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あの感動に会いに行く。ー上野の森美術館で開催中のモネ展ー

ある風景を見た時、
きれいだなあ、この映像を写真に残したい!と
カメラのシャッターを押すことがあります。

しかし写した画像をみて、
あれ?なにかが違うと思うことがよくあるのです。

眼に映った画像と、写真の画像とでは
色が違うような、奥行きが違うような・・・
あの時感動した光が写っていないような気がして、
がっかりするのです。

でも今回、モネの絵をみて、ハッとしました。
あの、感動した時の光だ、と。

そうか。だからモネの作品を見るとうっとりするくらい気持ちがいいのだ。
だからモネの絵が好きなのだ。

そんな考えがパッと頭をよぎり、
なんだか長年の不思議さが解決したような気がして嬉しくなりました。

モネの絵には、
風景を見て感動した時の光が
作品全体からあふれているのです。

たしかに、
モネは光を愛し、光に憧れた画家だったといいます。

モネはどんなふうに
あの輝かしい「光」を表現しているのでしょうか。


今回の展覧会ではモネの絵画の特徴ともいえる「筆触分割ひっしょくぶんかつ(色彩分割)」をじっくりみてみたいと思いました。

さて、それはどんな描画法なのでしょうか。

太陽の光は白色にみえます。
しかしプリズムで分解すると様々な色の光が含まれていることがわかります。
その中には黒は存在しません。
だから、自然界には「絶対黒(まっくろ)」は存在しないとして、作品のなかで全面的に黒色を使うことを禁止しました。

それだけでなく、明るい色の絵の具も、
何色も混ぜ合わせていくとだんだん暗くなり最後には完全な黒になることを考え、原色かそれに近い色を使用すること、そして、色を重ねるのではなく、細かな筆で隣同士に配置し、細かなタッチで目の錯覚を起こさせるという方法を考え出しました。印象派の画家たちはこれを「視覚混合」または「網膜上の混合」と名付けました。

また、色を作る時の決まりも考えました。
赤、青、黄を色の三原色といいますが、色を作る時は
その三原色をそれぞれふたつずつ混ぜ合わせた時に生じるオレンジ、紫、緑の第一次混合色までとし、3色以上混ぜることは黒になると考え、暗い部分にも青や紫を使うなど、黒という色彩をとことん追放したのです。

さて、その技法を確認すべくモネの絵を鑑賞すると、
なるほど、混ぜ合わせた色ではなく、隣に置いた色の効果で深みのある色をしっかりとみせてくれています。

そしてこれらの部分を全体の絵として離れてみると
しっかりと色が混ざり合ったようにみえ、全く違和感なく調和しています。
印影まで丁寧に描いているようかのようにみえるのには驚かされます。

①、②ともこの作品の一部
③「睡蓮」1914〜17年
アサヒビール大山崎山荘美術館(京都)
※今回の展示にこの作品はありません
④「ラ・グルネイエール」1869年
メトロポリタン美術館(ニューヨーク)
※今回の展示にこの作品はありません

わあ。この水の表現なんて、ほんとに写真のようにみえるのに、実際には色そのものを隣り合わせに置いているのですから、この技法でこんなにうまくいくとわかった時は嬉しかったのではないかなあ!



18世紀から19世紀のヨーロッパは産業革命とフランス革命があった時代であり、美術の世界でも革命的な転換期でありました。

それまでは風景を描く時でさえ、記憶をたどりながらアトリエの中で描かれることが普通でしたが、アトリエにこもりきりで作業することをやめ、戸外に出て自然の風景を描こうと試みた画家たちがでてきました。
彼らは、総称として「外光派がいこうは」と呼ばれ、それぞれの活動拠点にちなみ、「バルビゾン派」と「サン・シメオン派」呼ばれました。

モネは「サン・シメオン派」のウジェーヌ・ブーダンとヨハン・バルトルト・ヨンキントを師と仰ぎ、戸外制作に励みました。

ウジェーヌ・ブーダン「ル・アーブル港」1886年頃
ボストン美術館
※今回の展示にこの作品はありません

1859年の春、父親の反対を押し切ってル・アーヴルからパリにむかったモネは画塾やシャルル・グレールのアトリエで絵を学び、そこでルノワールやシスレーとも知り合います。
1865年には、当時画家としてのほとんど唯一の登竜門であったサロン(官展)で初入選をはたし、より野心的な作品を描き始めました。

順調な滑り出しと思われましたが、しかしその後は落選し続け、アカデミスムに反旗をひるがえすも、1880年に1点入選した後は、サロンへの出品をとりやめ、活動の中心を個展に移していきます。

モネは酷評にもめげず、独自の表現方法を追求し、風景画の新たな手法を模索し続けました。
モチーフの造形そのものではなく、外光によってもたらされる色の移り変わりを探求し、後にそれが「連作」としての作品につながっていきます。



もう25年以上も前、わたしは交通事故にあい、その時に得た慰謝料で、母を誘ってパリに向かいました。母は絵を描くことが好きで、趣味でずっと油絵を続けていました。若い頃はパリに行きたかったなんて話も聞いたことがあり、ああこのお金で連れて行ってあげたいと思ったのです。

その時、オランジュリー美術館にいって、モネの「睡蓮」を堪能しました。
来場者は全くいませんでした。
静かな白い室内で、母と二人ゆっくりと鑑賞し
モネの想いに包まれるような、睡蓮の浮かぶ水辺にたゆたうようなやすらぎを感じたことを覚えています。

今回の上野での展覧会はモネの「連作」ときいて、
あの感動にまた会える?と心がときめきました。

「睡蓮」の連作は、もちろんオランジュリー美術館のようには数多く見れませんが、「積み藁」「チャリング・クロス橋」「ウォータールー橋」「睡蓮」、また、「クルーズ渓谷」の「曇り」と「日没」の作品もあり、モネの連作シリーズの種類がこんなに一度に集められたのは初めてではないでしょうか。

しかも「連作」しかないかと思っていたところを、思った以上に多くの風景画や静物画まであり、ああこの作品が本物でみれるなんて!とびっくりしました。

モネの挑戦と絵に対する情熱を
しっかりと満喫できる展示になっていました。

また、個人的には、今回の展示で期待していた作品がありました。「雪」を描いた作品です。モネは、雪をテーマに何作品も手がけているようなのですが、一作品だけでも見ることが出来たらいいなあと思っていました。

「カササギ」1868年〜69年
オルセー美術館
※今回の展示にこの作品はありません


というのも、先日娘がロンドンに行った時に行ったナショナルギャラリーにて「おみやげ」として買ってきてくれたポストカードがモネの「雪」を描いた作品で、
一目見てとても好きだなと感じたのです。

※今回の展示にこの作品はありません

わたしはいままでモネの「雪」の作品を知りませんでした。陽の光に満ち溢れた作品ばかりみてきたように思い、先入観からか気づかなかっただけかもしれません。

今回の展示には「雪」にかんする作品は3点ほどあり、
ポストカードがあったものを1枚購入いたしました。

「雪のアルジャントゥイユ」1875年
国立西洋美術館 松方コレクション

わあ!これなどは日本で、しかも上野でみることができる作品だったのですね!観に行かなくては!

「ジヴェルニーの風景 雪の効果」
今回の展示の中で撮影が許されていた作品

モネの雪は実際には白色だけでなく、どちらかというと青であり、印刷では感じられない色と光が輝いておりました。
モネは戸外にイーゼルをおいて、髪の毛が凍るような寒さのなか描き続けたのだそうですが、絵画のテーマとして「雪」という題材は人気があるようで、モネの場合も「雪」をテーマにした作品は当時の経済的困窮から救ってくれた救世主でもあったようです。

雪の色にもみられるように、
本物をみることで光の表現をよりわかりやすく感じられたことは今回の大収穫でした。

また、いままで印象派絵画は「優しくてきれいな絵」というイメージをもっていましたが、
それだけではない、
風景画の存在価値を変えようとするかのような画家の情熱を知り、
当時の模範的な古典絵画の世界を打破するべく革新にみちた歴史の一コマがここにあるのだとということを改めて考えさせられました。

モネの魅力が光とともにちりばめられた展覧会です。
是非皆さまもこの機会にお出かけ下さい。

「モネ連作の情景」
東京展
2023年10月20日(金)~2024年1月28日(日)
上野の森美術館 JR上野駅公園口より徒歩3分
9:00~17:00(金、土、祝日は~19:00)
休館日:2023年12/31(日)2024年1/1(月・祝)

大阪展
2024年2月10日(土)~5月6日(月・休)
大阪中之島美術館










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