと一緒になって、その土地ならではの魅力を活かし、地域をより元気にする、そんなプロジェクトが始まりました。第一弾の舞台は三重県伊賀市。ここ伊賀市で陶芸に携る方々と共に、2021年9月に第40回の節目を迎える「伊賀焼陶器まつり」を盛り上げます。

その一環として、伊賀市で陶芸に携る6組さまにインタビューを行い、HISスタッフが素人目線でコラムを作成してみました。伊賀市に根付いた陶芸文化とそれに関わる人たち、その魅力が皆さまに届きますように。
(インタビュアー:HIS 宮地、田中/日時:2020年12月某日)

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大矢吏さん/オーヤ陶苑 伝統工芸士

伊賀で生まれ、会社員を経て陶芸の道へ

「何だか緊張しますね」

我々とのインタビューが始まって大矢さんはそう呟かれた。いやいや、緊張しているのは我々の方である。というのも、伊賀の地で陶芸家として35年以上活躍されている、伝統工芸士の方の貴重なお時間をいただくのだから。

それにしても、陶芸家の方々は大矢さんを勿論のこと、皆さん口調が柔らかい。

ものづくりに没頭され、日々自己研磨を忘れない、その姿勢が人柄をも作っていくのだろう。インタビューの冒頭からそのような大きな気付きを得られたのは何物にも代えがたい。

折角なので、インタビューの数日前まで時間を遡ってみよう。

場所は三重県伊賀市の丸柱、伊賀焼の産地の中心部である。晴天に恵まれ、自転車での移動は運動として申し分なく、むしろすこぶる快適だった。私は現地取材のために「長谷園」「香山窯」そして「オーヤ陶苑」を巡っている最中なのだ。

本来ならば事前に約束をとりつけ、各窯元の方々とお会いすべきところだったが、急用で伊賀を訪問することになり、それが出来なかった。ゆえに窯元の位置確認と簡単な写真が取れれば良いと思っていた。

田畑を右手に見ながらペダルをゆっくりと漕いで「オーヤ陶苑」付近であろう場所に到着した。自転車を止め、カメラを取り出した瞬間、男性から柔らかい口調で声を掛けられた。

「HISの人やね、家の中を見ていくか」

呆気に取られた。自己紹介をすることもなく、一言も発することなく、私は当たり前のように伝統工芸士の作業場に招かれた。それが大矢さんと私の出会いである。

恐縮する間もなく二階へ案内され、いわば倉庫のような場所に通されると、あちらこちらに大矢さんの作品が並ぶ。細かい描写は控えるが、大矢さんが出演されるオンライン陶芸ツアー(2021年5月下旬開催予定)では是非、紹介したい。

伊賀らしい緑色や一風変わった青色のぐい呑・食器などを紹介いただいたが、ひときわ目を引かれたのがこれらの日用品であった。

作品1

上から見ると「スマイル」に見えるが、実は菜箸とおたまを置く事のできるキッチン用品である。

作品2

こちらは手のひらほどの土鍋。電子レンジで温めれば、簡単に目玉焼きや温野菜が作れてしまう。

私の主観ながら、伝統工芸士という肩書きだけを聞くと「非日常」な作品を思い浮かべがちなのだが、これらを拝見するにまったくの誤解だったようだ。大矢さんの作品からは「日常」という親しみやすさが溢れ出ている。

そして無意識のうちに、初対面であるにも関わらず気さくに声を掛けていただいた大矢さんの人柄とも勝手に結び付けてしまう。

インタビューに話を戻そう。
大矢さんは会社勤めをしていたが、25歳の時に養子となったのを機に陶芸の道を歩むことを決意。窯業の研修所に1年通い修行した。それから約35年の月日が流れ、現在に至る。

現在のライフスタイルに合ったものを

大矢さんの自宅のすぐ隣が工場(こうば)であり、昔は父親と二人で営んでいたが、今は一人で作陶に取り組んでおられる。昔は電気窯を使っていたが、今ではガス窯を使っている。電気に比べて効率が良いそうだ。

成形については窯元によって石膏型を使うところもあるが、自分は電動ろくろを使っている作品のみだと大矢さんは言う。ご自身を「職人」と称し、手作りにこだわる。体力よりも気力や根気を要すると続けた。

「使い手を意識した作品」

伝統工芸士だからといって、問答無用に伝統を守っておられるだけではない。「昔ながらのビードロや茶色っぽい土の色を残しながらも、現在のライフスタイルに合うようなものを作っている」と大矢さんは語る。

その顕著な例が、先程紹介した「キッチン用品」であり「手のひらほどの土鍋」である。

見る側が思わず笑顔になってしまいそうなキッチン用品は、上から覗きこむとまるでスマイルマークに見えてくる。菜箸とおたまを置くだけでは勿体ない。外出自粛の最中、家族で鍋を囲む機会を考えればキッチンに留まらず、食卓でも活躍してくれる。

また、小さな土鍋は一人暮らし、ヘルシー志向の方向けの作品だという。忙しい朝に生卵を土鍋に入れて電子レンジで45~50秒温めれば簡単に目玉焼きを作れてしまう。同様に野菜を入れれば、温野菜も作れてしまう。火や油を使わないので何とも嬉しい。

大矢さん自身が自分の作品を実際に生活で使っておられるので、改善点を見つけることもあるそうだ。研究に余念がないとは、まさにこのこと。

「自分にしか出来ないこと」「諦めるのは簡単」

「陶芸家として活動するにあたり大切にしていること、コンセプトなどがあれば教えてください」

素人丸出しの質問を投げかけてみる。
大矢さんはどんな反応をするのだろう、それも含めて知りたい、素直にそう思った。大矢さんの表情は特に変わることなく、真正面から我々の質問を受け止めて下さった。

「自分にしか出来ないこと」

難しいですね、と一言つぶやいた後に「やっぱり、手作りでしか出来ないこと、自分にしか出来ないことにチャレンジしています」とおっしゃった。長い経歴をお持ちであるにも関わらず、チャレンジしているとおっしゃる大矢さんの言葉は胸に響く。

こんな言い方すると偉そうになってしまうけれどもと前置きをされた上で、簡単に他人に作れない、真似されないような「ろくろ」をひくようにしている、と笑顔を添えて付け加えられた。
「僕は作家というよりも、数を沢山作る職人の方ですので」

作家は造形にこだわり、職人は同じものを素早く作る技術にこだわると聞いたことがある。

大矢さんは量産できる技術を求めつつも、そこに手作りならではの要素を作品に込めておられるのだろう。素早く高品質なモノを作るなんて、できっこないと思うのが自然である。しかし、一見矛盾しているものを両立させるところにこそ、簡単に真似されない「価値」は確かに存在する。

「諦めるのは簡単」

「うまくいかない時などありますか」
ここで二つ目の素人質問を投げかけてみる。えい、ままよ。

大矢さんからの答えはこうだ。
「絶えずありますよ。こういうものを作ってくれと言われた時に、何十年やっていても、難しいものは難しい」
それは何とも意外だった。たまにあるのではなく、頻繁に起きているのだとは信じがたい。

1日1個も出来ない時があるが、そこでやめてしまえば、もう二度と作れないまま。しかし、そこでやめずに続ければ、1ヶ月後には50個作れるようになる。そういう風に日々技術を高めている。

諦めるのは簡単だけれども、自分にはできるはずと思ってやる。毎日がチャレンジ。

柔らかい口調の奥底には35年以上もの間、ずっと磨き続けられた何かがあり、それは明日からもまた磨き続けられるのだろう。

伊賀焼陶器まつりへの想い

「伊賀焼陶器まつりですか、バリバリに出店予定ですよ(笑)」

大矢さんの声はやはり明るい。来場者へのメッセージを伺うに
「窯元が販売することは昔あまりなかった。窯元にとっても、お客様にとってもお互いに話ができる場は滅多になく、窯元が自分で売る面白さ、お客様が会話しながら買う楽しみがある」
と口調はそのままで我々に伝えて下さった。

作家は直接売ることもあるだろうが、職人は小売りに卸すことが多いので、自分としてはお客様と触れ合えるのは楽しみ。自分に会いに来てくれるお客様も中にはおられる。

出店しない理由はない、ということなのだろう。なるほど、これが大矢さんのパワーの源か。

「ぬるま湯に浸かっているようなものです(笑)」

大矢さんが30歳を迎える頃までは毎年正月の時期に海外旅行を楽しんでいたそうだ。その際に一緒に旅行した同業者の方々は、今でも良きライバルであり、仕事仲間であるという。

ぬるま湯に浸かっているようなもの、と言いながらも「陶芸コミュニティがあるのが伊賀の魅力の一つ。例えば、同業者が集まってひとつの薪窯を作るのは、全国的にも珍しいことだと思う」と語る大矢さん。

自己研磨の毎日で、お仲間とのんびりされる時間があっても良いのではと思った。

オーヤ陶苑の紹介ページ:
https://igayakimatsuri.com/syoukai1.html#member08

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次回は伊賀焼に魅せられて伊賀に移住した陶芸作家「須釜優子さん」のインタビューをコラムにてお届けいたします。陶芸家を目指すきっかけとなった子どもの頃の出来事は必読です。
こちらもお楽しみに。



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