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ジャズを"聴く"体験をもっと面白くするために"読む"本

はじめに

この記事は以前やっていたブログで、2017年に「ニューチャプター以降”について書くために読んでおきたい参考文献」というタイトルで書いた記事の増補改訂版です。

当時の前書きがこちら

「ジャズライターになるには何読めばいいですか?」ってきかれるのですが、王道については山ほど入門本があるのでまずは適当に買って読めばいいと思います。王道は押さえた上で、”ニューチャプター以降”な人達について書く時に読んでおきたい本をまとめました。実際インタビューにいくと「今ハマってるのは、バルトークとバド・パウエルとSon Luxかな」とか「カエターノ・ヴェローゾがさぁ」みたいな人が多いので、こういう脇道の話がわかってないと厳しい場面が多いです。『Jazz The New Chapter』だけでは押さえられないところはこのへんで補っておきましょう。もちろん読むより聴くほうが大切です。

ここから3年が経って僕としても面白い本がさらに増えたことと、「これって別に書く人だけが読まなくてもいいよね」という気持ちになったので増補改訂版の記事を書きました。僕のポリシーというか信念として、「良い評論は聴く体験を変化させる」という思いがありまして、ここにあげた本たちは皆、その後の音楽体験をちょびっと変えてくれるような本です。

『Jazz The New Chapter 6』も出たことだし、この機会に音楽書を読み漁ってみてはいかがでしょうか。


王道ジャズについて知る

まずディスクガイド的なところからいくと、こちらはすでに絶版のようですが村井康司『JAZZ 100の扉』が、ビバップ〜現代までのディスクガイドとして非常になめらかで偏りが無くおすすめです。鈴木良雄『人生が変わる55のジャズ名盤入門』は、プレイヤーでもある著者の目線がいわゆるジャズ評論家やリスナーとはちょっと違って面白い。

読み物としては村井康司『あなたの聴き方を変えるジャズ史』が分厚いですが非常に網羅的です。


ヨーロッパのジャズについて知る

一口に”ヨーロッパのジャズ”といっても、文脈によって北欧のジャズを指していることもあれば、イタリアやフランスのレア盤をさしていることもあれば、UKのアシッドジャズを指していることもあります。

現行の北欧系ならオラシオ『中央ヨーロッパ 現在進行形ミュージックシーン・ディスクガイド』を。ジャズロックも含めたレア盤系なら小川充『JAZZ MEETS EUROPE』がおすすめです。


拡張したジャズについて知る

原雅明さんの著作は、いずれもジャズとそこからシームレスにつながる他ジャンルが並行して存在するものとして書かれていて新鮮です。とくにTortoiseを始めとするシカゴ音響派、ポストロックや、カマシ・ワシントンをはじめとするLAのジャズシーンとビートミュージックなどは、雑誌『FADER』をやっていた原さんならではの視点があってわかりやすい。


クラブ・ジャズについて知る

避けては通れない「クラブ・ジャズ」というジャンル。ならではのサウンドはもちろん、2020年のいまではこのあたりは"クラブでのジャズ受容史"としても読めると思います。


アメリカの音楽/黒人音楽の歴史について知る

基本的にジャズはアメリカで生まれた音楽です。その後の発展を考える上でもアメリカ音楽史は結構重要な知識になります。

大和田俊之『アメリカ音楽史』はもはやクラシックといってもいいほどの名著。もうちょっと気楽に読みたい人にはジェームス・M・バーダマン, 里中 哲彦『はじめてのアメリカ音楽史』が、新書だし対談形式だし読みやすいです。

また、ソウル、R&B、ヒップホップはどれも重要です。

僕はネルソン・ジョージの著作が好きなのですが結構絶版が多いです。でも古本屋を探せば結構ある印象です。

ネルソン・ジョージ『ヒップホップ:アメリカ』は2000年代の頭までしかカバーしていないので、それ以降については『ラップ・イヤーブック』、あるいはもっとポップに『ライムスター宇多丸の「ラップ史」入門』もおすすめです。いずれも読み物なので、ディスクガイドも一つあると便利でしょう。

クリス・デイヴをはじめ、現代ジャズのびーと部分に大きな影響を与えているJディラについては、研究本が出ているのでこちらもオススメ。


もっと他のジャンルについて知る

クラシック、ブラジル音楽、現代音楽、テクノなど、"ジャズ周辺"というくくりでもかなりたくさんの音楽が入り混じっているのは『Jazz The New Chapter』を読んでいるみなさんなら何となくわかると思います。僕もたくさん読んだのですが、中でも面白かったものを。


まずクラシックはこちらの2冊。新書でサクッと入門したあとに、現代音楽について知りたかったので読みました。いわゆる「20世紀音楽」的なものは、特にピアニストにインタビューすると必須の知識だったりします。


ポストロックは原さんの本とも重なるところですが、とくにシカゴのポストロックなんかはジャズと結びつきが強いです。あとはゼロ年代のインディーシーン、さらにテン年代のシーンもざっくり理解しておくといいかなと。


南米の音楽、ブラジルやアルゼンチンの音楽は本当にこれといった本が未だに見つかっていません。入門書を読んだらディスクガイドを買って色々聴いてみるのが良いのではないでしょうか。



番外編:日本のジャズについて知る

日本のジャズ、戦後まもなく〜現代までの歴史はとにかくおもしろいです。新宿ピットインなど老舗のライブハウスや四谷いーぐるなどジャズ喫茶で話を聴くのものよいですが、本で読むのも面白い。相倉久人さんの『至高の日本ジャズ全史』は、戦後からジャズを追ってきた著者の貴重な体験談が盛りだくさんで裏話的なものもあり。『証言で綴る日本のジャズ』は、ミュージシャンだけでなくジャズ喫茶の店長さんや評論家の話も載っているのが面白いです。



番外編:テクニカルにジャズを聴く

菊地成孔・大谷能生の著作での音楽理論を援用してテクニカルに評論していくという手法は、その後のジャズ評論にかなり影響力を持っています。こちらは文庫になっているのでかなりお求めやすい。

理論を使いながら非プレイヤーでも読んで楽しめるものは最近も出ていて、岡田暁生, フィリップ・ストレンジ『すごいジャズには理由(ワケ)がある──音楽学者とジャズ・ピアニストの対話』、井上裕章『ジャズの「ノリ」を科学する』なんかはポップで面白いです。

理論系のなかでもかなり重めですが、濱瀬元彦『チャーリー・パーカーの技法――インプロヴィゼーションの構造分析』はめちゃくちゃおもしろいです。高いし本もでかいので僕は図書館でかりて読みました。



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