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ゴルフ ~中空アイアンの魅力編~

ゴルフショップの店員の意外な一言

 最近、暇つぶしにゴルフショップに寄りました。
 店内には新型のドライバーやアイアンのセットが並んでいます。最近のアイアンは飛ぶんだろうな。
 ずらりと並ぶ、アイアンセットの壮観な事。
 金属やカーボンの複雑な組み合わせで、最新テクノロジーの競い合い。プレーヤーの腕より、道具の進歩の方が著しいようで。
 すると、若い店員の青年が寄ってきました。
 二十歳半ばくらいでしょうか。血色も良く、がっちりして、いかにもゴルフ部出身みたいです。
「お客様。今、どんなアイアンを、使ってらっしゃるんですか」
 よくある営業トークだな。どうせ十万数万もするアイアンセットをすすめる気だろう。
 ざっと見たところ、キャビティばっかりだ。
「昔から使ってるのは、プロギアのデータ901アイアンだよ」
 この中空アイアンを使いだしてから、もう20年近い。青年が生まれた頃か、生まれる前に売り出されたものだ。
 自分はプロギアのデータ701というキャビティアイアンから乗り換えたのが、この901アイアン。
「データ901アイアンですかあ」
 青年はまじまじと私を見た。
「そうだよ。中空アイアンだよ。この店は中空は少ないようだね。キャビティばっかりだ」
 青年は真剣な顔をした。
「お客様。『901』をお使いなら、買い替えない方がいいですよ。ここにあるアイアンと比べても、データ901は十分飛びます」
 青年の真顔に、今度は私の方が驚いた。商売っ気のない青年の目に、妙に感動してしまった。
 こんな店員初めてだ。
 そうかあ。データ901は今のアイアンと勝負できるのかあ。
 私はなんだか嬉しくなってしまいました。

中空アイアンのデビュー戦

 昔、使い慣れたキャビティアイアンに少し飽きてきた私は、新奇なアイアンになんとなく関心を持っていました。ちょうど、同じプロギアから中空のアイアンであるデータ901が売られていました。
 新品を買うつもりはありませんでした。
 性能が同じなら、中古だ。
 新橋に別の用事で行った時に、つい中古専門のゴルフショップで、このアイアンを買ってしまったのです。
 では、この『901』は、打ちっぱなしの練習場では、どうでしょうか。
 マイルドな打感、高弾道で、飛距離も伸び、いい感じでした。まずは合格。しかし、実戦や如何に。
 練習場とコースでは、全ての条件が違います。練習場だけでは、特にアイアンは評価できません。
 コースに持っていくと、仲間からは、新しいタイプのアイアンは注目の的でした。
「へえ、中空かあ。ちょっと持たせて」
 といった感じで、みんな興味津々。
 いよいよ、実戦開始。
 ティーショットの後、ラフからのショット。中空ヘッドの丸く厚いソールのお陰で、まったくラフを苦にしません。
 本物ボールですから、本コースでは、練習場以上に高弾道で飛距離も伸びています。
 キャビティよりも足元のライに気を使わなくてよさそうです。
 芝の影響で右に左に曲がるようなことはなく、クラブヘッドの走りは、芝などつぶして我が道を行くという剛直な走り方でした。 

難関、谷越えの「しまった」

 前半戦。『901』の性能が問われる難関に遭遇しました。
 150ヤードのショートホール。
 なんと、ティーグラウンドとグリーンの間が、巨大な谷。茂みに覆われた深い谷は暗く、右側にグリーンへ渡る細い吊り橋があるだけです。グリーン手前には、意地の悪いバンカーが覗いていました。
 私は7番アイアンを選びました。(表紙画像のアイアンです)
 抑え気味に振りました。
「しまった」
 トップです。
 ヘッドはボールの上を叩いてしまいました。嫌な手の感触。
 ボールは谷底へ・・・・・いや、なんと中弾道で舞い上がっているではありませんか。
 マジか。
 ボールは谷を越え、グリーンにオン。
 仲間の驚きの声。なんだ、これ。人生の難関を軽く越えてくれました。
「ちょっと、貸して」
 仲間の一人が、私のアイアンを手に取りました。
「俺もチャレンジ」
 仲間が私の7番アイアンで構えました。力みが肩に。困難に立ち向かう過剰な闘志が双肩に。
 ショット、ボコ、ダフリ。
 芝と土が谷に飛ぶ。
「あー」
 本人の悲鳴をよそに、ボールはまたしても私と同じような弾道で、空中(中空)に舞い上がりました。
 グリーンにオン。
 どよめきの声。私も合唱。
 神々しい7番アイアンでした。
「嘘みたい」
 打った本人が、呆然としています。

バンカーの底「やっちゃった」

 フェアウェーのバンカー。まだグリーンまで距離があります。
 とりあえず、6番アイアン。前のバンカーの顎を越えればいいか。
 私は足もとの砂地に足裏をぐりぐりと踏みしめて、ヘッドを浮かせて構えました。
 力任せのベタ足スィング。
 またしても、トップ。
「やっちゃった」
 危機に際して、先の方に目が行く私の悪い習慣。私の癖ですな。ボールは顎にぶつかり、砂地を戻って来るのか。
 ところが、さっきの谷と同じ。
 ボールはグリーン方向に飛んでいくではありませんか。中空を。
 キャビティアイアンなら、間違いなくミスのどん底だったはず。キャビティ―なら、よいバンカートラブルの練習になったことでしょう。
「中空様様だ」
 私は軽い足取りでバンカーを出ました。
 こうして、901アイアンは、私の戦友となりました。

中空アイアンとキャビティアイアンとの違い

 当時のキャビティアイアンと今のとは、性能がだいぶ違うと思います。
 中空一筋の私には、両者を比較する資格はありません。
 あくまでも、データ701との比較で、私なりの見方をまとめてみます。
 中空アイアンは、トラブルに強く、飛距離も出ます。振り回して飛ばしたいタイプのゴルファーには、大いに戦力になります。でも、大味かもしれません。意図的にフックとかスライスをかけるときには、鈍感のように思えます。曲がりにくかもしれません。
 テクニックにこだわるタイプ。フックやスライスで、林を抜けるなど、微妙な掌の感触、タッチ、フェースコントロールを楽しむ方には、キャビティ―アイアンがいいのではないでしょうか。比較すれば次の通り。
 力のゴルフと技のゴルフ。
 結果オンリーのタイプと途中経過を大切にするタイプ。
 難しい状況を道具で乗り越えるのか、技術と精神力で乗り越えるのか。
 前者は中空アイアンタイプ、後者はキャビティーアイアンタイプかもしれません。
 ゴルフを楽しみたいなら中空アイアン、上達したいのならキャビティ―アイアン。これは極論ですが。
( 最近は相互に乗り入れた高度な技術開発がされて、差は少なくなっているかもしれませんね。)

現在のデータ901アイアンの中古マーケット

 ネットでデータ901の中古アイアンを探してみると、少ないですね。
 ほとんどありません。
 こんな古いクラブは、売れないのかなあ。
 あるサイトで、ふと目にした言葉。
「幻の名器」
 おお、この言葉に触発されて、実は、ついこんなエッセイを書いた次第です。
 現在の中古マーケットは、中古とはいえ、ユーザーはできるだけ最新のクラブを安く手に入れたいものですよね。
 実は、昔の私も同じでした。
 このデータ901アイアンの中古を、新橋の店で見つけたときのことでした。やはり若い店員さんが近づいてきて、こう言いました。
「お客様。今、なんのクラブをお使いですか」
「プロギアのデータ701だよ」
「そうですかあ。(『901』の7番を取り出して)これ、いいっすよ。振れば飛びますから」
 というわけで、この「データ901中空アイアン」が、人生の友達になった次第です。

 


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