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【第18話】園内研修だけじゃだめなんですか①

栗田は二人に一つの提案をした。

「それでは、今後職員間で対話ができるような機会をつくることは可能ですか?」

「どういうことですか?」今度は園長が質問した。

「先程のお二人のお話から、今回の研修で職員の皆さんは、お互いの保育への思いに気づき語ることの大切さを感じられたのではないかと思います。その小さな変化を促す仕組みを一緒に考えたいのです」

「園内研修だけじゃだめなんですか?」と順子は、思っていることを躊躇なく言葉に出していた。裏表のない人、と慕ってくれる友人は多いが、自分では無意識にやってしまうこともあり、短所だと感じていた。しかし栗田は、特に気に障った様子もなく応えた。

「そうですね。特に参加・対話型の研修は、直後に参加者の満足度は高くなり、一時的に変化もします。お互いに自然と対話する機会も増えるでしょう。ただ、それだけでは組織の変化は期待できません。研修で生まれた変化を促進するための仕組みが必要なんです」


順子は栗田の言ったことを理解しようと努めた。たしかに、昨年度順子自身が企画し実施した安全・衛生に関する園内研修を行った直後は、職員に子どもたちの安全・衛生に関して意識的に取り組もうという姿が見られた。
しかし、2ヶ月後には、研修前の状態に戻ってしまったように感じられたことを思い出した。

「また同じような研修を何回か続けていただいて、職員同士が話し合う機会を持つ、というのではだめなのでしょうか?」

今度は油井園長が先程の順子と同じような質問をした。

油井園長は、自分たちの仕事が増えることと、変化に対して自分たちが責任を持たなければならない状況が生まれることを避けたいと思っていた。

外部に委託すれば自分たちは何も努力しなくても職員が変わり、保育の質が向上するという期待があったのだ。そのため、できれば栗田にすべてを委ねたいというのが本音だった。

栗田は続けた。

「もちろん、今後も私が継続的に園内研修を実施することは可能です。今回の研修では、先程水澄先生がおっしゃった通り、職員同士の相互理解が進み、積極的に対話しようとする姿勢が生まれたかもしれません。それならば、そのような姿勢をさらに促進する仕組みを考えみたいのです。いかがでしょうか?」

「わかりました」と順子は答え、油井園長もうなずいた。

「ストーリーで読むファシリテーション 保育リーダーの挑戦」一覧はこちら
https://note.com/hoikufa/m/mdab778217cb1

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