見出し画像

【短編小説】増上寺から竹芝の方に、頼む

 気がついたら東京タワーの前に立っていた。前といっても東京タワーの下で待ち合わせ、みたいなのじゃなく、眼の前に東京タワーがあった。東京タワーと並んで立ってた。その向こうに六本木ヒルズが見えるから芝公園か増上寺の辺にきっと立っている。足元を見るのが怖い。きっと何か踏んじゃダメなものを踏んでしまってる。
 これはアレだ、転生的なヤツだ。オレさっきまで何してたんだっけ?死んだのか?人間だったよな?このサイズじゃなかったよな?
「もうなんだよこれえええええええ」
 叫んだら口から火が出た。ハイハイわかりました。オレ怪獣じゃん。巨大不明生物じゃん。
 転生ジャンルって何かしら味方がいて状況教えてもらったり、元に戻る方法があったり、そうやって話が展開するじゃん?でもオレひとりでもう状況バッチリ分かっちゃった。このままここに居たら自衛隊とか軍隊とか出張ってくんだろ?さっきから足元でサイレンや避難を呼びかける音が聞こえてるし。周辺住民の退避完了をもって攻撃開始なんだろ。

 ヘリがうるさい。蚊とか蝿より邪魔くさい。バタバタして空気が乱されてる感じ。これは払いたくなる。やっちゃダメなの分かってるから我慢してるけど、じっとしてるからってヘリ増えてるし。マスコミも無茶するよ。
 わかったわかった、なるべく迷惑かけないようにして消えるよ。消えたら人間に戻ったりすんじゃね?夢かもだし。そうだきっと夢だ。夢だと夢だって気づかないって言うし。オレも今まで気づかなかったし。
 海だ、海に行くわ。すぐそこ海だし。海に潜っちまえば追いかけられないだろ?オレも夢からさめるかもだし。ここでワチャワチャするよりみんなハッピーだろ?

 なるべくゆっくり左側を向く。どうもしっぽが自動車をひっかけてるっぽいけど勘弁してほしい。まず赤羽橋の交差点を目指す。中央分離帯や歩道の段差が気持ち悪い。足つぼのヤツの上を歩いてるみたいだ。我慢。交差点から左に曲がってさらに歩く。
 あーここから道が細いんだった。最初、右に行って愛宕警察の方が正解だったわ。もう無理だ。無理。後戻りも迂回するのも嫌だ。足の裏痛いし。もうめんどくさい。怪獣の気持ち、よーくわかった。完全に理解。壊して回らないと面倒なんだ。人類のみなさんマジごめんなさい。まっすぐ行かせてもらいます。
 ビルを首都高をJRをモノレールをゆりかもめを、バンバンぶっ壊して歩く。どうせ夢なんだろ。直線距離で海へ向かう。やっと着いた。海だ。

 なんてこった。東京湾、全然浅いじゃん。海の中、余計に歩きにくい。マジで夢ならさめてくれ。頼む。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?