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【短編小説】ウェブサービスの墓

 私はウェブサービスの墓守。終了したウェブサービスを静かに土に戻すのが仕事。
 ここには色々な理由で終了したウェブサービスがやってくる。
 計画通りに売上があがらなかった、会社の倒産や買収、方針転換、より強力なサービスの登場。
 100年続く予定だったが数年で終わったサービス。スタート直後から炎上して終了したサービス。担当者が退職したことで継続できなくなったサービス。データが飛んでしまいシステムメンテナンスが終了できないまま終わったサービス。アイドルのスキャンダルで継続できなくなったサービス。
 それらの多くが終了理由に「一定の役割を終えた」と記載されて運ばれてくる。表情を変えることなく資料に目を通し受理したことを伝えると、殆どの担当者が複雑な表情で微笑む。彼も今まで大変だったのだろう。この作業が終わったら違う部署に異動するのだろう。ここまでネガティブな話し合いがあったのだろう。それでも区切りをつけられたという充足感があるのだろう。きっと終わってしまったウェブサービスの代わりに笑っているのだ。

 今日は解雇された従業員やユーザーが終わる終わると囃し立て、まだ問題なく動いているウェブサービスをさも終了したかのようにして運びこんできた。気持ちは分からないでも無いが受理はできない。さっさと忘れて次のサービスを探したり、ワールドカップ観戦することをおすすめしてお引き取りいただいた。きっと彼らはあのサービスが大好きで今もそうなのだろう。もしかしたら今日のことも投稿するのかもしれない。

 サービスへの別れの言葉を終了したサービスに残すことはできない。残せたとしても時間が経ってから見ることはできない。あとから見ることができるのは終わってないサービスだけだ。
 サービスの規模、利用者数の大小、継続期間、すべて関係なく同じ大きさで作られた#の形をしたウェブサービスのお墓たち。どの墓銘にも同じ言葉が刻まれる。安らかにお眠りください。最後の書き込みはいつも私だ。


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