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初めての緊急事態宣言の時、私たちはコロナ禍で何を思い、何を考えていたのか


二度目の緊急事態宣言を迎えて

人と医療の研究室では、COVID-19流行における比較的初期の段階(第一回目の緊急事態宣言発令直後の2020年4月8日)から議論を交わし始め、インフォデミックにおける「医療者の翻訳家としての役割」や「社会的に脆弱な人々に対する影響」について所々でその考察を発信している[1,2]。他にも「科学技術のブースター」としてのCOVID-19や、「リモートと身体性」など、本感染症を取り巻く多くの話題が俎上に載せられているので今後も折を見て記事としてお披露目できればと考えている。

さて、年始早々1月8, 14日から2月7日にかけ、1都2府8県に対して二度目の緊急事態宣言が発令された。これをうけて、薬局業務や医療機関受診といった側面から「二度目の緊急事態宣言」を考えている言説[3]や、「二度目の緊急事態宣言」に意味を持たせるための考察[4]は散見されるものの、「初めての緊急事態宣言」を具体的に振り返る記事は多くはない。すなわち、「比較」がなされていない。

緊急事態宣言が発令されたとき、私たちはどのように動いていたのだろうか。どのように動けばよかったのだろうか。一度立ち止まって考えてみる機会があってもいいかもしれない。いや、そもそも緊急事態宣言とはなんだろう。 「宣言」という非物質的な存在は、私たちにどのような影響を与えるのだろうか。

初めての緊急事態宣言発令時、昨年4月から5月にかけては、人が、街が、国が、ロックダウンした。明らかに二度目の今、あの時とは違うように筆者は感じる。あの時、私たちは一体何を考えていたのか、何に関心を寄せていたのか。

本稿では、筆者らが(弊団体とは別で)独自に昨年行ったアンケート調査をもとに、あえて「1度目の緊急事態宣言」を振り返ってみたい。なお、アンケート調査の結果は、テキストマイニングツールを用いて解析を行っているものの、データの信頼性、解釈の妥当性等については学術的とはいえないような点が多く残る。読者からの批判を乞う。

オンラインイベント「コロナ時代の未来貢献を語ろう」の開催


感染者数が何名だとか、死亡率が何%といった疫学情報が大事であることは、みな理解できるであろう。しかし、歴史的な人類の転換点を目の前に、その時代の人々が個人レベルで、何をどのように感じていたのかといったストーリーや物語(ナラティブ)の方がよほど歴史的には価値のある資料となるときがある。

筆者らは、2020年5月24日、とある調査を行なった。慶應義塾のとあるゼミグループのOBOG会を対象に、「コロナ時代の未来貢献を語ろう」というタイトルで30名規模のオンラインイベントを開催した。参加者の属性(職業)は、医療系の学生から、個人事業を営む人、大手メーカーで務める人、編集者、議員、海外住まいの主婦など多様であった(data not shown)。

5月当時、我が国は緊急事態宣言の最中にあり、同イベントが開催された24日は、ちょうど国が緊急事態宣言を全国解除する直前のことであった [5]。

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図1. 2020年5月前後の国の動き [5]より

イベントの途中、10分間の回答時間を設けて、参加者にはアンケートに回答していただいた。様々な立場に置かれた人々がそのとき、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を受けて、何を感じていたのか、率直に知りたかったのである。

回答者の属性は以下の通りで、母数こそ少ないものの、幅広い年代・性別の参加者から回答を得た。

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誰も、政策や医療になんて興味がない(かもしれない)


回答の中で最も筆者らにとって衝撃的であったことは、連日これだけ新型コロナウイルス感染症にまつわる医療や政策のニュースが報道されているにも関わらず、イベント参加者からは、「ほとんど政策にも医療にも興味がない」という結果が得られたことだ。

「コロナを取り巻く問題で、あなたがもっとも関心のあるトピックは何ですか?」
という質問に対して複数選択可能な質問を投げかけたところ、「政策」に対する回答は0、医療と回答した参加者は1名のみであった。

一方、我々の関心は「価値観変容」「教育」「働き方」といったところにあることがわかった。特に「教育」や「働き方」に高い関心が寄せられていたのは、おそらくこれらのトピックは我々の目の前の生活に直結して関連してくるような話題であるからだろう。

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人々は何を思っていたのか


それでは、人々は一体、新型コロナウイルスの影響を受けて一体何を思っていたのだろうか。「あなたが【コロナ時代】について思うことを400文字程度で自由に述べてみてください。」という問いを投げかけてみた。
次の図3. はその結果をワードクラウド6を用いてビジュアル表記したものである。文字の大きいものは、回答の中での使用頻度が高かった言葉(単語)を表す。

青:名詞 赤:動詩 緑:形容詞

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青文字で表す名詞の中では「仕事」や「生活」、「経済活動」、そして「オンライン」といった言葉が目立つ。やはり先ほどの結果同様、自らの暮らしと直結しているようなところに、人々の高い関心が向けられているように思われる。

これは出現頻度が比較的低かった単語をみても推察できることである。例えば、「林業」「監査」といった言葉が用いられていたのは、こうしたワードに直結するような職業に就く参加者から寄せられたものであった。

中でも「変化」「変わる」といった単語の出現頻度は高く、「変化」については解析された名詞の中で、もっとも出現頻度が高いものであった。人々が「変化」を感じながら生活を送っていたことは、予想できたことだ。

では、その人たちは具体的に何を「変わった」と感じていたのだろうか。

コロナ禍の影響を受けて、何が変わったのか?

そこで次に用意していた質問で筆者らは、人々の感じていた「変化」について問うてみた。
「コロナで変わった生活観 / 仕事観(働き方) / 価値観などについて教えてください」

以下の図4.は図3.同様に単語の出現頻度をワードクラウドにより表記したものである。
「生活」「仕事」「勤務」「オフィス」「価値観」「健康」「コミュニケーション」「リアル」といった言葉が多くみられた。

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回答者の年齢は30代が大半を占めていたせいか、やはり仕事に関連することを想起させる回答結果が得られている。つまり、イベント参加者の感じていた変化は、「働き方」に関するものが多かったようである。

そこで、これらの単語の繋がり(関係性)についてさらに解析を行った。
以下に示す図5. は共起分析と呼ばれるもので、同じ文章に出てくる単語を線で結んだものである。ユーザーローカルテキストマイニングツールによると、単語の枠が大きいほど、出現頻度が高かった単語を表し、共起の程度が強いほど太い線で描画される6。

本分析の結果の解釈については一部主観を伴うが、仕事に関連するワード(「勤務」「アフターファイブ」「オフィス」など)と暮らしに関連するワード(「暮らす」「自宅」など)に強い結びつきがあるように読み取れる。

また、両者(仕事と暮らし)を結びつける媒介として「コミュニケーション」「快適」「寂しい」「充実」といった人々の状態や感情を想起させるようなワードが結びついていると考えることもできそうだ。だとすれば、暮らしと仕事がやはり人々の生活の質を左右する重要な要素となりうる、と解釈することもできる。

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本調査で分かったことは、結局私たちにとって変わるのは、目の前の生活であり、それを支える仕事であって、政策や医療といった話題は当事者性を感じるまでは二の次なのであるという事実だ。(少なくとも本イベントに参加した約30名の結果を取りまとめて一般化するとそうであった、ということではあるが。)

特筆すべきは、初めてのロックダウン当時の本調査の参加者は「オンラインイベントに参加できるレベルの豊かさと余裕は持ち合わせていた」可能性が高いということだ。実際、慶應義塾の開催するゼミのOBOGが対象であったことから、参加者の教育レベルは国民平均と比べるとかなり高い位置にあったと考えられる。今回のテキストマイニングからわかったことは、仕事や暮らし、生活に関して人々は変化を感じていたものの、「困窮」、「困る」、「苦しい」、「助けて」などといったネガティブな言語はみられなかった。

しかしながら忘れてはならないのは、同時に社会や未来を創っていくのも、私たちに他ならないということである。もちろん、最優先すべきは自分の目の前の生活である。しかしながら、余裕がある人や高等教育層と推測できる本調査参加者ですら、目の前の変化に適応することで精一杯であったと考えるならば、いったい誰が社会のこと、未来のことを考えていくのだろう。

「他人事を自分事化する」という意識の強さ・視座の高さも同時に我々に問われている。
二度目の緊急事態宣言を受けて、あなたは今、何を考えているだろうか。

【Reference】
* すべてのURLは2021年1月18日参照

[1] 李 展世, 『COVID-19禍のinfodemicから考える医療者の役割 -人と医療の研究室Student Groupのお誘い-』, DOCTORASE, 34, 34, 2020年7月,
https://www.med.or.jp/doctor-ase/vol34/34page_id14com2.html

[2] 池尻 達紀, 『COVID-19の「社会的に脆弱な人々」に対する影響 -ひとけんコラムNo.1-』, INOSHIRU, 2020年5月18日,
https://inoshiru.com/column/014/

[3] 狭間 研至, 『2度目の緊急事態宣言がもたらす変化とは』, 日経メディカル, 2021年1月12日,
https://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/di/column/hazama/202101/568645.html

[4] 忽那 賢志, 『2度目の緊急事態宣言に意味を持たせ、1ヶ月で終わらせるためには』, Yahooニュース, 2021年1月10日,
https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20210110-00216957/

[5] 小坂 和輝, 『2020年6月~7月末ごろまでのコロナ関連の主な動き』, 個人ブログ, 2020年8月12日,
https://blog.goo.ne.jp/kodomogenki/e/380414122732ade1b1d901882b1e4af3

[6] User Local テキストマイニングツール,
https://textmining1.userlocal.jp/home/result/c3a9434bfd85d72e889888c4c37891aa 

文責:秤谷 隼世

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