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掌編小説マガジン 『at』

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掌編小説マガジン at(あっと)。 これまで、ななくさつゆりがwebに投稿した掌編小説を紹介していきます。 だいぶ増えてきました。 そのうち春夏秋冬やシチュエーション別にまとめ… もっと読む
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記事一覧

情景236.「気だるい静けさ」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「けだるい静けさ」です。 ふしぎと、小雨や曇りの印象がつよい。 ここからあそこまで、結構離れているんですよね。 だからみんな、妙な静けさを保ったまま、じっと着くのを待ってる。 静けさにも色々。 耳がキィンと鳴るような、淀みのような静けさを感じたことってありますか? どこかぎこちなくて、なんとなく居心地がよくない。 だけど、やることは決まっているから、流れに沿って進んでいくだけ。 こういうとき、空はふしぎと

情景288.「人差し指と中指にだけ」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「人差し指と中指にだけ」です。 隙間から漏れ入るように差し込んでくる陽のひかり。 お気に入りの光のかたち。 私は、情景描写において光と風をよく使います。 光も影も、常に在るものですから、日頃ふと目に留まった光のかたちはなんとなく記憶してしまいがちで、地の文を書くときにそれを取り出し、文章にふりかけるように使ってしまうようです。 おかげで私は、手クセで地の文を書くと、光や風がつい出がち。 それで、光の話なの

情景243.「霧雨の日」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「霧雨の日」です。 霧雨と、けぶるもや。 広がる海はもやに飲まれ、その先は不明瞭なまま。 先の見えない不明瞭さを、霧雨のもやを眺める男女の関係に重ねてみる。 長谷川等伯の松林図屏風。 けぶるもやと場の湿度を感じさせる、とても好きな情景です。 現物は以前、九州国立博物館の特設展でたまたま拝見することができました。 魅入っちゃいますね。 ぼんやりとしていて、曖昧な有り様。 ただ、先には何かがあるのだろうと、そう

情景90.「男子ってやつか」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「男子ってやつか」です。 登校の情景。 校門の坂道を立ち漕ぎで颯爽と登りきっていく、朝の男子。 無限の体力の産物かとおもいきや……。 ご明察の通り、坂だったんですよ。 私の通っていた高校。 丘の上にあって、どこから入ろうと毎朝坂を登る宿命にある高等学校でした。 福岡の西の方にあるんですけどね。 ちなみに、最寄り駅からでも歩いて20分はかかります。 自転車通学でも電車通学でも、毎日ちょっとした運動でして、お

情景262.「シュパァっと走る」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「シュパァっと走る」です。 オノマトペの話。 “シュパァッ“て、走る。 なんだか、漫画的な擬音語ですね。 小説やエッセイ、漫画を手掛けられているみなさんに質問です。 オノマトペ、使ってます? 漫画ではほぼ必須ですよね。 エッセイでも、文章に面白みを出すためにしばしば用いるかもしれません。 では、小説だとどうでしょう? 地の文にオノマトペ、入れますか? 私の場合、書いている内容と読んでくださる方の属性次第

情景10.「カフェの壁を飾るもの」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「カフェの壁を飾るもの」です。 カフェの情景。 文字通りの紅一点。あざやかに映えるものなんだなって。 紙の本には、読んで楽しむ以外にインテリア的なおもしろさもありますよね。 私自身、子供の頃から本棚というモノ自体が好きでした。 かつて、はじめて自分の部屋というものを与えられたとき、壁際には大きな本棚が備えついていました。 その本棚は、引っ越しの際に母方の実家から譲り受けたものだそうで、叔母の結婚の際に大工さ

情景34.「紙障子の向こう」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「紙障子の向こう」です。 座卓でペン一本。 ざぶとんにあぐらして原稿に向かう。 そこに照りを添えてみたかった情景。 ところで、紙とペン、さいきん使ってます? 小説やエッセイは、紙とペンさえあればできる創作活動ですが、最近はなんでもパソコンとスマホで済んでしまうので、むしろ紙とペンを使う機会が減っているのかもしれませんね。 私の場合、アイデアを書き出したりする際にペンを走らせますが、それも最近はパソコン上で

情景109.「二個のマグカップ」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「二個のマグカップ」です。 コップとか、パソコンとか。 そういう無機物を指して「この子」と呼ぶ。 そんなクセが、私にはある。 なんででしょうね。 いつからかはもうわかりませんし、なぜなのか、きっかけはなんだったのかももう思いだせません。 ただ、すごく馴染むんですよね。 “この子”呼び。 なんなら、“このコ”くらいのカジュアルなニュアンスで呼んでいます。 なんだか、所持物というよりも、仲間のひとつみたいな。

情景01.「白雲」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「白雲」です。 葉桜の緑が陽を透かすようになり、暖と涼を交互におぼえる過ごしやすい季節になりました。 ちょうどいいからこのタイミングで、はじまりの情景にふれたいと思います。 白雲。 241文字の掌編小説。 『あなたが見た情景』は、日常にそった情景を書き連ねていくものでした。 文章に触れることであなたの中にある景色に触れてもらえるような、そんな小さなお話の集まりです。 その象徴のような最初の話です。 たった

情景287.「朝、黙想」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「朝、黙想」です。 和室にて、朝の情景。 現代から少し時代観を遡った風。 “堅めの文章”に感じるかも。 ところで、黙想ってしたことあります? 剣道をしていたとき、始めと終わりに先生が「黙想(実際には“もぉくそぉーう”って感じの響き)」と声をかけて門下生が1分間の黙想をする……というルーティンがありました。 いまはメンタルケアやマインドフルネスの考え方が浸透してきて、そのアクティビティも活発ですから、以前よ

情景239.「風車村の朝支度」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「風車村の朝支度」です。 朝、ひざしと風を浴びる。 恵風が羽をなびかせ、風車が回る。 風車の“まわるアレ”って、羽(羽根)って言うんですね。 続きものとして「情景239【風車村の朝支度】」と「情景240【風車村で音を聴いて】」を覧ください。 このお話は、情景にある「音」を気にしながら書いていました。 ほら、文章って音が鳴らないでしょう? でも、“よい情景”というのは、音がするし光はあるし風はそよぐし、匂い

情景238.「雨中のキノコ」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「雨中のキノコ」です。 雨中のキノコ。 雨後のタケノコではなく。 ……雨中のキノコって、なに? 春って意外と雨が降りますよね。 冬の気配は薄れ、浅い春のきざし……なんて言葉も使いたくなる含みある空気に透いた空の頃ではありつつも。 もちろん、スカッと晴れる日もあるのですが、案外スッキリしない天気の日もあって、そろそろ桜も咲いてくるのに大丈夫かなァとか思ってしまいます。 雨の降る中、テーブルをバッシング中の

情景233.「道ひとつ挟んだ向こう」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「道ひとつ挟んだ向こう」です。 はじめて通る道が好き。 晴れた土曜日の裏通りとか。 いつからだったかな。 学校の帰り道とか、駅から家に帰るまでとか。 通ったことのない道を通ってみたくなっちゃうんですよね。 そういう感覚、ないですか。あると思う。ありますよね……? 通るときはたいてい人通りもなく、日が通っていて風だけが吹いているような、そんな穏やかな通りになっている場合が多かったような。 歩いて通り抜けたり、

情景60.「狐の瞳」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「狐の瞳」です。 光のゆらぎ。 水のゆらめき。 火のぐあい。 目を瞠る瞬間というものに気づく。これが思いの外きもちいい。 これを偶然という言葉で片付けていいものか、というのは一旦置いておくとして。 天気だったり、時間帯だったり、場の温度や湿度だったり、その場にたまたまいた自分だったり。 そんないくつかの要素がたまたま重なることで作用する一瞬の出来事。 もしくはそこで起きたことの気づき。 そういうものに気づ