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ByteDance退職エントリ、エンタープライズSaaS日本事業責任者としての立ち上げ秘話

こんにちは、志村です。先日、エンタープライズSaaS事業の責任者として勤務していたByteDance株式会社の最終出社日を終えました。

世界最大ユニコーンであるByteDance。有名なのはTikTokですが、ByteDanceが力を入れていたB2B SaaS事業での日本事業立ち上げにも隠れたストーリーが多くあります。ByteDanceで感じた学び、課題を振り返りとともに記しておきたいと思います。

特に外資系SaaS企業の立ち上げに関心がある方、日本のSaaS事業立ち上げに携わっている方に参考になれば幸いです。


1. なぜ入社したか?

前職は、エンタープライズRPAのグローバルリーダー企業であるBlue Prismという会社で日本事業の立ち上げに従事していました。

イギリス人の日本法人社長とともに戦略策定や組織設計を行うかたわら、プリセールスからプロダクトマネジメントやカスタマーサクセスまで幅広く職務を担当する部門を統括していました。

また、入社初年度に日本でもっともインパクトのある商談をメイン担当として受注したため、年に一度のグローバルセールス会議にて全社員の前でそのストーリーを英語でプレゼンさせてもらうなど、とてもやりがいのある環境でした。

そのような状況だったので転職活動はしていなかったのですが、たまたまByteDanceの中の人とお話する機会があり、これから会社として初めてB2B向けのプロダクトである「Lark」を立ち上げようとしていること、そしていまその初期メンバーを募集していることを聞きます。

当時から世界最大のユニコーンとして有名だったByteDanceがいったいどんなプロダクトを出すのか興味をもった私は、本社にいるLarkのグローバル事業責任者とビデオ会議の場をもたせていただき、プロダクトの概要や将来のビジョンを聞いたり、「私ならこうやって日本市場を開拓する」というアイデアを共有・ディスカッションしたりしました。

そこでお互いよい印象をもったため、とんとん拍子に話が進み、私はLarkの日本チームのリーダーとして期待され入社することになりました。愛着のあったBlue Prismを退職することは非常に残念でしたが、いま振り返ってみると、新しいことにチャレンジすることが好きな私にとってこれは運命的な出会いだった気がします。

ちなみにLarkは、6万人以上といわれているByteDanceのグローバル全社員が社内コミュニケーションのために毎日使っているSaaSアプリで、チャット・カレンダー・ビデオ会議・オンラインドキュメントなどの機能をもつ統合型コラボレーションツールです。

自社の急成長に合う既存のプロダクトがなかったため、社内の優秀なエンジニアが開発したものですが、あまりにデキがよいため外販をはじめたという経緯があります。

とても使い勝手がよいので、興味のある方はぜひ以下をご覧いただければと思います。いまサインアップすると基本機能が無期限無料で使えます。

2. 何をやったのか?

Larkの日本市場向けGo-to-Market(GTM)戦略に関してはいろいろと仮説はありましたが、最初の1か月はなるべく多くのお客様に会って、プロダクトに関するフィードバックを集めようと考えました。

私も含めたチームメンバーの過去のコネクションや、ByteDance社内(特にTikTokの広告営業チーム)の既存コネクションを活用させてもらい、業界や企業規模を問わず、とにかく毎日たくさんのお客様を訪問しました。

そこで得られたお客様の声や本社の意向を反映し、最初のGTM戦略・ビジネスプランを作成しました。詳細については守秘義務があるため割愛しますが、Larkは日本ではまったく知られていなかったので、マーケティングでは展示会出展、セミナー、SEM、記事広告、プレスリリースなど定番の施策を行っていきました。

特にプレスリリースは、PR TIMESで定期的に配信することで様々なメディアに転載・掲載され、そこからインバウンドリードが入ってくるのでオススメです(以下はその一例)。

※GTMの作り方やマーケティング・セールスのノウハウなどについては、下記noteでも1万字以上で解説をしたのでよかったらご覧ください。

マーケティング活動から得られたインバウンドリードに加えて、営業のアウトバウンドで作った案件に対してひとつひとつ丁寧にトライアル支援を行い、着実に顧客数を増やしていきました。

その結果、立ち上げ半年で、従業員数1000名以上のセグメントでも全社導入の実績を作ることができました。

3. 学んだこと

私が過去に在籍していたSalesforce・Box・Blue Prismなどの会社では、主に営業やアライアンス系のノウハウを学んできました。

今回はじめて、業界経験が長くデジタルマーケティングも得意なマーケティングディレクターと一緒に戦略やプランを作成させてもらったことで、日本市場の立ち上げに必要な知識が包括的に身につけられたと感じています。

また、日本の状況を踏まえた私の考えと本社の意向に差があることも多かったので、状況の説明、新プランの提言、予算や採用ヘッドカウントのリクエストなどについて本社メンバーとディスカッションを重ねたことで、外資系企業における日本事業の責任者に必要なコミュニケーションスキルも高められたと思います。

※外資系のコミュニケーション術については下記noteにまとめましたので、こちらもよかったらご覧ください。

会社のカルチャーについては、私は2回ほど北京の本社に出張で行きましたが、とにかく20代の若い人が多く、皆猛烈に働いていました。ハードな環境で自分を高めたい人が集まっている印象です。

仕事以外の面でも、Alipay、DiDi、Luckin Coffeeなどを実際に利用してみたのですが、どれもユーザー体験が素晴らしく、社会全体で最新テクノロジーを活用・推進している中国という国の勢いも強く感じることができました。

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4. 課題に思っていたこと

今回SaaSの新規事業をやってみて改めて感じたことは、エンタープライズ市場を攻略するにはGTMとプロダクトの両輪がともに重要ということです。

いくらマーケティングや営業が強くても、プロダクトやそのポジショニングが対象市場に合っていなければ苦戦は必至です。

すでに世の中に存在するカテゴリーで他社が先行して大きなシェアを取っている場合、よっぽどのROI・差別化要素がない限りリプレースはできません。大企業であればあるほど、その傾向は強くなります。

なぜなら、何かのツールを全社導入している企業のIT部門からすると、ユーザーの再教育などチェンジマネジメントのコストを考えたらなかなかリプレースには踏み切れないからです。

Larkと同じカテゴリーでよく比較検討されていたOffice365/Teams(O365)は、日本のエンタープライズ市場ではすでに圧倒的なシェアを握っています。

それをリプレースするのは難しいと考えたため、O365ユーザー以外のお客様のターゲティングと並行して、Larkがとるべき新たなプロダクト戦略について本社とディスカッションを重ねたのですが(私の提言は「共存」のためのコネクタ開発とAll-in-Oneからのポジショニング変更)、私が在職中に大きな進展はありませんでした。

これらの経験から、本社を動かせなかった自分の力不足を痛感するとともに、起業家やリーダーには以下の着眼点と実行力が必要になると強く感じるようになりました。

・既存カテゴリーの場合、ポジショニングの優位性をいかに築くか?
・新カテゴリーの場合、独占可能なニッチ市場をいかに発見・創造し、拡大していくか?

5. 次に向けて

Larkについて少しネガティブな話も書いてしまいましたが、SMBセグメントでは、IT予算が限られているためコラボレーションツールを未導入のお客様もまだ多く、意思決定者にすぐにコンタクトできることもあってビジネスは非常に好調でした。今でもどんどんユーザー数を伸ばしています。

ただ、SMBでは好調とはいえ、私はずっとエンタープライズ向けに提案活動をやってきましたし、今後もやりたいと思っていました。

本社とのディスカッションになかなか進展がない中、私が課題に思っていた「エンタープライズ向けの新たな市場創造」をまさにこれから行おうとしているシリーズA段階の日系SaaSスタートアップと今回ご縁があり、11月からそこでお世話になることに決めました。

外資系とは違い、日系の場合はプロダクト戦略にもより密接に関われます。新たな市場の創造とスタートアップの成長、非常にチャレンジしがいのある仕事になりますので、次も全力で頑張りたいと思います。

今後も外資系SaaSユニコーンの日本事業立ち上げ経験などから、日本のSaaS成長に役立てる発信をしていこうと思いますので、もしよければnoteTwitterをフォローいただけますと幸いです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!


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