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『流浪の月』を読んだ

「でも多分、事実なんてない。出来事にはそれぞれの解釈があるだけだ」
「事実なんてどこにもない。みんな自分の好き勝手に解釈しているだけでしょう」
「事実と真実はちがう」
                           凪良ゆう 著『流浪の月』

 真実なんて、当事者しかわからない。当事者以外の人は自分の都合のいいように解釈をしてそれがあたかも真実であるかのように振る舞う。

 加害者への解釈。被害者への解釈。社会は加害者は悪い奴だと決めつける。一方で被害者に対しては可哀想だと同情の言葉を投げかける。だけど真実を知っているのは加害者と被害者のふたりだけ。社会が勝手に解釈した事実。そして被害者、加害者だけがわかる真実とのギャップに苦しんでいく。

 被害者の更紗、加害者の文。それぞれが共有する真実(事件のこと)と誰にも共有できない真実(従兄弟にされたあのこととコンプレックス)。愛を超越した、まだこの世界で言葉が見つからない関係にしたのは、あの事件のではなくて更紗と文それぞれが共有できない真実だったように思う。

 教科書みたいな朝食とアイスクリームを夕食に。そんな絶妙なバランスの関係のふたりが幸せに暮らせることを願う。


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