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滅びの前のシャングリラ

 凪良ゆう著「流浪の月」の読後、なんの迷いもなく「滅びの前のシャングリラ」を購入していた。面白い本に出会うと、その著者の本をもっと読みたくなる。「滅びの前のシャングリラ」はまさにそれだった。

 この話を一行でまとめるとするのなら「世界が終わるからこそ理想が叶った話」だろうか。

 いつかに夢見ていたそれぞれの理想。それは理想のまま終わるはずだった。世界の終わりが決まるまでは。

 地球に隕石がぶつかる。世界が終わることが確実となった世界では、美味しい食べ物も面白い映画も高級な車もお金でさえも何の意味も持たなくなる。そんな状況で求めたのは大切な誰かとのつながりだった。

 もしも地球に隕石がぶつからなかったら、大切な誰かとのつながりは一生、生まれなかったと思う。だけど地球の命が終わると知ったからこそ、自分の本当の願いを叶えることができた。一方で地球が終わるまでの短い時間でしか願いは叶わなかったところに儚さを感じる。

 地球に限らず人間もいつかは終わりを迎えることをみんな知っている。だけどそれは「いつか」なのだ。現実世界では「滅びの前」はまさに今なのかもしれないし、10年後なのかもしれない。つまりいつでも「滅びの前」になりうるし、それを本人が気づくことはできない。なぜなら、すでに本人は滅びてしまっているからだ。そう考えると本書の登場人物は恵まれているようにも感じてくる。

 終わりを自覚するまでは人間は動かないようにできている。だけどその終わりを自覚したときには、思い切った行動も取れるし、理想自体が引き寄せてくれる気がする。

 ますます著者の本が読みたくなった。おすすめがあれば教えてほしい。

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