みんな贈与税知らなくて草
おはようございます。🐤
こんな投稿が流れてきました。みなさんは、どのへんが「日本の金融リテラシー終わってる」と感じますか?
「①1億もらう」よりも「②月25万を一生もらう」の方が多い
1億を25万で割って400か月=33.33…年という単純計算
インフレにより「今のお金の価値>将来のお金の価値」に気づかない
おそらくこれらが「金融リテラシー終わってる」と投稿主が考えている理由なのかなと思います。(推測)
「一括で1億円をもらうより月25万円ずつもらった方が良い」というアンケート結果に対して
「毎月25万なんてバカじゃねーの? 1億円もらって5%で運用したら、税引き後でも年400万円の収入になるじゃねーか、これが金融リテラシーだよ」といったところでしょうか。
しかし、この設問、元ツイの坊主さんの数値の設定が絶妙でほんとうに難しいんですよ。おそらく「金融リテラシーが高い」人が考えているよりもずっと。
私が得意の計算をしてみましたので、この奥深い世界を一緒に覗いてみましょう。
1 贈与税知らなくて草
まずは贈与税の存在です。金融リテラシーの高い人、おそらく日本の上位5%程度以上の人はここに気づきます。(リプを見ていてもだいたい20人に1人くらいの割合で贈与税に言及している方がいます)
投稿文には「もらう」と書いてあるのでどう読んでも課税の対象になります。宝くじの当選金やノーベル賞の報奨金は非課税ですが、文の雰囲気はそんなことを醸し出していません。
ほとんどの国で、何かお金の移動があった時に課税されないということはまずあり得ないと考えるべきなのです。
法人からもらったら所得税+住民税がかかり
個人からもらったら贈与税がかかります
このうち特に忘れられやすいのは贈与税です。(法人からもらう可能性も十分ありそうですが、どちらにしても最大の税率は55%なので今日は贈与税に絞ってお話をします)
贈与とは「あげる」と「もらう」の合意により成立する契約のことで、個人から受け取るお金はすべて贈与税の課税対象になります。(例外として、家族への生活費や教育費、香典やお年玉などは非課税です⇒参考:No.4405 贈与税がかからない場合|国税庁 (nta.go.jp))
「今日はおごってやるよ」と上司が食事代を出してくれたら、それも贈与にあたるんですよ。部長から30万円、次長から30万円、課長から30万円、係長から20万円…、と積もり積もって110万円を超えたら、贈与税が課税されるのです。
もっと言うと、親から110万円以上の贈与を受けていたら、その時点で基礎控除を使い切っているので、そこからわずかな贈与を受けても(例えば先輩にジュースをおごってもらったら)そこに贈与税が課税されるのです。
贈与税って恐ろしいですね。
1億円に対する贈与税額
さて、1億円の贈与に対する贈与税額を計算してみましょう。
100,000,000円-1,100,000円(基礎控除)=98,900,000円
98,900,000円×55%-4,000,000円=50,395,000円
ということで、1億円をもらったら、その翌年に申告して「50,395,000円」を納税する必要があります。
月25万円(=年300万円)に対する贈与税額
次に、月25万円=年300万円に対する贈与税額を計算します。同じ式にあてはめて
3,000,000円-1,100,000円(基礎控除)=1,900,000円
1,900,000円×10%=190,000円
ということで、月25万円ずつ一生もらうと、その翌年から毎年「190,000円」を納税する必要があります。
つまり、1億円一括でもらうと50%以上も税金でもっていかれて手残りは半分以下。一方で毎月25万円もらうと、税金で19万円とられるけど、281万円(93%以上)は手残りになります。
だんぜん月25万円の方がお得ですよね。
ここまでで、何発かのパンチの応酬がありましたね。整理してみましょう。
一括で1億円をもらうより月25万円ずつもらった方が良い
毎月25万なんてバカね、1億円もらって運用、金融リテラシーだよ
1億円一括なんてバカね、贈与税知らねーの? 金融リテラシーだよ
2 インフレ知らなくて草
普通は、物価は上がっていく=インフレするので、将来もらえるお金の価値は、今もらえるお金の価値よりも小さくなります。
これ、わかりにくいですよね。ちょっとわかりやすく説明してみましょう。
今100万円をもらう
10年後100万円をもらう
どちらも「絶対に約束されている」としたらどっちを選びますか?
絶対に今ですよね、今100万円で車が1台買えるとして、今100万円をもらったら車は買えますが、10年後に同じ100万円をもらったとして、それで車が買えるかというと買えない可能性が高いですよね。
インフレで物の値段が上がっているからです。つまり、今の100万円>将来の100万円 だということです。
一方で、投資の運用利率を考えるルートもあります。
それを年4%くらいでうまく複利運用できたら10年で48%くらいの利子がつくことになりますから。
さてもう一つパンチが出ましたね。
一括で1億円をもらうより月25万円ずつもらった方が良い
毎月25万なんてバカね、1億円もらって運用、金融リテラシーだよ
1億円一括なんてバカね、贈与税知らねーの? 金融リテラシーだよ
現在の価値の方が高いんだよ、1億円一括が金融リテラシーだ!
ということは今もらえる1億円の方が、33年かけて1億円もらうよりもずっと価値が高いということになるでしょうか。
さて、いよいよどっちが良いのかわからなくなってきましたね。
3 試算
結局、月25万がいいのかい? 1億がいいのかい? どっちなんだい?
ということで、手を動かして計算してみましょう。ここからがヒヨコロの見せ場です。
3-1) 1億円一括の場合
まず1億円一括のパターンです。ここでは、全額を投資にまわして複利運用して増やすことを考えています。(金融資産の売買手数料は無視)
贈与を受けた1年目は、まず年間の上限360万円をNISAに突っ込み、残り9640万円を特定口座で運用する
1年間の運用リターンを5%(税引き後4%)と仮定する⇒1年目の収支は403万円の利益
贈与を受けた翌年に、4%の特定口座を取り崩して贈与税(5039万円)を納税
2年目から5年目まで、360万円ずつ特定口座からNISA口座に移動
25年後の資産額は1億4839万円
40年後の資産額は2億8265万円
3-2) 月25万円ずつの場合
次に月25万円ずつのパターンです。1億円パターンと同じく、全額を投資にまわして複利運用して増やす前提です。
贈与を受けた1年目は、300万円を全額NISA口座に突っ込む
1年間の運用リターンを5%と仮定する⇒1年目は15万円の利益
贈与を受けた翌年に、その年にもらう300万円から贈与税(19万円)を捻出
2年目から6年目まで、差し引き281万円の収入を全額NISA口座に突っ込む
7年目でNISA口座の枠は埋まるので、そこからは特定口座に突っ込む
25年後の資産額は1億3262万円
40年後の資産額は3億1230万円
うーん、すごく微妙な結果になりましたね。損益分岐点は33年目あたり、30才にもらったら63才、40才にもらったら73才あたりです。これだけで投資リテラシーの優劣を決めるのは難しそうです。
そして、現実的にはさらに複雑な問題があります。それが「生活」か「資産運用」のどちらを重視するかによって答えが変わるということです。
4 生活と資産運用、2つの視点
おそらくこのアンケートに答えた多くの方の考えは、次のようなものだと思います。
「月25万円(もしくは1億円の利回り)があれば、働かなくていいなぁ」
つまり、数十年後の資産額というよりは、今の生活の変化(働かずにどれだけ余裕をもって暮らせるか)を重視しているのではないでしょうか。
ということは、月25万円=税引き後の年281万円と、1億円の税引き後の約5000万円に対する運用利回りがいくらかということに落ち着くと思います。運用利回りが税引き後で年5.6%以上あったら1億円一括が有利だし、それ以下だと月25万円が有利です。
仮に運用利回りが4%程度だったとしても、寿命までの期間によって、1億円の税引き後の5000万円を受け取った方がゆとりがあるかもしれません。
また、資産運用に関する不確実性を好まない人は月25万円の安定収入を選ぶことになると思います。
それでも、34年以上生きれば月25万円がお得だという、この「リテラシー終わってる」と言われたツイートは結果的に正しかったことになりますね。不思議。
まとめ
さて、軽い気持ちで読み始めた「1億円vs月25万」ですが、意外な深みに落ちていったのではないでしょうか。
1億円を5%で運用したら良いじゃないか説
贈与税55%を考えたら25万の方が得だろ説
インフレを考慮し、現在価値が勝ちだろ説
そしてどっちも似たり寄ったりという意外な結末
2つの選択の間で何度も揺れましたが、結論は運用利回りやインフレ率、生活重視か運用重視かという前提次第で、どちらが有利にも不利にもなるということでした。
これをひと目見て「日本の金融リテラシー終わってて草」と、あなたなら言えるでしょうか?
大事なのは、金融市場や社会情勢の変化に合わせて、その場その場で計算できる力(執念)だったというオチです。
みなさんはどう思いましたか?
とりあえず「金融リテラシー」とか「バカ」とか、そういう人を小馬鹿にするのはやめるのが「自分の身のため」じゃないかなと思った一日でした。
それではまた、FP~(@^^)/~~~
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?