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『東京大学「#弱者男性」立て看の正体と家父長制』2022-08-04

 7月28日、東京大学駒場キャンパスに、タイトル画像の立て看板が置かれた。らしい。らしいというのは情報源がその翌日にツイートされた「UTokyo Diversity Network- 多様性を目指す東大有志のネットワーク」なるおそらく学生のフェミサークルと思われるアカウントの呟きだからだ。

 元の立て看にはネットで「チー牛」として知られるイラストの模写とともに「#弱者男性をエンパワメントする」「我々に婚姻の自由を 生殖の権利を奪うな」と文言が書かれているものだ。
 大学の立て看というものに馴染みのない人もいるかと思うので例示しておくと、こんなイメージだ。

「京大の文化」立て看板、景観条例違反指導で(中核派!?)学生ら困惑
「京大の文化」立て看板、景観条例違反指導で(中核派!?)学生ら困惑

 筆者の大学時代にも立て看板が多く、サークルの宣伝や文化祭の告知などをするものの他に、極左学生運動が盛んに立て看を立てていた。まあ一学生としては一種の「風物詩」だと思っていた。

 別にこの中に、「弱者男性」立て看が混じっていたとしても、別にどうということはないように思える。
 ところが一部の者にとってこれが大問題であったようだ。

UTokyo Diversity Network - 多様性を目指す東大有志のネットワーク」なるグループが、抗議文を表明した。

 そして同日、これに同調(?)する東大立て看同好会なるものが「撤去しなければ当事者を公表する!」とツイート。

 立て看同好会というのは、そもそも極左系の暴力的抗議活動のものが少なくない立て看を「同好」しているくらいであり、また大学の管理権とのせめぎ合いで必然的にも当局と「闘争」しているグループである。
 要するにこういうのと仲良しなわけだ...…アカウントを共有するぐらいには。

1960~70年代の日本の学生運動の活動家としてよく描かれる、火炎瓶や角材を持つ学生たちのイラストです。(いらすとや)

 立て看同好会が「お前の正体を公表する」というのは、大学という自分の生活圏にいるこの種の破壊活動家に「敵」として情報を流すぞという意味であり、事実上の脅迫というか犯行予告である。

 もちろんこの後、立て看は撤去されたという。
 典型的な左翼活動家による脅迫事件……のように見える

多様性ネットってなに?

 しかし、もう少し深堀りしてみよう。

 この、多様性を目指す東大有志のネットワーク(以下「多様性ネット」と略す)なるサークルは、アカウントのbioに「2022年7月に緊急設立」とある。

 しかし東大の学内情報サイトUT-BASEや他のサークル紹介サイトで「多様性」「ジェンダー」「フェミニズム」「差別」などで検索してみても、この多様性ネットは出てこない。
「2022年7月に緊急設立」とあるので、新し過ぎて各サイトに載っていないだけかもしれないが、そもそも公式には実在していないのではないか。
 もちろん、大学当局に登録されていない「有志のネットワーク」を1名ででも結成し、ツイッターでアカウントを作ることは違法でもなんでもない。東大の学内規則だってそんなことを禁じてはいないだろう。

 しかし、そもそも何の必要があって緊急設立されたものなのだろうか?

 実はこのアカウント、8月2日現在でたった2つのツイートしかしていない。チー牛立て看についての抗議文発表ツイートと、それにハッシュタグを追加しただけ。
 他に何かあったのだとしても、立て看などという内輪すぎる話に大騒ぎしているのに、その設立理由になるほどの事態にだんまりというのは腑に落ちない。
 やはり普通に考えれば、設立する理由となった「緊急」事態とはチー牛立て看の設置以外考えられない。

「UTokyo Diversity Network - 多様性を目指す東大有志のネットワーク」の全ツイート(2022年8月2日時点)

 しかし、この立て看がせっかく撤去された事実、およびそれに対するネットユーザーたちの反応に、反対の言い出しっぺであるはずの多様性ネットのアカウントは沈黙している。わずか一日で長文の「抗議文」を発表した饒舌さは、一体どこへ行ってしまったのか。
 そして多様性ネットそっちのけで「東大立て看同好会」のアカウントだけが熱心に反応している。ちなみに多様性ネットのフォロー先はこの立て看同好会と、あとは東大当局だけである。

多様性ネットのフォロー先

 筆者にはこの状況に、かなりの既視感を覚えている。

 それは2020年8月に行われた、【ぼくたちは/男子たちは 狼なんかじゃない。】という署名運動だ。週刊少年ジャンプのお色気シーンすべてに、フェミニストの主張に都合のいい注釈をつけろという馬鹿げた要求をしたChange.orgの署名運動なのだが、名義人の「関口学」という自称男性が明らかに男性ではなく、さらにその経歴は矛盾していた。
 のみならず、関口学の最初のフォロー先である「高島鈴」という女性ライターが、関口そっちのけで署名について熱心にやりとりしていた。この高島鈴がおそらく関口学の正体であろうと考えられている。

 実に「多様性ネット」と「立て看同好会」との関係にそっくりではないだろうか。

 そもそも、立て看に抗議するのになんで新サークルが必要なのだろうか?
 立て看同好会は、この立て看が「女性やLGBTなど弱い立場にある人々に追い打ちをかける」ものだとしている。

 しかし、それは極めて怪しい。
 というのはUT-BASEによると東大には他にもジェンダー関係のサークルが少なくとも5つほどある。また、別にこれらのサークル所属でなくたってジェンダー意識のある人は大勢いるだろう。

UT-BASEを「ジェンダー」で検索して出てくるサークル

 この5サークルは全てツイッターアカウントを持っているが、チー牛立て看への彼らの反応は薄い。Tottoko Gender Movementと東京大学TOPIAが多様性ネットの発言を無言リツイートしたのみ。polarisとichihime、UT-toposはまったくの無反応だった。自分の言葉で立て看にコメントをしたサークルはこれらの中に「ひとつもない」。

 ただし、ここになぜか載っていない「東大フェミニズム研究会」は反応している。やはりフェミニズムを冠する手合いといったところか。

 ちなみにここで使われているハッシュタグ2つは、いずれもこのツイートでしか使われていない。

 しかし、ヘイト看板とはおそれいった。
 もし本当にこの立て看が女性や他のジェンダーを憎悪ヘイトするものだと認知されるのが(少なくともジェンダー系の人にとっては)自然なのだったら、彼らこそ先に声を上げているはずだし、積極的に呼応しただろう。
 しかし「フェミニズム」という主義ではなく、各当事者の立場を冠する諸サークルは何もしなかった。
 特に問題を感じなかったからだ。
 これは常識的な反応でもある。この看板にあるのは「チー牛」の絵と「#弱者男性をエンパワメントする」「我々に婚姻の自由を 生殖の権利を奪うな」という短い文言が書かれているだけで、女性もLGBTも、特に誰をも攻撃してはいない。

 つまり多様性ネットの抗議文は、実際の女性やLGBTのニーズとは無関係に、単にネット界隈の弱者男性論に反感を持つ者がこじつけに出した抗議文と考えて良い。
 じゃあそれは誰なのかというと……おそらく東大立て看同好会本人である可能性が最も高いと考える。

 というのは立て看を受けて即日「緊急設立」されたにしては、抗議文の作成も妙に早すぎる。飛びついた連中が「わずか1日で…」と褒めそやしている通りだ。
 やはり東大は優秀だ!と擁護にするにも、同じ東大にある肝心の既存ジェンダーサークルが何も反応していない点とのバランスがおかしい。

 そして、そこまで大急ぎで作ったにしては小綺麗なシンボルマークまで用意しているのも変だ。

 この抗議文とシンボルマーク、立て看の前に最初から用意されていたんじゃないのか?
 つまり多様性ネットだけでなく、立て看そのものも含めて「立て看同好会」の者の自作自演だったのではないか。

 要するに、実際には女性よりもむしろ男性の中の弱者の方がよほどの苦境にいる――という指摘にいよいよ耐え切れなくなったフェミニストが、弱者男性という言葉を使うこと自体を「差別と認められ、撤去されました」という前例を作るための、いわば【藁人形】だったのではないだろうか。

多様性ネットの抗議文内容

 さてここからは、多様性ネット抗議文の肝心の「中身」を見ていこう。

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