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映画「怪物」

是枝監督の映画「怪物」を観た。
ここからネタバレです。

一人親を中心とした子供に対する角度、学校の先生を中心とした角度、子供たちを中心とした角度。
一つの事実を多面的な方向から照らすと、一つの面から見たことだけで判断していたことが、真実とは異なっていることに気がつく。
こういうことは、あらゆることに当てはまると思う。
子供を持ったことがないのでわからないところもあるが、子供を持つ母親は、やはり子供のことが心配で、自分の子供は正しくて、守らなければならない存在と思うのだろう。周りから見えて、行き過ぎた行動のように思えることも、本人は子供を守るための行動であるのだと思う。
学校という組織は、真実がどうであるということより、学校としての体裁を整えることに懸命である組織なのだろう。ましてや子供の親が乗り込んできたら、親の主張に対して、真実を確かめる前に、「とりあえず謝っておけ。ことを荒立てるな。」ということなのだろう。
この学校の構図は、おそらく政治や企業、マスコミにも存在する悪しき構図なのではないだろうか。
子供の小さな嘘から先生が追い込まれてしまう恐ろしさ。小さな嘘から生まれたシミのようなものを押し拡げてしまうマスコミ。
我が子を「怪物」扱いして暴力を振るう父親。
子供同士のイジメや同性愛など複雑な事情。
様々な側面を抱えながら、人々は自分なりに必死に生きているが、人の言動や感情は複雑に絡み合い、影響し合うところがある。
ずっと緊張感のある場面が続くようでいて、時折挟まれる長野の諏訪湖の風景が美しく、和む。
先生が屋上に登った時の先生の横顔越しに長野の風景が見えて、トロンボーン?の怪しげな音が良かった。
校長先生が生徒に「言えないことを音に込めて吹く」というようなことを言い、トロンボーンを吹かせ、自分はホルンを吹く。このシーンは胸に込み上げてくるものがあった。
人はみんな怪物のような一面があるかもしれないが、人間でしかない。
映画の出演者、全員、名役者で、ジワジワとリアルに迫ってくる。
音楽は坂本龍一。長野の風景の光のような物悲しさと煌めき。
田舎の自然も音楽も、場合によっては、人間にとって暴力的な状況をもたらす一面もあるが、この映画ではほんの少しの安らぎだった。
いい映画でした。

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