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これはみんなほんとうのおはなし
森を抜けるために、たくさんの嘘を吐いた。わたしはとても上手に嘘を吐いた。本当のことはなにひとつ持ち出すことはできなかった。どのみちわたしは本当のことなんてなにひとつ話さない。
わたしたちはふたり、連れ立って歩いた。前を行く彼の背中を見ながら、ときどき誰かが口ずさむ歌のほかは、ふたりともなにも言わなかった。落っこちていく歌だった。転げまわる歌、ねこじゃらしとアザミの歌だった。
森は暗く鬱蒼とし
宛先が見つかりませんでした
1.
あなた宛てに緊急の連絡があった、と机の上に書置きが残されていて、それを読んで慌てて席を立ったので私は仕事を失った。
手紙以外のものがチューブから吐き出されるのを初めて見た。後任の者を遣るから説明をして速やかに部屋を出るようにというその薄い紙一枚を読み終わるかどうかという内にはもうノックが聞こえ、私と似たような、しかしやはりどこかが決定的に違うような雰囲気の女が所在ない様子で立っていた