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【ジェイムズ・ティプトリー・Jr賞】

※【アザーワイズ賞】からも転送されています。

 SF・ファンタジー作品の中で、ジェンダーに対する理解に貢献する作品に対して与えられるアメリカの文学賞で、ティプトリー賞と略されていた。1991年に創設。センス・オブ・ジェンダー賞という日本版が存在する。

 2019年に「政治的に正しく」改名され「アザーワイズ賞」となった。


 本来のティプトリー賞の由来となっていたジェイムズ・ティプトリー・Jrは『愛はさだめ、さだめは死』『たったひとつの冴えたやり方』『老いたる霊長類の星への賛歌』などの作者で、短編の名手。内容ばかりでなくその卓越したタイトルセンスでも知られ、例示したように題名を見るだけで読者の心を沸き立たせてきた。
 Jrとあるように男性を名乗って作品を発表していたが、実際はアリス・B・シェルドンという女性であることが1977年に公表された。

 彼女の名前がこの賞の名前となった理由は、単に女流作家だったからではない。作品内容もまた「女性」や「性欲」をテーマに踏み込んだものを幾つも著しているからである。例えば『ヒューストン、ヒューストン、聞こえるか?』では女性だけの社会を描いている。

 ではなぜ改名しなければならなかったのか。
 原因は彼女が認知症の夫と心中したことである。
 1987年、彼女は認知症が悪化した夫をショットガンで射殺し、直後に自分自身をも撃って自殺した。この行為は以前からの夫婦間での「自殺契約」に基づいたもので、発見された2人の遺体は手を繋いでいたという。
 このことが2019年になってから問題視され、ティプトリー賞運営委員会に「改名要求」を行った者がいた。これはSF界で別の著名な賞であるキャンベル賞が、アスタウンディング賞に改名されたことを受けているという。

 そもそもティプトリー賞はティプトリーの没後に創始されたもので、その時点で彼女が心中で亡くなったことは特に伏せられていたわけでも何でもない。とっくに分かっていた「不祥事」が2019年になって急に蒸し返されたのである。
 まるで「自殺はいけないことだから」と、三島由紀夫賞や川端康成賞の名前を変更するような愚行であった。

 では現在の賞名「アザーワイズ」とは何なのか?
 これは「ブラック・クィア・フェミニスト・スカラーシップ」の「アザーワイズ・ポリティクス」という概念から取られたという。これは「進むべき別の方向を見つけること」を意味しているというが、つまりSFとは何の関係もない

 ティプトリーの業績は、ジェンダーとSFの両方にまたがるものとして賞の名前になったのだが、「ポリティクス」の侵略の結果、偉大な女性SF作家の名前は賞名から追放されたのである。

参考リンク・資料:

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