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【生き物からのラブレター#13】君のすべてを知りたいんだ

アメフラシは磯の人気者?である。磯遊びに行ったなら、どうしても気になってしまうアイツ。

春から夏にかけて磯に大発生し、生殖のため時には複数個体が連なることもある。その大きくて柔らかい体を引きずって海藻をひたすら貪り食う。

黒くて柔らかいのでナマコだと勘違いする人も多いようだが、実は巻貝の仲間だ。

しかもうっかり踏むと紫色の汁を出す。踏まれたほうも踏んだほうもたまったもんじゃない。汁に染まった場所はギョッとするような色になる。

こんな感じでなかなかインパクトのある子なので、磯の観察会などで紹介すると大変ウケがいい。

たいていどこの磯でもいるので、私にとってはもはや採集難易度最下位の☆1レベルなのだが、初めて出会った時にはやっぱり釘付けだった。


私が初めてアメフラシに出会ったのは大学の実習で行った佐渡の海。何もかもが初めてだらけの頃。手探りで磯採集をする中、見つけたアイツ。

掴んでみるとなんとも言えない柔らかさ。それでいてスベスベ。両手の平からはみ出る重量感が心地よい。

実験室の水槽でよくよく観察していると、触覚を揺らしながらのんびり這っている。背中の膜はヒラヒラしていて可愛いし、なんといっても触覚の下に隠れた点としか言いようのないつぶらすぎる目が愛嬌たっぷりだ。

しかも指を近づけてみると、口を指に吸い付けてきた!こ、これはキッスですか!? E.T.と心が通じ合ったレベルの感動である。

かわいいいいいいい!!!

すっかり虜になってしまった私は実習の最後の課題として出されていた自由研究の題材に、事もあろうかアメフラシの解剖を選んだ。

可愛すぎて、すべてを知りたくて、、、人は愛がすぎると解剖へと向かう。私は愛をもってアメフラシを切り開いた。

まず驚いたのは、体の中に薄くて小さい貝殻を持っていたことだ。始めにアメフラシは巻貝の仲間だと紹介したが、その痕跡が残っているのである。貝殻は半透明で力を入れるとすぐに折れてしまいそうで、繊細な感じがまた愛おしい。

紫色の汁が出てくる場所も発見した。アメフラシという名前の由来はこの紫汁が雨雲のように広がるから”雨降らし”という説がある。身を守るために編み出した素晴らしい機能に感動しつつまだ探求は続く。

外側を覆っている着物をすべて脱がし、内臓をじっくり観察する。人間とアメフラシ、こんなにも見た目は違うのに心臓、肝臓、胃に腸など同じ機能を持つ器官を持ち、口から肛門へ至るまでの流れは変わらない。すごいことだ。

これでもまだ飽き足らず、私は食道から腸を切り開き、その内壁構造を顕微鏡で観察した。腸に近づくほど食べられた海藻は細かくなっていく。腸の直前にある砂嚢という部分には三角錐や円錐状の石が内壁に生えており、海藻をすりつぶしていることが分かった。

生き物ってすごい!これが率直な感想だ。生き物の造形の神秘にまた一つ触れることができた貴重な体験だった。

アメフラシがすべてを見せてくれたかいはあっただろうか?君のことならもうなんでも知ってるよ!という変態的な愛が炸裂した最初の経験だったかもしれない。


☆生き物との出会いや体験を綴るエッセイ連載中☆

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