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日本人の法意識 * 読んだ

難しそうなタイトルの本だが、外国人とビジネスをするうえで『日本人あるある』が書かれていて、飛鳥時代から及ぶ和の精神がよく分かった本。

先日、在宅勤務中に警察官が来て、居住者情報を記載するように言われた。
こうした場合、市役所でも郵便局でも調べられるような、国にとっては簡単なことを、なぜわざわざ個人宅を回って記載してもらっているのだろうとぼんやりと思っていた。

私は日本国民として重要な基本原則を忘れていた。
三権分立であるところの、立法権、行政権、司法権である。

警察は司法の管轄であり、市役所などは行政の管轄である。
司法という権力が物を言わし行政情報を容易に入手出来てはならないのだ。

要するに、権利と権力はまったく違うものであり、権利を権力化してはならない

私は法律が何であるか、その基本と概念がまったくわかっていなかった。

日本人は無宗教を名乗る人が多いけれど、外国人にとって、聖書なき状況でどのように秩序を保つのかが不思議でしょうがないと聞いたことがある。

そもそも、日本の憲法は欧米キリスト教圏の国々のものを参考に作られた。
そして Wikipedia によると、

キリスト教では、司法律法(しほうりっぽう)とは聖書のモーセ五書のモーセの律法。刑法規定。

司法律法(Wikipedia)

とある。
要するに法律と聖書は切っても切れない関係にあると言える。
それを指摘した日経の記事も見つけた。

日本の憲法と聖書には同じ精神が流れています
日野原重明の「生き方教室」 第3回(日経ビジネス)

なるほど、キリスト教圏の方々が神との契約で倫理観を育んでいるのと同様、日本人は法律を聖書として日本人のアイデンティティで倫理判断をしているのだろう。

ところで今更ながら私は、「法律とは何か」を問われても明確に一言で答えられなかった。
「秩序」だとか「道徳」、「倫理」そんな言葉を使って長々と説明したことだろう、この本を読むまでは。

法律とはずばり、権利のこと

なのだ。

西ヨーロッパの用語では、同一の事物を別の面から眺めて指称するにすぎず、権利という言葉は徳川時代以来の固有日本語には存在せず、オランダ語の "regt" に相当する訳として、「権理」や「権利」という言葉が当てられたのであり、後者が明治法典の公用語として広く用いられるようになったという。

二重に驚きだ。
法律は秩序でも道徳でもなく、権利だったとは。
確かに、権利を守るために秩序や倫理観があると言われればそのとおりだ。

しかし、日本人はどうも、法律と聞くと『義務』の方をイメージしがちな気がするし、権利という言葉は日常的に感じてはいない。
この書籍では 権利を主張することは自己中心的な、平和を乱す、不当に政治権力の救済を求める行為として非難されがちだとも指摘されている。

欧米では権利ありきが当たり前で、権利を主張できない人間は頭の弱い人として侮られるのが常なのだ。

さらに、『契約』ともなると、日本人は昔から地主と小作人などの場合でも口約束が主流で、事細かに文言を定めないのが日本的なのだ。
これは文学にもよく表れていて、文学者はわざと大まかな言葉を使い、多様な解釈が含まれるような表現をする。
所謂「みなまで言うな、行間を読め」というわけだ。

これに対し欧米ではいちいち事細かに書かないと、理解できない。
行間は読まれないのだ。

こうして日本における契約は相互の信頼のもと、守れない場合は地主に『懇願』し、相手は『恩情』を施す。
家父長的温情が示されなければ、周囲から『融通が利かない』など非難されるリスクがあるのだ。

また、日本では裁判もあまり好まれない。
訴訟を起こすような者は、「変わり者」「けんか好き」など、なんでも白黒つけたがる血も涙もない人として、周囲の人間から交流を拒まれるようになるのだ。
この書籍は1967年発行なので、この時代よりは裁判や訴訟は増えていると思うが、こうした心情は今なお引き継がれているように思う。

したがって、日本では裁判よりも「調停」が好まれるし、「喧嘩両成敗」の精神で、まずは「和解」することが主流である。

聖徳太子が制定した17条憲法の第一条の『和を尊ぶべし』の精神は日本人に根付いており、弁護士も裁判をすることは最終的にはお勧めされない。
「裁判となると長引く」「請求額満額にはならずコスパも世間体も悪くなる」など抽象的で根拠の不明確なことを言われ、訴訟を避ける傾向にあるように思う。(個人的な感想)

なるほど飛鳥時代の昔から、日本は和の国であったのかと、改めて思い知らされたのだった。

①読みやすさ ★★★★☆
②登場人物の魅力 n.a.
③知的好奇心刺激度 ★★★★★
④実用度 ★★★☆☆
⑤笑える度 ★☆☆☆☆
⑥涙活貢献度 n.a.
⑦元気になれる度(読後感) n.a.
⑧教訓度 ★☆☆☆☆
⑨人文学度(歴史,哲学,人間性) ★★★★★
⑩再読の可能性 ★★★★☆

総合評価 ★★★★★