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自分の無知と傲慢を美しく突きつけられるー高嶺格「歓迎されざる者ー北海道バージョン」

暗闇の中、白く光ったり点滅したりするものが浮遊する。かすかに水の気配。目が慣れてくると床全体に水がはられているのがわかる。
その真ん中に据えられた椅子に腰かけてひとり朗読をする人。
波紋、炎、深く圧のある音が響く。

それらをわたしは高い場所から眺めている。朗読者は素足を水に浸したまま、詩を文を読み続ける。ときおり座り直す、足を動かす。するとまた拡がる波紋。
どんなに冷たかろう、シンとした地の底のような場所で読む言葉はどれだけ重かろうと思ってもわたしには何もできない。

なんでわたしだけ安全な場所にいて、のうのうとしているのだ? こんなに近くにいるのに遠い距離。断絶。届かないもどかしさにだんだん気持ちが悪くなってきた。

海辺に転がる流木は時々、乾いた骨に見える。洗われて白く軽くなった骨。暗い空間の中に浮遊するものの中には流木を模ったようなものもある。骨だ、と思った瞬間、周りにあるペットボトルやケチャップの容器などに見えていたものまで全部骨にしか見えなくなってしまった。

言葉が詰まった一冊を読み終えるのに2時間あまり。音として耳に入るものも胸を抉るような詩もあの空間の中に放たれて水や火の映像に溶けていく。そして、循環する。ひとつとしてなくならない。だから、考え続けなければと思う。

全て聴き終えたときには身体も心もガチガチにかたまり、冷え切っていた。

暗い空間から移動してくるとほっとするのも束の間。もっと尖った言葉が散りばめられていた。最後まで痛いのか。仕方ない、向き合おう。

たった3日間の開催。ほんとうなら当初の会期を全うしてもっと多くの人に感じて欲しかった。映像ではなくあの場に居合わせる重要さがあったと思うのだ。でも、わたしがもう一度みたいかと問われたら、正直なところ迷う。みられて良かったとは間違いなく言えるのだけれど。

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