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どうでも良くない毎日『そこから見た景色の話を』

~鑑賞レポート~

今回は、
イラストレーター水元さきのさんの作品集、『そこから見た景色の話を』、芸術新聞社2023年、
を鑑賞して思ったこと、考えたこと、感じたことを
つらつらとまとまりなく書いていきたいと思います。
(まだ作品集をご覧になっていない方で、先入観なく楽しみたい方は、ぜひ鑑賞してから戻ってきてください♪)

どうしてこの作品集と出会ったのか。

この作品集と出会ったのは、六本木にある「文喫」という本屋さん。
こちらは、私が大好きな場所で、たくさんの本に囲まれながらゆっくり過ごせるところです。
「文喫」については、また今度詳しく書きたいと思うので、今日は割愛!
私がその「文喫」に訪れたとき、水元さきのさんを紹介している一角があり、運命の出会いを果たしました✨

もともと、アートやイラストには全く興味がなく、
その日も活字の本を求めていました。
けれども、色彩と雰囲気、描かれている人の柔らかい表情が目に留まって、
何気なく作品集を手に取りました。
ページをめくる度に、ほんわかした気持ちになったり、懐かしい気持ち、寂しい気持ちになったりしました。
殺伐とした人間社会に生きていると、
感じることや心を動かすことに疲れてしまって、
気が付けば心を凍結してしまいます。
そんな凍った心に優しく入ってくる感じがしました!
イラストでそんな経験をしたのは初めてで、すぐに購入を決めました。

ほんわかした気持ち

まずほんわかしたページですが、
42ページです。
一人がコーヒーをいれていて、もう一人がそれを見ているシーンです。
ただコーヒーをいれているだけの場面で、
言葉は何も書かれていませんでしたが、
いろんな会話を想像しました。
朝だったら、今日どんな一日を過ごす予定なのか。
昼だったら、休憩時間で最近の関心について。
夜だったら、今日どんな一日を過ごしたのか。
どれであっても、普段の何気ない一コマです。
何気ない一コマだけど、誰かとコーヒーの香りの中で、
今日という日を生きていることが特別に思える作品でした。

懐かしい気持ち

次に懐かしい気持ちになったページですが、
8~9ページです。
小学生の女の子が、もう寝る時間で、
布団の中に横になっているけれど、
夢中になっていることに心躍らせて、
全然眠れないシーンが描かれています。
私も小学生のとき、大好きな本やアニメのことを考えて、
全然眠れなくなったことがありました。
そうやって何かに夢中になって、
眠れなくなって、わくわくしたりドキドキしたりできるって、
とても幸せなことだなって思います。
大人になると、関心よりも責任が生活を支配して、
いつしかわくわくもドキドキも薄れて、
心がやつれてしまうなって思いました。
懐かしい気持ちがよみがえって、自分の心が少し豊かになった気がします。
懐かしい気持ちを取り戻せて嬉しかったです。

寂しい気持ち

実はこの寂しい気持ちになったページがとても多かったのです!
どうしてこんなに寂しい気持ちになるんだろうと思っていたら!
あとがきでご本人が「寂しさ」について語っていました。

「生活」をテーマに描いてこられて、
その背景には、「生活」が誰にとっても等しくかけがえのないものであるというお考えがあるそうです。
その思いに至る多くは、「寂しい」という感情の中で培われたのだとか。

寂しくてどうしようもない日々でも、生活は続く。
生活だけは続くのか、と思ったのです。

水元さきの著『そこから見た景色の話を』芸術新聞社2023年198頁

だからなのか~!と納得しました。
常に私の寂しさ、人の寂しさに寄り添う何かを感じ続けながら、
ページをめくってきました。
寂しいという感情がとても理解されているような気持ちになりました。
もちろん、それぞれが毎日の生活の中で経験する寂しさは、
多種多様であり、全く完全に理解することはできないと思います。
けれども、自身の経験に基づいて、寄り添うことはできるのではないかとも思います。
そんな、優しさを作品から感じました。

そして、寂しいと思うからこそ、
今日の自分、今日という日、今日出会った全てにお別れを告げないといけないからこそ、
今日の自分、今日という日、今日出会った全てが尊いもので、
どれ一つとってもどうでもいいものはないのだと、
気づかされました。
最後に引用で終わりたいと思います🌟

どうでもよかった日なんて、一日もなかった。

水元さきの著『そこから見た景色の話を』芸術新聞社2023年180頁


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